第二章ー11
◆◇◆
「紛れ込むのも苦労するんですが」
「悪いな。苦労かける」
黒江たちが去った生徒会室にて。
樋春の背後に佇む一人の少女。
「やはり、私には見込みがないように思えます」
「鬼ごっこか?」
「はい。あなたを相手にして三十分逃げ切れとは言いませんが、捕まるのが早すぎます。あれでは――」
「どうだろうな?」
少女の声を遮り、樋春は温くなった飲料水に口をつける。
「昨日の今日だぞ? 一年生諸君の顔を見れば、一睡もできなかったことは分かる。疲れも取れていないだろう。ベストコンディションとは程遠かったはずだ。それでも彼らは突然の提案を受け入れ、できることをやっていた。十分だと思うが?」
「……やけに彼らの肩を持ちますね」
「そうか?」
「そうですよ」
樋春は少女の追求をとぼけた調子で躱す。
少女は諦めたように「それで?」と話を進める。
「私は何をすればいいですか?」
「ああ、そうだな――」
樋春は手短に、要点だけをまとめて指示する。
少女は指示されたことをメモに取り、時には質問し、細かく今後の方針を決めて行く。
「――そんなところか」
「分かりました。……確認ですが、私のこと、どのタイミングで明かすつもりですか?」
「最低でも、選定式を三回乗り越えてからだな」
「三回?」
「そうだ。……一度目の選定式は、何も知らされてない状態だから運要素が強いし、二度目の選定式は逆に、なまじルールを理解しているから、他の者より上手くできると勘違いする人間が多い。三度目は、二度切り抜けられたという妙な自信を持つ人間が大多数で、油断を招いて死ぬヤツが何人もいる。だから、三度目以降、だ。その壁を乗り越えられれば、下手な自信や油断が命取りになることが理解できるし、自分の強みや弱みも自覚してくる頃合いだ」
「なるほど。分かりました。では、それまで私は潜んでますね」
「そうしてくれ」
頷き、樋春はまた『レモン&マロン』に口をつける。
「どうでもいいですが、それ、不味くないですか?」
「ん? 不味いよ」
「だったらやめれば――」
「不味いからやめる、なんて選択肢はあたしにはないからね」
樋春は得意気に笑った。




