第二章ー9
「それは分かりました。では、内部に残る人間として、クロたちを選んだ理由はなんですか? そして今日、私たちを受け入れた理由はなんですか?」
綾乃が核心を突く。
それが一番聞きたかった。
マイペースに米粉パンを頬張っている佳那でさえも、気になる話題なのか、ちらちらと樋春へ視線を送る。
「ふむ。それに関しては……論より証拠だな。これを見てくれ」
樋春はすっと立ち上がると、一歩、後方へ下がる。
そして、その場で右腕を『全力で』横に振った。
右腕の動きにつられるように、密度の濃い金色の彩粒子が舞う。
「では、黒江君、同じことをしてみてくれ。手加減はしないでくれたまえよ。全力で、だ。頼むよ」
「え? あ、はい」
黒江は言われるがまま、立ち上がり、一歩下がる。
隣に座る友人たちに当ててしまわないよう気を付けつつ、言われた通り、全身で、『全力で』、腕を振る。
漆黒の彩粒子が舞った。
「え!?」
「っ!?」
女子二人が驚きの声をあげた
「え、なに? どうかした?」
「いや、どうかしたっていうか……」
綾乃はポカンと口を開けて固まる。
「次、博也君、よろしく」
「俺もですか?」
「ああ。全力で頼むよ」
博也も同じように、『全力で』腕を振る。
燃え盛る焔のような、赤い彩粒子が舞う。
「分かったか?」
樋春が問うと、女子二名はこくこくと首振りマシーンかなにかのように激しく首を揺らした。
一方、男子二名ははてなマークを浮かべる。
樋春は椅子に座り直す。
「自分の彩粒子がどうなっているのか、なんてあまり気にしないだろうから、知らないのも無理ないが、黒江君と博也君の彩粒子の量は、他を圧倒しているんだよ」
「え? 量? 人によって違うんですか?」
「違うんだよ。理由はあたしも知らないが、人によってバラバラだ。そうだな……分かりやすく言うと、あたしが倒したあの巨大な樹木の化け物、アレの彩粒子は凄かっただろう?」
思い出す。
樋春の大仏に踏み潰され、そのまま倒されてしまったが、二十メートルという巨体から、とめどなく彩粒子が零れ落ちていた。
もしも、あの量を普通の人間が出せるとすれば、相当な密度になるだろう。暗がりでぼんやりと光る程度ではなく、昼間でも周囲を明るく照らせる量だったはずだ。
「彩粒子の量が多いからといって、生き残れるとは限らないが、ほとんどの場合、彩粒子の量が多いと、それに比例してより強力な異能を発現するんだ。それに、全く同じ異能でも、彩粒子が多いと、扱える幅が広がる場合がほとんどだ。あたしもかなり多い方なんだが……黒江君、博也君の両名は、それ以上の量が出ているからね。期待しているよ」
「そうだったんですね」
ようやく、腑に落ちる。
まだ自分の能力すら把握できていない黒江と博也を守ったのは、彩粒子の量が多かったからだ。
現状においては、綾乃や佳那の方が生き残れる確率は高いかもしれないが、『選定式を変える』という長期的な目標がある樋春にとっては、より強い力を持つ者が必要なのだ。
「ちなみに、私たちを受け入れた理由は……?」
綾乃は、予想外の事態にまだ驚きを隠せないようだったが、最初に質問したのはその問いだ。
恐るおそるといった感じで樋春へ投げかける。
「ああ、もちろん君らにも期待しているよ。彩粒子は、何もしなくても目に見える形で身体能力が上がるから、選定式前に異能の力に気付く者は少ないんだ。君らは他の者に先んじてそれに気付き、誰に守られることなく生き残った実績がある。状況判断能力や順応性においては、君らの右に出る者はいないだろうね。今日、君らが黒江君たちと一緒に来たのは予想外だったが、現時点では、一年生最強格の二人を断る理由はない。それだけのことだよ」
「最強格……分かりました」
最強格と言われて嬉しかったようだ。
綾乃は分かりやすく口元を緩め、口に合わないのを忘れたのか、目の前のペットボトルに再度、口をつけた。
結局、また眉をひそめてテーブルに置き直したが。
「さて、今日はこの辺でお開きにしようか。明日からは、生き残るための訓練をするよ」
「はい!」
「了解です」
「分かりました」
「……ん!」
樋春の号令に対し、一年生たちはそれぞれ返事をする。
……言うまでもなく、ちょっとズレたのは三つ目の米粉パンを頬張っていた佳那だ。




