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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第二章ー鬼ごっこ
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第二章ー6

     ◆



 行動を読まれているとしか思えなかった。

「くそっ」

 毒づく。

 背後から迫って来る凶悪な気配をなんとか振り切ろうと走るが、一向に距離が開かない。

「わはは。楽しいなぁ!」

「全く楽しくないです!」

 叫び、階段を駆け上がる。

 鬼ごっこを開始して十分。

 開始数分で佳那が捕らえられ、昨日の選定式で足を痛めていた博也も撃沈。現在、黒江も捕捉され、追いかけられていた。

 数の上でも校舎全体を使えるという点でも、一年生チームの方が有利のはずだったが、窮地に立たされていた。

 通常、鬼ごっこは体育館など、決められた範囲内で行うから成立する。見つけたら終わりの『かくれぼ』などとは違い、相手の体に触れなければならないルール上、範囲が広くなればなるほど、逃げる側が有利だ。

 さらに、他の生徒への安全も考慮し、彩粒子さいりゅうしの使用も禁止している。彩粒子を使用した戦闘では無類の強さを誇っていても、単純な走力勝負で、女子一人に負けるはずがなかった。

 だというのに――。

「頑張って逃げてくれたまえ! あと二人だぞ」

 嬉々とした表情で追いかけて来る樋春が恐ろしい。

 まるで、昔話に出て来る山姥やまんばかなにかのようだった。

「ほらほら! 届いちゃうぞ!」

「……っ!」

 ――この人、どこまで化け物なんだよ!

 階段の踊り場、切り返し地点でぎりぎり、タッチをかいくぐる。

 樋春の足腰の強さは尋常じゃない。

 先ほどから階段の上り下りを何度も繰り返しているのに、一向に衰えない。それどころか、少しずつ距離が縮まっており、黒江の方が追い詰められていた。

「おっ? 捕獲対象をもう一人発見!」

 五階まで駆け上がってきたところで、樋春は標的を変えた。

 綾乃の姿を捉えたようだった。

 ぎゅいーん、と子供のような声を出して駆けて行った。

「なんなんだあの人」

 その場で立ち止まり、息を整える。

 この鬼ごっこは樋春の方から提案してきたことだ。

 強いことは想定できていたが、ここまでとは思わなかった。

 無尽蔵のスタミナと、お化けみたいな走力、嬉々として相手を追い回す子供みたいなモチベーション、それにプレッシャー……。

 身体能力で劣る分、頭脳戦でも仕掛けて来るのかと思えば、真逆だった。身体能力に物を言わせたごり押しだ。

 戦術もクソもない無茶苦茶な鬼ごっこだった。

「どうするか……」

 今、黒江がいるのは西校舎と南校舎のちょうど角にある階段だ。

 奇しくも、選定式の時と同じような状況だった。

 あの生徒会長が、時間一杯まで逃げ切ることを許すわけがない。ここに留まっていても、いつかは見つかるだろう。

 選定式とは違い、正面きって戦う選択肢はないが、隠れていても仕方ないのは同じだった。

 黒江は考えた末、最上階である六階まで移動した。

 窓から校舎全体を見下ろせる位置であること、鬼が来る方向を限定し、余計な集中力を使わなくていいと考えたからだ。

 六階のその先、屋上は、選定式以外では解放されていない。

 転移学校創立当初は解放されていたらしいが、彩粒子を使用した遊びを屋上で行う生徒が多く、誤って転落、死亡する者が多数いたことから、生徒会が使用禁止しているのだとか。

「会長はどこにいるかな」

 窓際を歩きながら校舎内へ目を光らせる。

 各階へ上下移動できる経路は決まっている。

 今しがた黒江が上ってきた、西校舎と南校舎の角の階段と、その反対側にある、東校舎と北校舎の角の階段の二か所だ。

 先ほど、樋春は五階へ着くと同時に西校舎方面へ走って行った。

 黒江は、ならば、と東校舎と南校舎の角へ向かう。

 そこにいれば、どちらの階段から樋春が上って来てもすぐに見つけられるし、校舎全体を見渡すにもちょうどいい。こちらからは見えない真下にいたとしても、階段がない場所だ。

 黒江は南校舎をそのまま直進し、角に到着する。


「予想通りだ。お疲れ様」


同時、東校舎の影から出てきた樋春に、タッチされた。

「は?」

「いやいや、は? ではなく」

 目を瞬かせる。

 黒江が向かった先、東校舎と南校舎の角には、先回りしていた樋春がおり、難なく捕まってしまった。

「種明かしはあとでゆっくりするから、生徒会室で待っていてくれたまえよ」

 ポンポンと肩を叩かれる。

 樋春はまた、「ぎゅいーん」と謎の言葉を放ちながら、最後の一人、綾乃を捕まえるべく駆けて行った。

 結局、三十分どころか二十分もかからず、一年生チームは全員、捕らえられた。


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