第二章ー5
黒江たちが前、その後ろに女子が並ぶ形で立つ。
――生徒会長に生き残る術を教えて欲しい。
樋春に会ってなにをしたいのか聞いてみると、女子二人はそう口を揃えた。
生きたいと願うことは人として当たり前のことだ。
黒江たちにとってもそのお願いは決して他人事ではなく、女子たちのノリを終始不機嫌そうにあしらっていた博也も、最後には折れた。
とはいえ。
できれば、今日だけは博也と二人が良かった。
昨日、質問できないまま解散となってしまった事柄が多くある。樋春の『選定式を変える』という目標も含め、より詳しく説明を聞きたいことが多かった。
「……米粉パン、しまえば?」
「ん、もう終わる」
背後から咀嚼音が聞こえ、振り返ると、案の定、佳那が米粉パンをもっすもっすと食べていた。
この女子二人、緊張感がなさすぎる。
「入るぞ」
佳那が米粉パンを飲み込んでから、黒江はドアをノックする。
「どうぞ」
落ち着いた樋春の声が返って来る。
黒江は失礼しますとドアを開け、
「諸君! 今日は鬼ごっこをするぞ!」
鼓膜が破れそうな大声に、反射的にドアを閉めた。
「おい待て! なんで閉めるんだ!」
慌ててドアに駆け寄ってくる音が聞こえる。
「おい! 帰るなよ!? 今のはあたしが……ん? 誰だ?」
そしてあちら側からドアが開き、樋春が顔を出す。
同時に、黒江と博也の他にも来客者がいることに気付いたようで、怪訝な表情になる。
「会長、すみません、この二人は――」
「ああ、うん……なるほど。まあ入ってくれ」
「え?」
「早くしたまえ。時間は有限だぞ」
黒江が説明する前に、樋春は綾乃と佳那の姿を見るなり勝手に納得し、生徒会室へ入っていく。
黒江は首を捻りつつ、促されるまま、入室する。
「一年一組の灰霧綾乃さん、一年三組の白鳥佳那さんで間違いないかな?」
最奥の議長席に腰を下ろし、樋春は女子二人に視線を向ける。
二人が頷くと、樋春も頷き返し、「分かった」と一言。それ以上、女子二人に何も質問せず、話を進める。
――知ってたのか。
黒江は樋春の態度から確信する。
まだ理由を教えてもらえていないが、数多くいた一年生の中から黒江たちだけを守ったことからも、樋春はなんらかの方法で一年生の動向を監視していたと予想できる。
綾乃と佳那は、一年生の中ではおそらく極少数の、『能力』を発現させている者たちだ。
チェックしていてもおかしくなかった。
「それで、本題だが、さっきも言った通り、今日は鬼ごっこをしたいと思う」
樋春は自身の長いポニーテールを指先でいじりながら言う。
「鬼ごっこ、ですか?」
「ああ。難しく考えなくていい。ちょっとした遊びだ。鬼はあたしがやる。一年生四人は校舎内ならどこへでも、自由に逃げてもらって構わない。鬼の変更はなし。一度捕まえられたらその時点でゲームから外れることにしよう」
唐突な提案だった。
難しく考えなくていいとは言うが、まさか本当にただの遊びというわけでもないはずだ。なにか意図があって提案しているのだろう。
ただ、鬼ごっこをやること自体は構わないのだが、その前にいろいろ聞きたいこと、話したいことがあった。
そんな風に考えていると、
「ふむ……。そうだな、三十分以内にあたしが全員を捕まえられなかったら、それぞれ、あたしに聞きたいことを一つずつ、自由に質問してくれ。全ての質問に正直に答えることを約束しよう」
にやっと不敵な笑みを向けられる。
鬼ごっこへ参加させるための安い挑発だった。
わざわざそんなことをしなくても――
「面白そう!」
「やる」
女子二人が目を輝かせた。
樋春はドヤ顔を向けてくる。
「……分かりました。やりましょう」
男子二人はため息を吐いた。




