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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
エピローグ
131/131

エピローグー2

「でも私、まだ納得してないよ」

「なにを?」

「茜さんのコト」

「……まだ言ってるの?」

 やれやれとため息を吐く。

 だって、と綾乃は続けるが、出て来る言葉は、ほとんど愚痴のようなもので、内心では納得していることが透けて見えた。

 もちろん、黒江とて、その件に関して、言いたいことはある。


 何故、茜は最後の最後まで、前線へ出て来なかったのか。


 茜曰く。

 黒江たちが、死んでも構わないと思っていた、とのこと。

 樋春が命を懸けて守った者たちだから、『仕方なく』策を授け、アドバイスもしていたが、透香たちと戦い、死ぬようならそれまでだと思っていたらしい。

 一年生たちにとって、樋春が特別な存在だったように、茜にとっても樋春は大切な存在だった。

 樋春が殺された時の判断についても、全員ですり合わせを行ったが、やはり、黒江の判断ミスによるところが大きかった。

 知らなかったこととはいえ、樋春と茜は戦いの最中から連絡を取り合っていたらしく、意識阻害の少女についても把握していたのだとか。


 要は、茜にしてみれば、一年生たちの判断ミスのせいで樋春が死んだようなものなのだ。


 死んでも構わない、というのは言い過ぎだとしても、それに近い感情を抱いてしまっても、黒江たちが文句を言える立場ではなかった。

 とはいえ。

 じゃあ愚痴の一つも言わずに全てを納得できるかと言われれば別問題なわけで。

「だいたい、樋春さんも樋春さんだよね。生死がかかっている状況で、茜さんのことを伏せておく必要はなかったでしょ。クロの判断ミスだって結果論でしょ? 助けようと思っての行動なんだから、そんなに責められる必要はないよ」

「あー、それに関してはノーコメントで。……でも確かに、通信機があったわけだから、判断ミス云々の前に、できたことがあったんじゃないかとは思うよね」

「そう、それ! 龍海の攻撃で私たちのバンドは破壊されてたけど、茜さんからは連絡できたわけでしょ? 何もしないで黙って見ていただけなのに、死んでも構わないとか、絶対おかしいよ。しかも、あんな良いタイミングで出て来て、さも『助けてあげました』みたいな顔して……どう思う?」

 言いたい放題である。

 ちなみに、黒江たちが秋奈に襲われた際、茜がタイミングよく現れたのは、グラウンドの地中に隠れていたかららしい。

 それも、聞いてびっくりだったのだけど、茜の能力は、『もととなる物質があり、その構造が分かっていれば』という条件で、どんなモノでも作り出すことができる。つまり、地面さえあれば、地中に抜け道や地下室を設置し、隠れ潜むことが可能なのだ。

 もし、万が一、透香たちを倒すなり、倒せないまでも一矢報いるくらいの戦いが見られた場合のみ、助けようと思っていたと茜は話していた。

「でも」

 ひとしきり、茜への文句を言い終えて。

 綾乃は空を見上げる。

「私たち、頑張ったよね」

「ああ」

 はっきりと、頷き返す。

 頑張った。

 本当に、頑張ったと思う。

 今思い出しても、生きているのが不思議なくらいだった。

 何度も死ぬかと思ったし、実際、最後の一撃が決まらなかった時は、もう駄目だと思った。

 一つでも、どこかで選択を誤っていたら、死んでいたと思う。

「佳那に、お礼を言わなくちゃだよね」

「そうだね」

 米粉パンが大好きで、綾乃の親友だった少女。

 白鳥佳那。

 綾乃が透香に首を締めあげられた時、佳那のことを思い出していなければ、あのまま負けていたかもしれない。

 オカルトと言われるかもしれないけれど。

 投げた鉄球が、正確に透香へ飛んでいったのは、佳那のおかげだと思っている。


 誰か一人でも欠けていたら、生き残ることはできなかった。


 後悔はある。

 悔しい気持ちもある。

 あの時、どうして――と、思う場面は沢山ある。

「綾乃」

「なに?」

「もっと、強くなろうな」

「そうだね」

 頷き合い、慰霊碑に手を合わせる。

 そして、誓う。


 死んでいった仲間たちの分まで、戦い続ける。

 これから、もっともっと強くなって、樋春の意思を継ぐ。



 選定式を、必ず変えてやる、と。



「じゃあ、早く帰って寝ないとですね」

「………………あー」

「………………えーと」

 不意に、背後から声がして。

 二人揃って固まる。

「赤峰に、ひょっとしたらと言われて来てみましたが……。あなたたち、なにをしているのですか?」

「……天体観測、ですかね?」

「……茜さん、夜風が気持ちいいですよ?」

 あはは、と笑って振り返ると、そこには無表情の茜がいる。

 その後ろには、俺は関係ない、と明後日の方向を眺めている博也の姿もあった。

 確か、選定式が終わるや否や、博也は生徒会の面々と一緒に、事後処理や緊急ミーティングを行っていたはずだ。おそらく、ひと段落つき、黒江と綾乃のお見舞いに、と保健室に足を運んだのだろう。

 そこで、二人がいないものだから、焦って探した……というところだろうか。

「特に、真宮。絶対安静、と言いましたよね?」

「……はい」

「お腹の傷だけじゃなく、あちこち骨にヒビが入っていたり、歯が欠けていたり、擦り傷、切り傷、その他もろもろ、瀕死に近い状態であること、説明しましたよね?」

「はい」

「死にますか?」

「……いえ」

 首筋に、鎌を押し付けられる。

 本気で怖いので、やめて欲しい。

 樋春の威圧感も凄かったが、この人の場合、殺気というか、冷たさが凄い。

「死にたくなかったら、どうすれば良いか、分かりますよね?」

「はい。今すぐ戻ります」

 即答し、出来る限り急いで屋上から出る。

「灰霧も!」

「はい!」

 怒鳴られて、綾乃もすぐに屋上から退避する。

「クロ」

「……悪い」

 結局、追いついてきた綾乃に肩を支えられる。

「真宮、灰霧」

 背後から、茜が声をかけてくる。

 今度はなんだと恐る恐る振り向くと、



「よく、やってくれました。しばらくはゆっくり休んでください」



 茜は、柔和な笑顔を浮かべていた。

 初めて見た茜の笑顔は、優しくて、どこか、温かさもあって。

「はい」

「分かりました」

 二人揃って、なんだか気恥ずかしくなり、顔を逸らす。

 手当てをしている間、茜はこんなことを言っていた。


『死んでも構わないと思っていましたが、反面、期待もしていました。あなたたちがもし、透香たちを倒せるのなら、命を懸けた樋春も報われる。樋春の選択は、間違いではなかったと、周囲にも胸を張って言える。……そう、思っていました』


 今なら分かる。

 最初、茜がロボットみたいな平坦な口調で喋っていたのは、揺れ動く感情を必死に抑えていた結果なのだ。

 切り替えろ、とは言うけれど。

 近しい人間を失って、そう簡単に切り替えられる人間などいない。


 黒江も、綾乃も、博也も、茜も。


 誰しもが、悲しみや後悔を抱えて、それでも前へ進んでいる。


「綾乃」

「なに?」

「明日から生徒会、頑張ろうな」

「うん」


 姉から。

 佳那から。

 樋春から。


 いろんなものを受け継いで。


 一歩ずつ、前へ進んでいく。


 これからも――。




                           END.

 こんにちは、作者の初雪奏葉はつゆきかなはです。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 読んでいただいた方は分かるかと思いますが、『完結』ではなく、『一区切り』となっています。現状、シリーズものの第一巻にあたる部分のみとなっています。

 微妙に触れるだけで終わってしまった黒江の姉に関することや、茜を含め、樋春以外の生徒会の面々に関してなど、もっともっと書いていきたい!!というのが作者としての想いです。


 それはともかく。

 私は今作が異世界転移モノ初挑戦になるのですが、『何故、転移したのか?』という部分をどうするのか、設定段階でとても悩みました。『転生』でも良かったのですが、私が書きたい内容を考えると『転移』の方が都合が良く、しかし、一度死んで生まれ変わる『転生』と違い、『転移』の場合、物語を続けて行けば必ず、『何故、転移したのか?』という問題に突き当たるはずです。

 現時点では物語がそこまで進んでおらず、全く触れられていませんが、その辺も考えて物語を作り上げています。

 細かく設定を決めた今作……モチベーションが続けば、『続編』を書いても良いかな、とも思っています。


 もし、物語の続きを読みたいという方がいらっしゃいましたら、作者のモチベーションアップのためにも、是非、感想、評価等、残していただけると嬉しいです。


 ではでは、改めまして。

 コドクの学園、第一部、終了となります。

 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!

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