第二章ー1
午前三時。
一睡もできなかった。
目を閉じると、凄惨な映像が瞼の裏に映し出された。
何度も吐きそうになり、眠るどころではなかった。
黒江は眠ることを諦め、ベッドから起き上がる。
枕元においていたスマホの電源を入れ、保存されている写真を見つめる。
「姉ちゃん……」
転移前、辛いとしか思えなかった、姉とのツーショット写真。
今見ると、ほんの少しだけ落ち着くことができた。
「……はぁ」
そうして、心に余裕が戻ると、
『あたしは、『選定式を変える』。そのために戦っている』
樋春の言葉が思い出される。
転移学校は、卒業と同時に、卒業生だけが集められた会社へ、即日入社となるらしい。そこでどんな仕事をするのか、樋春も詳しくは分からないとのことだが、選定式の運営に回る者もいるのだという。
樋春は実際に、転移学校を卒業後、教師として赴任してきた者を知っていると話していた。
事実、黒江たちの担任である桜波先生は彩粒子を扱っている。桜波先生がどんな経緯でその地位についたのかは不明だが、樋春の想像に一定の信頼度があることは確かだった。
「選定式を変える、か」
一筋縄ではいかないことは、黒江にだって分かる。
この世界の住人たちが、保身のためだけにこんな馬鹿げたことを始めたのだとすれば、価値観が違うことは明白だ。運営側の一員になれたとしても、選定式の仕組みそのものを変えるのは容易じゃない。
それでも、樋春ならやってくれるんじゃないかと思った。彼女の希望通り協力を約束したのは、樋春自身の強さを肌で感じたからだ。
これまでの人生で、あれほどの強さ、苛烈さを備えた人間に出会ったことはない。
もしかたしたら――。
ひょっとしたら――。
そんな期待が、黒江の中に芽生えたからだった。
「まずは、生き残ること、か」
協力を申し出た後、樋春が口にした言葉だ。
何をするにしても、とにかくまず、生き残らなければならない。
それが大前提だ。
「……」
黒江は姉の写真を見つめ、よし、と気合いを入れた。
◆
全て、元通りになっていた。
窓ガラスが割れた廊下も、血で染まった廊下も、昨日の出来事は夢だったんじゃないかと思ってしまうほど、何もかもが元通りになっていた。
『明日も通常通り、登校だよ。校舎は元通りになるから』
樋春からそう聞かされてはいたが、自分の目を疑うほど、何事もなかったかのような、日常の風景が戻っていた。
ただ、一点。
今までと違っていたのは――
「たった、五人、なのか……」
教室へ入った黒江は絶句した。
教室内にいたのは、たったの五人。
黒江たちを入れても七人だった。
昨日まで、すし詰め状態になっていたクラスは閑散としていた。
「いや、違うぞ、黒江」
「え?」
「新しいヤツらが、四人いる」
ハッとする。
そうだ。
今日も、一クラス約三名ずつ、新しく転生された者が配属されているはずだ。
「三人、だけなのか……」
愕然とする。
四十人ほどいたクラスメイトは、九割以上が死亡したことになる。




