第九章ー14
◆◇◆
黒江と綾乃、両名は荒い息を整え、地表に降り立つ。
透香は、地上へ真っ逆さまに落下し、地面に激突した――ように見えた。
現在、落下の衝撃で砂煙があがり、透香の姿を確認できない。
「ごめん」
「いいって」
泣きそうな顔で謝る綾乃に、黒江は優しく返す。
地上に戻るまでの短い間にも、状況確認は終えていた。
透香は、間違いなく、無事だ。
綾乃が蹴り抜く瞬間、透香は生成していた氷を挟み込んでいた。
綾乃の蹴りは氷を砕き、透香の胴体に命中していたが、どの程度ダメージを与えられたか分からなかった。
――いけた、と思ったんだけどな。
お互いの肩を支え合い、砂煙を見つめる。
綾乃の策は見事だった。
綾乃は『確率に賭けた』と話していた。
樋春と違い、透香の動きを読み切れるほど情報がなく、自分たちも傷つきすぎていたため、『危険策』を取ることで透香の不意を突くことは不可能と判断したらしい。
そこで考えたのが、『確率を誘導すること』だ。
より安全で、勝てる選択をし続ける透香だからこそ、選択肢が生まれる状況を作れば、『勝てる方に動く』と予想が立てられる。
それを、綾乃は利用した。
まず挟撃により、透香に反撃するか、逃げるかの選択肢を迫った。
それまで、黒江の補助をしていた綾乃が、いきなり前線へ出てきたとなればなにかあると思うのが普通だろう。
透香は逃げの選択を取った。
ちなみに、綾乃は透香が上へ逃げることを予測していたらしい。
初めて樋春と出会った時のことを思い出したのだとか。
樋春は、一年生四人を相手に完勝してみせたが、その理由は『癖』だった。
これまでの戦いから、透香が『安全』を取る時、上へ回避する癖があることを、綾乃は気付いていた。
そこへ、罠を張った。
雹連に微妙な角度をつけることで、避けた際に太陽が真正面にくるよう配置、さらに黒江との合体技で追撃した。
そして、ここが凄いのだが……
綾乃は、『透香が避けるところまで予測して』、最後の一手を考えていた。
誰だって、最後にどの技を選ぶかと問われれば、最も自信のある技を選ぶだろう。確率的には、あの場面で他の技が飛んでくる可能性は果てしなく低いはずだ。
綾乃は透香の立場になって、『透香がどう予測し、動くのか』を考えていた。
事実、透香は綾乃の予測通り、漆黒乱舞がくることを予測し、回避してくれた。
そこまでは完璧だった。
「あ……」
「やっぱり無事、か」
砂煙が晴れてくると、透香が両の足で立っているのが見える。
完璧だった綾乃の読みは、最後の最後で外れた。
綾乃の予測では、最後の一手を繰り出す時点で、透香に余裕はなくなっているはずだった。度重なる波状攻撃でバランスを崩し、予想外の一撃をくらってくれる、はずだった。
読み違えていたのは、透香にとっても予想外ではなかった点だ。
勝率の高い方を選び続ける透香を誘導する作戦自体は見事だったが、それは、『透香にとっても理想的な動きをし続けられる』ということになる。
太陽光による目くらましがあるとはいえ、綾乃が最後に用意していた不意打ちの一撃までは、透香にとっても予想範囲内なのだ。
透香にも、余裕があるのだ。
もちろん、だからといって、簡単に防がれるような作戦ではなかったけれど、そこはやはり、最強候補の一角といったところか。
決定的な隙はなかった。




