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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第九章ー乱舞
127/131

第九章ー13

「上だ!」


 視力、空間把握力に優れる黒江が、真っ先に反応した。

 挟撃を受けた透香は、急激に方向転換、氷牙狼を上方へ飛翔させることで難を逃れた。


 最善策、なのだろう。


 現状、灰球を操作している綾乃が倒れれば、残った黒江は何もできなくなる。

 だというのに、危険を顧みず、突っ込んで来たということは、なにかしら策があると判断するのが妥当だ。その上、背後からは超加速で黒江が迫ってきている。

 綾乃の相手をするのも、黒江の相手をするのも危険だろう。

 挟撃ということを考えれば、真ん中にいる透香が抜けることで二人とも、体勢が崩れる可能性もあるし、なにより透香自身に危険がない。


 『確率的に言えば』、最も安全に、勝利に向かえる選択だった。


 だからこそ。

「クロ、追って!」

 綾乃の想定通りでもあった。

 綾乃は自身の体が宙に投げ出されても、構わず声を出す。

 こうなることは最初から予測済みだ。

 すぐに鉄球を出現させて足場を作る。

「分かった、追うよ!」

 黒江はそれを見届けて、上方へと跳躍する。


 と、同時。


「雹連!」

 綾乃は上方へと飛んでいった透香へ追撃の一手を繰り出す。

 もう見飽きた技だろう。

 透香が逃げたさらに上方に、鉄球が数十個出現する。

 ただ、今までと違う点が一つ。

 鉄球が出現したのは、透香の真上ではなく、やや左側。

 そこから、


 ――気付かないで!


 心の中で願いつつ、綾乃は透香へ向けて鉄球を打ち出す。

「悪あがきかな?」

 当然、軽々避けられる。

 透香は微妙にずれた位置に出現した鉄球を注意深く観察し、しかし、何もないことを確認してからやや右方向へ狼を操る。

 そして、視線を正面へ戻し――

「――っ!」

 反射的に、顔面を手で覆った。

 なんてことはない。

 太陽光に、目がくらんだだけだ。

「かかった! クロ!!」

「おっしゃあ!」

 黒江も綾乃の作戦を理解し、応える。

 一直線に透香のもとへ向かっていたのだ。

 もう到着するまで一秒もかからない。


 ほんの一瞬、コンマ一秒だけでいい。


 透香の反応が遅れてくれれば、それで決まる。


「これで!」


 黒江は、未だ視界が戻っていないらしい透香へ急接近し、最後の一撃を繰り出す。


 二人で考えて、二人で編み出した必殺技だ。


 〝灰球・漆黒乱舞〟


「終わりだああああっ!」


 灰球と身体強化の合体技。

 透香の神速と同じ速度を持ち、打撃格闘においては最高の威力を持つであろう、最速最強の必殺技だ。



「ちっ」



 それを、透香は、舌打ち一つで回避した。

「は? なんっ!?」

 渾身の蹴りを繰り出した黒江は、空中で空振りし、完全にバランスを崩した。


「そんな見え透いた攻撃、目がくらんでも対応できるよ」


 体を捻り、狼を操ったところで、もはや回避できるタイミングではなかった。

 それが、分かっていたのだろう。


 透香は、氷牙狼から飛び降りていた。


 確率を信じる彼女は、このタイミングで最大最速の攻撃が来ることを予測していた。

 ここまで自分を追い詰めておいて、別の、くだらない技でくるはずがないと、読み切っていた。

 読み切っていたから、ぎりぎりのタイミングでも避けることができた。


 透香は笑う。


 いろいろと、予想外なことはあったが、これで終わりだ、と。

 攻撃に転じるべく、氷を生成し始める。

 ここから先は、蹂躙するのみ――



「だと思いましたよ! 終わりです!」



 唐突に。

 透香の目の前に、灰色髪の少女が現れる。

「は、いや、え?」


「あはは。そんな顔もするんですね」


 綾乃は笑う。

 全て、計算通りだったと。

 ここに至るまで、綾乃が考えた策に、透香はハマり切っていた。

「決めろ、綾乃!」

 黒江の声が聞こえた。


 綾乃は一つ頷き。


 灰球で加速させた渾身の蹴りを、透香の胴体に叩き込んだ。

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