第九章ー12
透香が確率を重視するなら、それを逆手に取って、不意打ち、騙し討ちは可能だろう。樋春がしたように、自分の安全を捨ててでも突っ込めば、少なからず透香を驚かせることはできる。
――でも、それは危険すぎる……。
透香の攻撃力は半端ではない。
一撃必殺の技も多くあろうだろうし、まだ、綾乃が知らない技だってあるはずだ。
樋春は、それら全てを分かった上で、『押し切れる』と判断して突っ込んだはずだ。
自分たちに、同じことができるわけがない。
成功すれば良いが、失敗すれば単なる自爆だ。
なら、どうするか。
勝率が高い方へと選択し続ける透香を、どうやって出し抜けば良い。どうやって、倒し切れば良い……?
――ん? 確率が高い方……?
ふと。
そのフレーズが頭に残る。
確率が高い方……。
つまり。
――そうだっ!
思い付く。
思い付いた。
上手くいくかは分からない。
実際にやってみたら、全く違う結果になるかもしれない。
――けど、やってみる価値はある!
綾乃は、自身が乗っている鉄球を操作する。
目指すは、透香と黒江が激戦を繰り広げている遥か上空だ。
逃げる透香を追い続ける黒江も、限界が近づいていた。
もともと大怪我をしているのだ。ここまで動き続けているのが不思議なくらいだった。
灰球による補助があっても、いつまで動き続けられるか分かったものじゃない。
「……」
焦るなと自分に言い聞かせる。
タイミングが命だ。
ここで焦って、下手な仕掛けをすれば、黒江の頑張りまでも潰してしまう。
ぐっと拳を握り締める。
これが、正真正銘最後の一撃。
そのつもりで、仕掛ける。
そうして。
好機が訪れる。
「クロ、そのまま来て!」
戦闘空域まで上昇した綾乃の目の前、数十メートルの距離。
真正面から、逃げる透香と追う黒江が迫って来る。
間近で見ると、恐怖すら覚える速さだった。
「綾乃!?」
「いいから! そのまま!」
綾乃は叫び、タイミングを計る。
早すぎても、遅すぎてもダメだ。
透香もこちらに気付いた様子で、警戒心を露わに厳しい視線を向けて来る。
そうでなくては困る。
警戒してくれなければ、作戦は失敗する。
「……よし」
綾乃は、ごくりと唾を一飲みし、
――……今っ!
綾乃は、空中へ飛び出した。
自身の踏切に合わせ、乗っていた灰球も操作し、強引に加速、勢いをつける。
「痛っ!!」
全身に激痛が走った。
彩粒子による身体強化があるとはいえ、黒江のそれには到底及ばない。灰球の威力を全身で受け止めれば、体が悲鳴をあげるのは分かっていた。
それでも、やる意味はある。
これが、勝利への第一歩だ。
「なにかと思えば!」
透香は挟撃される形となるが、焦った様子はない。
背後からは黒江が迫り、前方からは綾乃が迫る。
一瞬で両者へ視線を送り、すぐに方針を決めたようだった。
――ここで、どう判断してくれるかが、第一の分かれ目!
綾乃は宙を飛びながら、祈る。
透香がこれまで通り、『確率の高い方』を選択してくれるなら、選択肢は限られるはずだった。
果たして、結果は――。




