第九章ー9
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一瞬たりとも気が抜けない。
綾乃は焦っていた。
技自体は、完璧に決まっていた。
昨夜、黒江と話していた、『灰球×身体強化』の合体技。
〝灰球・漆黒乱舞〟
綾乃の灰球の威力を黒江に上乗せした、超強力な必殺技だ。
ぶつけ本番の合体技だったが、不思議とできる気はしていた。
ほんの数週間の付き合いでも、やれるという確信を得られるくらいには、言葉を交わし、同じ時間を過ごしてきた。
綾乃と黒江にとっては最終奥義のようなもので、技が上手くいけば、決め切れる自信もあった。
だというのに。
虹沢透香は、既に対応しつつある。
何度攻撃を繰り返しても、クリーンヒットが奪えない。
そもそも、初撃からして、たまたま膝が入っただけで避けられているのだ。
経験値の差か、それとも対応力の高さか。
透香のそれは、綾乃と同じか、それ以上だった。
「氷牙狼、氷槍乱舞!」
透香が、叫んだ。
苛立っているのは、見ていて分かっていた。
透香からすれば、一刻も早く龍海の状態確認をしたいのに、いきなり訳の分からない合体技を見せられ、ペースを乱され、最悪の気分だろう。
時間が経てば、なにか手を打ってくることは綾乃にも予想できていたし、そうなる前に、なんとかしなければと焦っていたのだが、間に合わなかった。
黒江が絶え間なく攻撃を仕掛ける中でも、透香は少しずつ氷を生成し、隙を窺っていた。
そしてついに、その隙が訪れた。
一秒足らずの僅かな時間。
黒江が鉄球に足をつき、方向転換を試みるそのタイミングを見計らい、透香が攻撃へと転じた。
「綾乃!」
「分かってる!」
攻撃へ転じて来られても、速度が落ちるわけではない。
灰球の力で攻撃を妨害しつつ、黒江本人を加速させれば、防御力は地上戦を大きく上回る。
多少、攻撃されたところで、すぐにでも立て直せる。
「逃がさないよ!」
などと、安易に考えてはいけないことくらい、これまでの戦いで分かっている。
おそらくこれこそが、最強候補の一角、虹沢透香の全力全開、最大威力の攻撃手段だ。
氷牙狼×氷槍乱舞
氷の狼を駆り、相手を追い詰め、全方位からの空間攻撃でトドメを指す。
どちらか一方でも強力な技だというのに、その二つを同時に扱う技術、精度は桁が違う。
能力の扱いに関しては間違いなく、ここにいる誰よりも、おそらくは樋春よりも上だった。
「クロ、自由に飛んで! 全部合わせる!」
「了解、信じるよ!」
ここが勝負所だ。
綾乃は集中力を極限まで高めて黒江の動作を追う。
逃げ道がどこにあるのか、足がどちらに向いているか、黒江にとって、どこに足場があったら嬉しいのか――。
先へ先へと動作を読み、黒江の足場を作る。
その上で、黒江の足が着地したと同時に、次の足場へ向けて鉄球を操作し、黒江を跳ね飛ばす。
一方の黒江も、綾乃の鉄球を信頼し、一歩一歩、確実に着地し、飛んでいく。もし、少しでも『○○へ飛んだら綾乃が合わせられないのでは?』などと考えてしまったら、躊躇が生まれてしまうだろう。
その躊躇は、致命的な間となりかねない。
黒江に合わせている綾乃も、黒江の躊躇から、余計に判断が難しくなり、噛み合わなくなってしまう。
二人はまさに、一心同体の連携で、透香の攻撃を避け続けた。
「くそ、離れねえ」
「無駄なあがきだよ!」
そんな二人を、透香は追い詰める。
上下左右、あらゆる方向へ逃げる黒江に対し、速度では明らかに負けているのに、離される様子がない。
それどころか、氷槍乱舞で黒江の逃げ道を塞ぎ、次第に距離を詰めていく。
ぶつけ本番の奥の手を使っても、透香の技量を上回ることはできなかった。




