第九章ー8
――……なにが起こった?
右腕をさすりつつ、思考を巡らせる。
透香は、視線を逸らしていなかった。
少年の動きには注意していたし、なにか仕掛けて来ると警戒もしていた。
だというのに、見逃した。見落とした。
二人ともが満身創痍で、何故、ここにきてさらなるパワーアップを果たしたのか。
少年の身体強化に空中でも威力を発揮するナニカがあるのか、それとも、鉄球を操る少女の方に――
「あ……」
そこまで考えて。
理解する。
ある。
攻撃どころか、立っていることもやっとのはずの彼に、さらなる力を与える方法が、確かに存在する。
――でも、そんなこと、あり得る……?
困惑する。
もし、時間が飛んだように思えるほど、『スピードが上がった』のならば、方法はある。
簡単な話だ。
少女の能力で、少年を押し出してやれば、簡単に加速する。
少年が踏み切るタイミングに合わせて、少女が鉄球を操作し、力を加えれば、加速スピードは跳ね上がる。
透香の神速と違い、少年は身体能力全てが向上している。
鉄球による加速にも、耐えられる可能性はある。
だが。
それは、理論的な話だ。
机上の空論、不可能な作戦と言われても仕方がない代物だ。
少年が踏み切る方向、姿勢、位置、鉄球の速度、押し出すタイミング、その他もろもろ、全てが合致していなければ、その瞬間、破綻してしまう作戦だ。
どれほどの鍛錬を積めば、そんなことができるのか。
どれほどの時間をかけて積み上げれば、そんなことが可能なのか。
計算高い透香ですらも、予測不可能な領域だった。
「とりゃ!」
そうこうしている間に、体勢を立て直した少年が再び迫って来る。
今度は見逃さなかったが、それでも、避けるのが精一杯だった。
足がついていないと発動できない『神速』を、空中で発動されているようなものだった。
――そう言えば……。
体育館での戦いを思い出す。
樋春の相手をしていて、はっきりとは見えていなかったが、鉄球使いの少女は、あり得ないほどの対応力を発揮していた。
武術の達人、龍海の眼前に鉄球を配置し続け、翻弄していた。
最終的には引きはがされていたけれど、普通、そんなことはできない。何度も戦った相手ならともかく、初対面の敵に対して、完璧に動きを合わせるなど、超人の領域だ。
つまり、それだけの対応力があるならば。
合わせる相手が一緒に特訓し続けた仲間ならば……。
――樋春のやつ! どんな鍛え方をしてたんだよ!!
氷牙狼を操り、なんとか回避し続けるが、一向に攻撃が止まなかった。周囲に氷の槍を配置し、反撃する準備は整っているのに、タイミングが掴めない。少しでも減速するタイミングでもあれば、と思うがその隙も無い。
上下左右、縦横無尽に駆け回る彼らのコンビプレーは、透香がこれまで戦ってきた誰よりも無茶苦茶で、圧倒的で、神がかっていた。
「~~~~~~っ!」
唇を噛みしめる。
――ふざけるなよ。転移してきたばかりの一年が、このボクを圧倒する? ふざけるなよ! ふざけるなよっ!!
透香の頭から、撤退の二文字が消し飛ぶ。
『いつか』とか、『次に会った時』とか、そんな悠長なことを言っていられる相手じゃない。
こんなことができるヤツらを野放しにしておいたら、ランキングに亀裂が入る。
これまで、地道に積み重ねてきた全てにひびが入る。
こんなところで、終わるわけにはいかない。
「氷牙狼、氷槍乱舞!」
ここから先は、全力全開で、叩き潰す。
透香は、持てる力の全てを解放した。




