第九章ー7
「ほりゃ」
透香は攻撃の手を緩めない。
鉄球に当たり、飛散した氷をさらにかき集め、今度は左右から攻撃を繰り出す。
身体能力が上がっていようと、丸い鉄球の上では足場が悪すぎる。
龍海を倒した男子の方は、鉄球にしがみつき、落ちないようにするのがやっとの状態で、女子の方も、回避に専念しており、なにかができる風には見えない。
「……」
透香は欲を出さないよう自制しつつ、攻撃を続ける。
撤退を考えているからと、攻撃をやめるつもりはない。
彼らが危険人物であることに変わりはないのだ。
倒せるチャンスがあるなら当然、狙いに行く。
――で、龍海の方は……?
ちらりと地表へ目を向けると、狙い通り、氷華鉄槌が激突した影響で砂煙が舞い上がっている。
龍海が無事でいるなら、この隙に動くはずだった。
透香を守ることを至上命題にしている男が、この窮地に、黙っているわけがなかった。
しかし。
――……動きはなし、か。
龍海が動いた様子も、動きそうな気配も、まるで感じられなかった。
まだ意識を失っているのか、動けないほど状態が悪いのか。
「灰球、雹連!」
「ん?」
視線を二人に戻すと、少女が仕掛けて来ていた。
彼らよりも高い位置にいる自分の、さらに上空。
無数の鉄球がずらりと並んでいた。
「甘いよ」
降り注ぐ鉄球を、狼を駆って難なく回避する。
続く攻撃はなかった。
氷の刃を凌ぎ切った技量は褒めるが、やはり、空中戦の経験は浅いようだった。
空中戦は、三百六十度、全方位から攻撃が飛んでくる可能性があり、一見、守る側が不利に思えるけれど、そんなことはない。
三百六十度、全方位から攻撃が来るということは、三百六十度、全方位に逃げ道があるということでもある。
地上戦以上に、『点』ではなく『面』で攻撃することが求められ、なおかつ、強力な技を一撃だけ放つのではなく、何度も続けざまに攻撃することが求められる。
逃げ道を潰し、相手を倒し切るゲームプランを組めなければ、空中戦において、勝ち目はない。
「いくよ、クロ!」
「了解!」
と、二人が視線を合わせる。
先ほど、地上で話していた作戦だろうか。
なにか、仕掛けるつもりでいるらしい。
ここまでの戦いで、この二人には何度も驚かされている。
なにがあってもおかしくはない。
「……」
透香は今まで以上に警戒心を強める。
視線や会話の内容から、実際に攻撃してくるのは身体強化の男子だと予測できた。
彼が攻撃してくるのなら、近接格闘以外にない。
まだ十メートルほどは距離がある。
どんな攻撃を仕掛けて来ようと、油断しなければ――
「え?」
突然、眼前に拳が迫っていた。
まるで、時間が飛んだみたいだった。
反射的に顔を逸らす。
が、
「ぐっ!?」
顔面への拳打は避けたが、突っ込んで来た少年の膝が腹部に直撃した。
透香は氷牙狼から滑り落ちる形となり、空中へ投げ出された。
その直後。
「はあっ!」
「――っ!」
少年が追撃してきた。
空中でバランスを崩した透香へ向け、一直線に向かってくる。
――氷鉄……いや、間に合わない。だったら!
防御用の氷を生成している時間すらなかった。
この距離では、龍海の時と同じ結果になる。
彼の身体強化の前では、中途半端な防御は意味がない。
ならば、と透香は次善の策を打つ。
右手側に氷を出現させ、その氷を片手だけで掴む。
「痛っ」
落下スピードが急激に落ちる。
右腕の骨、筋肉、関節が悲鳴をあげたが、仕方がない。
こうするしか、回避方法がない。
「おっ、と!?」
正面から向かって来ていた彼は、透香の体が縦方向に切り替わったことで、攻撃タイミングを見失う。
逆に、片腕だけで急ブレーキをかけた透香の体は空中でしなり、落下してきた少年の真横に避ける形となる。
「っとっとととーーー!」
そのまま地上へ落下していく少年を見送って。
透香は空中に停滞していた氷牙狼を操り、再度、またがる。
無茶な動きをしたせいで、右腕が痛んだ。




