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コドクの学園  作者: 初雪奏葉
第九章ー乱舞
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第九章ー4

 鉄球は漆黒の彩粒子を纏い、飛翔する。

「透香!!」

 龍海が悲鳴をあげ、透香に危険を知らせる。

「――っ!?」

 おそらく、綾乃も瀕死状態だったのだろう。

 勝ちを確信し、完全に油断していた透香は、いきなり飛んできた鉄球に驚愕の表情を浮かべた。


 正直、奇跡に近かったと思う。


 ぼろぼろの体で苦し紛れに投げつけた鉄球だ。

 普通、当たるような角度にはならないだろう。

 そもそも黒江には、そんな投擲技術はない。

 もしそんなことができるとしたら、それは、投擲技術を磨いていた佳那だけだ。

 絶対に、当たるわけがない。


 投げた黒江ですらそう思っていた中で。

 どういうわけか、この時に限っては、


 完璧に、完全に、直撃コースだった。


「透香! 避けてください!!」


 再度、龍海が叫び。

 透香は、すぐそこまで来ていた鉄球を、ぎりぎりのところで回避した。


 回避した、その結果。


「綾乃!」

 黒江は年下の少女の名を叫ぶ。

 透香の手が首から外れ、綾乃は地面へ崩れ落ちた。


「行かせませんよ」


 彼女のもとへ駆け出そうとして、目の前に現れた長身の男に舌打ちする。

 どこまでも、この男は邪魔をしてくる。

 透香の守護神にして、最強の盾、龍海権蔵。

「何度倒されれば気が済むのですか。諦めが悪いのも、ここまで来ると鬱陶しくなってきますね」

「そっちこそ、いい加減――」

 立っているのもやっとの黒江と違い、龍海の動きは機敏だった。

 突撃しようとした黒江の口元を正確に狙い、抑えつける。

 黒江は下半身だけが突っ込む形となり、足が空中に浮いた。

「黙ってください」

 龍海は抑えた口元を起点に、そのまま黒江を地面に叩きつける。

 やはり、巧い。

 格闘術において、龍海には敵わない。

「少し粘ったところで、勝機はありませんよ」

 そして、完全に顔面が塞がれる。

 鼻と口が塞がれ、また、呼吸ができなくなる。


 ――覚悟を決めろ!


 黒江は、手の隙間から龍海を睨む。

 さっき、佳那のことを思い出して、気付いたことが一つあった。


 黒江たちは、まだ『覚悟』ができていなかったのだ。


 佳那を失った時、双子を殺すことをためらったように、ここに至ってもまだ、心のどこかで『勝つ』=『殺す』という図式を拒否していた。

 できることなら、殺さずに勝ちたいと考えていた。

 透香や龍海は、最初から容赦なかった。

 不意打ちで博也を蹴り飛ばし、意識阻害の少女も、ためらいなく実戦に投入している。武道の世界では禁止されている後頭部への肘打ちや、当たれば死ぬ可能性のある技を、躊躇なく使って来ている。

 その点、黒江たちは『綺麗に勝つ』ことにこだわっていた。


 それは、人として当たり前の感覚で、本来、失ってはならないものかもしれないし、成長ではないかもしれないけれど。


 今、この場においては、躊躇する方が間違っている。


 自分と、大切な人が、死にかけているのだ。



 『守るために』、必要なことだ。



 黒江は、気力を振り絞り、右手を突き出した。


「はあっ!」

「なっ!?」

 馬乗りの体勢になっていた龍海は、予想外の反撃に驚き、バランスを崩す。

 黒江は瞬時に身をよじって起き上がり、間髪入れずに攻撃を繰り出す。


 黒江が放ったのは、目突きや金的といった、ルールのある武術ならば、百パーセント禁止されている技だ。


 龍海の表情が、より厳しいものへと変わる。

 もともと、速さでは黒江が圧倒しているのだ。

 その上、龍海は片腕が折れており、全く使えない。

 龍海の表情が険しくなり、段々と余裕がなくなっていく。

「仲間が死にかけて、心境の変化でもありましたか。攻撃が、先ほどまでとまるで違います、よ!」

 だが、それでも龍海が上回る。

 身体能力において、能力を使っている黒江より、明らかに劣っているにも関わらず、退くどころか攻めて来る。


 ――化け物め……!


 黒江ほどではないにしろ、龍海だって、ここまで相当、打撃を受けている。少しくらい動きが鈍っても良さそうなものだが、それを全く感じさせない。

 二年以上もの間、選定式を生き残ってきた意地と誇りが、そこにあった。

「終わりです!」

「がっぅ」

 右足に下段蹴りが直撃する。

 立って、戦えているのがおかしいくらいの黒江には、致命的な一撃だった。

 動きが、止まってしまう。

 右膝に力が入らなくなり、立っていられなくなる。

 龍海はそれを見逃さない。

 残された片腕に力を集中させ、最後の一撃を食らわすべく、一歩を踏み出し――


《そのまま倒れなさい!》


 耳もとで声がして。

 黒江はその声に従って、踏ん張らずに膝をついた。

「む――っ!?」

 黒江の頭上で、風切り音が響く。

 龍海は大きく空振りし、黒江に圧し掛かるような姿勢で転倒し、


 体が、宙に浮いた。


「もらった!」

 覆いかぶさるように倒れて来た龍海の腹へ、黒江は拳を突きあげる。

 これで決まらなければ、先はない。

 もう戦う力は残っていない。

 最後の一滴まで、振り絞れ。


「おおおおおおおおっ!」


 体中の筋肉にムチ打ち、黒江はそのまま立ち上がる。

 龍海の腹へ、拳をめり込ませ、最後の最期まで、振り抜いた。


 空高く、龍海の体は打ちあがり。


「……」


 落ちて来た彼は、意識を失っていた。


 口元からは血が流れており、一見して、生きているのか死んでいるのか、分からなかった。


「勝っ……た?」


 呆然と、黒江は呟く。

 呼吸をするのも苦しいくらい息が切れ、体中から痛みを感じ、それでも、黒江は立っていた。


 最強候補の一角にして、守護神とも言われる龍海権蔵を――


 倒し切った。



「っしゃあああああああーーー!!」



 雄叫びをあげて。



 次の瞬間。



 目の前に、氷の槍が迫っていた。

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