第八章ー14
「にしても……」
落ち着いて、周囲を見回すと、なかなかのあり様だった。
グラウンドにはあちこち穴が開き、氷の爪痕が刻まれている。
彩粒子と土煙が混ざり合い、未だ、視界が悪いままだった。
黒江も見失ったが、透香もこちらを見失っているらしい。いつ攻撃が再開されてもおかしくないシチュエーションにも関わらず、そんな気配はない。
――待てよ? これは……。
ふと、我に返り、慌てて通信機で呼びかける。
「副会長」
《茜でかまいません》
「じゃあ、茜さん。いけますか?」
《……微妙なところではありますが――》
茜はほんの一、二秒、思案する間を取り、
《――あなたが動けるのであれば、いけるかと》
そう言った。
ならば、迷っている暇はない。
千載一遇のチャンスだ。
「綾乃たちの位置はどこですか?」
《戦闘開始地点からほとんど動いていません。ただ、視界が悪すぎて、私もあなたの位置を見失っています。誘導はできませんよ》
「十分です。合図は俺が出しますので、よろしくお願いします!」
《……分かりました》
茜の返答を聞くや否や、黒江は飛び出す。
生徒会室で茜に指示された策は、タイミングが命だ。
透香がこちらを見失っている今しか、チャンスはない。
「綾乃、行くぞ!」
《クロ? 了解!》
腹部からの出血が続き、痛みも増している。
全快とは程遠い状況だがこの機会を逃したら、間違いなく、次はない。
綾乃もぎりぎりの戦いを強いられていたのだろう。
待ってましたと言わんばかりの明るい声が返って来た。
――ここで決め切る!
鋭くなっている五感をフルに活用する。
自身がグラウンドのどこにいるのか、ある程度は分かる。
そこから、綾乃の声、『音』を拾い、大まかな位置を特定する。
うっすらと見える校舎の影、太陽の光から進むべき方向を決め、黒江は突進する。
二秒も走ると、人影を二つ、視認できた。
綾乃たちのいる場所まで、五十メートルといったところだ。
これなら何秒もかからずに詰められる。
「茜さん!」
《投下します》
龍海の能力は万能なようでいて、穴も多い。
格闘が効果的であることだけでなく、『現象』を止められないことも大きい。
これまでの戦いから分かるように、龍海に対して樋春の大仏、綾乃の灰球など、彩粒子で作られているものは一切効果がない。
茜が作り出した物質も同様だ。もととなる物質があっても、ほとんどの部分は彩粒子でできているため、どれほど頑丈なものであっても龍海の能力を受ければ分解されてしまう。
しかし、例えば、閃光弾が爆発した後、その光を無効化できるかと言えば別問題だ。
閃光弾そのものは茜の彩粒子によって作られていても、それによって起こった『現象』は、現実のものとして周囲に影響を与えている。
つまり――。
「上を見ろ!」
龍海まであと数メートルとなった地点で、黒江は叫ぶ。
茜が上空へ飛ばしていたドローンから、十個以上の手榴弾が投下されている。
「むっ!?」
黒光りするそれらを発見した龍海は、顔を歪めた。
対、能力の戦いだけで考えれば、龍海の能力はチートクラスだろう。
けれど、
こんな風に、いつ爆発するかも分からない『現象』を引き起こすものが降って来た場合、防ぎようがないのだ。
そもそもこの状況では、爆弾が彩粒子で作られたものなのか、本物なのか、判別することも難しい。
冷静に考えれば、ダミーと思うのが普通だろう。
すぐ近くに綾乃がいて、黒江も突進してきているのだ。十数個の手榴弾が爆発すれば、龍海にダメージを与えられても巻き添えになる。事実、爆弾は全てダミーなのだが、そんな疑問を数秒にも満たない時間で処理できる人間などそうはいない。
そうなれば。
――想定通り!
龍海は反射的に回避行動を取った。
爆弾から逃れるように、両足で地面を蹴り、大きく後方へ飛びのいた。
龍海の体が、地面から完全に離れた。
「もらった!」
黒江は龍海のすぐ横へ、ベストタイミングで迫っている。
龍海も黒江に気付き、なんとか体勢を整えようとするが、時すでに遅し。
「透――」
「ふんっ!!」
喋らせる隙さえ与えず、黒江は渾身の一撃を叩き込む。
突進した威力を回転力に変え、強烈な回し蹴りを胴体の真ん中へぶち込んだ。
手応え、あり。
龍海の体は大きく吹き飛び、砂煙の中へと消えていった。




