第八章ー9
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黒江、綾乃、透香、龍海。
四名が飛び出し、互いがやりたいことを実行すべく動いた結果、奇しくも、噛み合う形となった。
「ええ、流石は〝天誅〟の後継者といったところですか」
「後継者になった覚えはないんですけど、ね!」
龍海と綾乃は、本日何度目になるか、拳を突き合わせる。
『アイツは決定的なタイミング以外、あまり深追いして来ない。だから、攻めている時は防御を、守っている時は攻撃を、必要以上に考えない方が良い』
『灰霧、接近戦での能力使用は控えてください。無理に能力を併用すると、隙が生まれやすくなります。透香のような併用戦法は、下手な人間が真似をすると自滅するだけです。使うならば、距離が離れた時に限定してください。いいですね?』
選定式前のミーティングで樋春から言われたコトと、先ほど、茜に言われたコトを、綾乃は忠実に守り、龍海と戦う。
透香と比べて、龍海は慎重に戦いを進める傾向にある。
樋春も茜も、口を揃えてそう言っていた。
その戦闘スタイルが構築された理由は、ただ一つ。
自分が、透香にとっての最終防衛ラインだと思っているから。
龍海は、常に透香のことを気にして戦っており、自身が誰かを殺すことよりも、透香を守ることを優先している。
そのため、絶対に無理な攻めはしないのだ。
攻められている時も、中途半端な反撃をしない。守って守って、ここぞというタイミングで攻撃に転じる傾向がある。
つまり。
攻撃している間は、意外なほどに安全で、大胆に仕掛けても問題ないのだ。
「穿て灰球、雹連」
打撃戦の末、距離ができた瞬間に綾乃は追撃した。
雹連と名付けられたその技は、名前の通り、上空に設置した無数の鉄球を相手めがけて落下させる技だ。
灰球の最高速度は、樋春の大仏操作よりも、透香の氷牙狼よりも速い。
雹連の場合、さらに重力が加わるため、直撃すれば良くて骨折、悪ければ即死もあり得る。
「ええ、とても恐ろしい技だとは思いますが?」
龍海は高速で降り注ぐ弾丸を完全に無視する。
龍海の頭に、肩に、手に足に、次々と鉄球が当たるが、当たった直後に威力が削がれ、まるで、軽いピンポン玉が跳ねているような光景となる。
中には、龍海の彩粒子に飲み込まれ、灰色の彩粒子に戻ってしまう鉄球もある。
当然、綾乃もそんなことは分かっている。
狙うのは、技が終わる直後だ。
例え攻撃自体が効かなくても、大量の鉄球が周囲に落ちて来れば視界が封じられる。その直後に接近戦を仕掛ければ、いくら龍海でもそう簡単に反応できるとは思えなかった。
技自体が通じなくても、いくらでも使いようはあるのだ。
「せいっ!」
鉄球の嵐が過ぎ去ってから一秒にも満たない間に急接近。
気合いの声とともに右の拳で渾身の一撃を放った。
――え?
放った、はずだった。
気付いた時には、拳を突き出した勢いそのまま、その場でくるりと一回転し、地面に転がっていた。
「ええ、まあ、そういうことです」
背後から龍海の声が聞こえ、はっとする。
起き上がりつつ左に回転し、龍海の脇腹めがけて再度、右の拳を繰り出す。
だが、
「ええ、悪くはないですが」
綾乃の体はまたしても制御を失い、地面へ転がった。
――これは……。
二度目は、見えた。
龍海は綾乃の攻撃を受けてもいなければ、反撃に転じようともしていない。
ただ、『流している』。
龍海は、綾乃がフック気味に繰り出した拳の、さらに内側――綾乃の体に密着するような形で一歩前進。
その後、拳の勢いを殺さず、自身の左方向へ綾乃の体を軽く押すことで体勢を崩し、転がしていた。
「だったら!」
綾乃はならばと動く。
攻める時は、攻め続ける。
龍海戦の鉄則を守り通す。
「ええ、選択肢としてはアリですが」
「このっ……」
今度も、華麗に、流麗に、流されてしまう。
下から抉るように繰り出したアッパーを、龍海はさらに上方へ受け流した。
半歩後方へ下がり、微妙に距離を作った上で、自身の上体を後ろへ逸らしながら、綾乃の拳を上方へ跳ねのける。
綾乃は完全にバランスを崩し、またも地面へ倒れ込んだ。
そこへ、今度は追撃が飛んでくる。
「むん!」
腹部直撃のサッカーボールキック。
「っぅ!」
なんとか受け身だけは取ったが、胃液がこみ上げてきて吐きそうになる。
無様に転がったまま、げほげほと数度むせ込む。




