第八章ー6
「ええ、問題はむしろ、これからですよ」
「だね。追撃、いくよ」
秋奈が顔をあげると、既に、二人の目には闘志が宿っている。
どこに逃げたのかも分からない敵を、どう見つけ出すのか、どう追い立てるのか、二人は話し合いを重ねる。
そんな二人を見て、秋奈は自分の不甲斐なさを恥じる。
秋奈はもとの世界では、所謂、文学少女だった。
大流行した異世界転移モノの作品を多く読んでいたこともあり、彼女は常日頃から、そんな世界へ行くことができたら……と想像していた。
実際に転移してみて、彩粒子という超常の力を得ることができ、最初は舞い上がった。
初めての選定式はもちろん驚いたし、衝撃も受けたが、『そういう世界なんだ』とすぐに受け入れることができた。
稀有な能力を獲得し、最強コンビと恐れられている二人に声をかけてもらえた時も、心から喜びを感じた。
問題は、その後だった。
透香と龍海――二人の姿勢は、明らかに異質だった。
戦闘に対して臆することなく真剣に取り組み、どうすれば勝てるのか、まるで、本当にゲームでもしているように話し合うのだ。
最初は、目を輝かせて聞いていた。
素直にカッコイイと思ったし、二人のことを尊敬し、こんな風になりたいとも思った。
無理だと気付かされたのは、攻撃手として二人に同行した、前回の選定式だ。
透香も龍海も、恐れられていた。
それは、数々の武勇をあげてきたからこその、ある意味、名声とも言えるものだったが、その人たちの仲間として数えられ、実際に二人のサポートとして戦いに参加した時、この世界に来て、初めて、震えた。
二人は、ゲーム感覚で物事を考えながら、『本気の人殺し』をしていた。
いっそのこと、この世界で起こっていることは全てゲームで、誰が死んでも問題はないと、そんな風に取り組んでいるのなら、秋奈も何も感じなかっただろう。
二人は、『相手を殺すコト』がどういう結果になるのか、相手に何をもたらすのか、全てを理解した上で、ゲーム感覚で語り合い、勝率を計算し、相手を屠っていた。
つまり、冷酷で、残酷なのだ。
だからこそ、〝最強〟とも呼べるのだけど。
「秋奈、次の標的は、副会長の筑梨茜と、さっきいた灰色の髪の毛をした一年生だよ。いいね?」
「ええ、ええ、もちろん、こちらで対処できるうちは、あなたの出番はないと考えてください。特に、筑梨茜は、カメラなどであなたを認知できる可能性が高い。……気を付けてくださいね」
秋奈は「はい」とはっきり頷く。
二人は自分に対して、とても優しい。
守ってもらったことだってある。
仲間に加えてもらえていなかったら、今、どうしていたか、分からない。死んでいたかもしれない。
二人を見ていればこそ、分かる。
この世界は残酷で、厳しく、不幸が満ち溢れている。
透香と龍海は、冷酷かもしれない。
いざとなったら、自分すら切り捨てて、勝利をつかみにいくかもしれない。
――それでもいい。
秋奈は、既に心の内で決めていた。
二人は、残酷なこの世界に染まってしまっただけで、温かさを忘れたわけではない。
ほんの僅かな付き合いだけど、何度も何度も、優しい言葉をかけてもらった。
何度も何度も、救ってもらった。
こんな世界に来て喜んでいる自分なんかよりも、余程、この二人の方が、生きる価値がある。
――万が一の時は、二人を守ってみせる。




