第八章ー5
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第八高校の生徒会ツートップ、虹沢透香と龍海権蔵ペアに、数週間前、ある一人の少女が仲間入りした。
名を、柴川秋奈という。
四月第二週の選定式中、透香たちのもとへ、「幽霊が出た」、「いきなり人が現れた」と、奇妙な情報が上がって来た。
もしも、『視認できない』能力であった場合、非常に強力かつ、面倒な能力であったため、『無効化』の能力を持つ龍海が出向き、調べることとなった。
慎重に慎重を重ね、手練れ数人を連れ添い、ようやく探し出したのが彼女だった。
聞けば、転移してからまだ一ヶ月も経ってない一年生だというのに、既に相手校生徒を殺しているという。
本人曰く、
「こういう世界に来るのが夢だった」
とのこと。
秋奈の能力は、二年以上選定式に臨んでいるベテランの者たちでも聞いたことがない、稀有な能力だった。
もし、その能力に名前を付けるとすれば、
『意識阻害』
といったところだろうか。
対象者から自分を認識しにくくさせるというもので、分かりやすく言えば、存在感を薄めることができる能力だ。
秋奈が意識して誰かに声をかけたり、あるいは、殺しにかかったりしなければ、基本的には相手から認識されることはない。
しかも、秋奈が『対象外』だとした相手は能力使用時でも秋奈を認識することが可能であり、暗殺者として、これ以上ないくらい凶悪な能力と言えた。
強いて、欠点と言えば、『人間の』意識阻害であるため、カメラを通している場合などは全く能力を発動できないことと、秋奈自身が対象を選ぶ必要があるため、対象を決めない内に、意識の外側から攻撃された場合などは対応できないことくらいだ。
「すみませんでした……」
その、一年生のホープである柴川秋奈は、今、透香たちに深々と頭を下げていた。
秋奈は今回、透香たちから、相手校の首魁とも言える〝天誅〟金牧樋春を討ち取ることを命じられていた。
樋春はこれまで、透香たちと互角に渡り合ってきた相手だ。あり得ないことだが、もし透香が敗れた場合、保険をかけておく必要があった。
確率で勝負する透香にとって、五分の状態で勝負することなど愚の骨頂であり、秋奈の存在は『奥の手』と言えた。
結果は、失敗。
無経験ではないとはいえ、秋奈はまだ数名しか人を斬ったことがなく、樋春が避けたことに気付けなかった。あの状況下で、樋春が体をひねり、自分の刃を躱す可能性など考えもしていなかった。
そこから、事態が急激に動き、焦りは増した。
秋奈はとにかく自分の使命を果たそうと、樋春だけに注目していたため、なんとか殺すことができたが、二人の期待に応えられたとは、到底言えなかった。
だというのに。
「いいよ~。過程も大事だけど、殺せたことに違いはないし、謝る必要なんかないよ」
「ええ、むしろ、柴川さんが殺すことに徹していなかったら、どうなっていたか分かりません。我々も、殺したものだと思って気を抜いていたわけですし、お相子ですよ」
二人は秋奈を責めなかった。
透香は、くしゃくしゃと秋奈の頭を撫で、龍海は自分たちにも非はあったと罪を被ってくれた。
頭に触れた透香の手は温かく、優しさがこもっていた。




