第八章ー3
「真宮、聞いていますか」
唐突に名前を呼ばれ、ハッとする。
視線をあげると、生徒会室の議長席――今まで樋春がいた場所に、一人の少女が立っている。
背丈は綾乃と同じか少し高いくらいで、女子の平均程だろう。オレンジに少し赤を足したような、夕焼けを思い出させる綺麗な髪は、腰付近まで伸びている。シャープな顔立ちで、見るからに上級生だと分かる風貌だった。
そしてなによりも目を惹くのが、肩にかけられている茜色のストールだ。一見、派手に見えるそのストールは、彼女が持っている雰囲気と合っており、美しさを際立たせていた。
第三高校生徒会、副会長、筑梨茜。
彼女はそう名乗っていた。
今この場で、最も頼るべき存在だった。
「すみません」
黒江は素直に頭を下げる。
茜は微動だにしないまま、
「あなたは、生き残りたいという気持ちがないのですか? 真面目に聞いてください」
どこまでも淡々とした口調で言う。
生き残りたくないなんて、そんなはずはない。
少しむっとした視線を送ってしまう。
それに対してもやはり、ピクリともしないまま、目だけで「なにか文句でもありますか?」と語って来る。
――ロボットみたいだな。
それが筑梨茜の第一印象だった。
樋春や透香のような威圧感は感じられないし、外見だけで言うなら、華奢で繊細、なにより、明るい色の髪色から優しいお嬢様のような、気品のある素敵な女性だと思わされる。が、纏っている雰囲気は、まるで逆。
他者を寄せ付けない厳しさと、冷たい雰囲気が体中から滲み出ている。
「一年生であり、実戦経験に乏しいあなたたちに、過度な期待はしていません」
茜は言う。
それでも助けたのは、樋春が命を懸けて守ったからだと。
体育館の天井から電灯が落ちて来たのは、茜が事前に仕掛けていたものらしかった。
他にも、校舎内のいたるところに監視カメラを設置し、状況を把握していることや、体育館だけではなく、あちこちに罠を仕掛けてあることなど、説明してくれた。
誰にも会わずに生徒会室まで逃げおおせたのは、茜の誘導があったからだ。校舎内の状況をカメラで把握し、上手く逃げ切れるよう配慮してくれたのだろう。
「真宮が聞いていなかったようなので、もう一度繰り返します」
茜は抑揚のない口調で、静かに言い切る。
「透香たちは、間違いなく、追撃してきます」
茜曰く。
透香たちが追撃してくる理由は、大きく分けて二つ。
まず、副会長、筑梨茜がいること。
これまでは樋春がいたことで、別の標的がいても、とにかくまず、樋春を攻略しなければならなかった。
本来標的となるはずの人間も、生き延びることができていた。
逆に言えば。
樋春さえ倒してしまえば――。
樋春が倒れ、守備力が大幅に落ちた今、第三高校の『標的』を倒す絶好の機会となっている。
茜は前線に出て来ることがなく、それでいて、通信機や改造制服といった、他校の生徒にしてみれば、厄介この上ないサポートをしてくる人間だ。
今後のことを考えれば、真っ先に標的になる。
透香たちがこの好機を見逃すはずがないのだ。




