プロローグー1
死は誰にでも訪れる。
それは逃れられない現実だ。
病気や事故だけじゃなく、自ら命を絶つ者もいる。
誰にでも平等に、死は訪れる。
だが、経験としてそれを知っている者は全人類の何割だろうか。
――最愛の姉が自殺した。
つい先日、高校二年生になったばかりの真宮黒江は、未だ、そのショックから立ち直れていなかった。
「無理に出て来なくても良かったんじゃないか?」
「いや、大丈夫だよ。あまり休んでもいられないしな」
年度末に姉を亡くし、葬儀の関係で新学期開始前のオリエンテーションなどは全て欠席した。
教師や友人たちからも心配され、「無理をするな」、「まだ休んでいてもいい」と耳にタコができるほど言われたが、黒江は今日から出席すると決めていた。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。そんなに心配するな」
隣を歩く友人は、まだなにか言いたげな様子だったが、黒江は顔を背け、それ以上は拒否する。
教師や友人たちが心配してくるのも分かる。
姉は、いじめが原因で自殺した。
別の高校に通っていたため、直接関わりのある生徒がいるわけではないが、黒江は『学校のいじめが原因で自殺した者の弟』だ。
教師が過敏になるのも仕方がない。
友人らも、黒江をどう扱うべきか考えてしまうのだろう。
「それより、俺がいなかった間、なにか重要な連絡なかったか?」
「ん? ああ、それなら――」
右隣りを歩く友人――赤峰博也と共に体育館へと歩を進める。
今日は始業式だ。
姉の葬儀が済んだこと、今日から通常通り登校できることを報告するため、一度、職員室へ寄ってから来たため、他の生徒とは別行動となっていた。廊下からでも、既に他の生徒たちが整列している様子が確認できる。
黒江たちが最後らしかった。
「――だから、今日は始業式が終わったら解散らしいぞ。終了次第、新入生歓迎会があるけど部活主体だし、黒江は部活に入ってないから出なくても良いんじゃないか?」
「そっか。授業は明日からだっけ?」
「そうなるな」
話している間に長い廊下を突っ切り、体育館前に到着する。
まだ式は始まっていないはずだが、かなり遅れての到着となったため、体育館は静まり返っている。
黒江の通う新潟百山高校は、文武両道をモットーにした高校で、規律、規範に厳しいところがある。こうして全校生徒が集まり、行事を行う際などは、常に教師が目を光らせている。
悪事を働いたわけでも、時間に遅れているわけでもなかったが、なんとなく、忍び足で体育館へ侵入する。
と、
「痛っ!」
「いって!」
不意に頭痛に襲われた。
いや、頭痛とは少し違った感覚だった。
頭が痛んだのは間違いなかったが、体内からなにかが抜き取られたような、不思議な感覚だった。
思わず顔をしかめ、目を瞑り。
次に目を開けると――
「は?」
「ん?」
目を瞬かせる。
何が起こったのか。
黒江と博也は、入り口ではなく、体育館奥のステージ前に立っていた。そこにいたはずの生徒たちの姿が消えている。
それだけではない。
周囲が真っ暗になっていた。
体育館は左右上方に大きな窓があり、日の光が降り注ぐ開放的な造りになっているはずだ。
「……?」
窓へ目を向けてみるが、暗幕がかけられた様子もなく、ただ、闇が広がっている。
見たままの感想を言うならば――
夜になっていた。
そこまで周囲を観察し終えて。
はっと我に返る。
「いやいやいや! おかしいだろ!」
ツッコミを入れてみるが、受け止める相手はいない。
虚しく響いただけだった。