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若き魔界幹部の悩み  作者: 耕眞智裕
か弱き女王の悩み
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8 浅広き世界書(ナロウ・ブック) Ⅶ

「姫様大丈夫でございますか!?」


 鋼鉄のカップが取っ手を残して落ち、鋼鉄のテーブルに鈍い音を立てて香ばしい黒の液体が広がっていく。


「不吉ですわ……」


 オーティマ宮殿に咲く一凛の花。美しきジーマ帝国第二皇女フィーナは儚げな表情でそう呟いた。

 彼女はマレード宰相に迷惑をかけてしまったという自責の念に駆られながらも、想い人の事を思わずにはいられない。今この時に頭にあるのも“あのマレード”の姿であった。


“ダダダダダダ”


 そんな乙女の悩みの時間を邪魔する無粋な音。それは先日より宮殿内外で響いていた。


「もうっ! この音一体何なんですか?!」


 流石に耐えきれず、フィーナは手を振って叫んだ。


「トチノキで政変があったみたいで、うちの国もてんやわんやみたいです」


 慣れたように殺人兵器と化したフィーナの拳を避けながらメイドは答えた。

 ジーマ帝国の隣国トチノキ共和国は今波乱の時を迎えていた。突如軍部の一部が暴走、大統領府を包囲するとあっという間に政権は彼らに奪われた。

 隣国であるジーマも無関係をきめる訳にもいかず、使者を送っての情報収集などを試みているが、思った成果は出ず、今日、向こうから“新政権”の使者を名乗る者達がジーマに訪れていた。


「こんな時に何でもできる君が不在だなんて……」


「仕方がありませんよ。宰相閣下は外遊の任に当たっていらっしゃるのですから」


 仕事を押し付けられていた宰相が不在の中、王の皮を被った漫画家とその一味は隣からの面倒臭いお客様の対応を嫌な顔しかせずこなしていた。


「むぅ…… 絶対女の子とキャッキャしていますわ……」


「キャッキャ? 宰相閣下がですか? いやいやあの宰相閣下がですか?」


「貴方は知らないかも知れませんけどー 昔からあの人天然のガールハンターなんですぅー 設備の相談で女子バレー部の部室に行った時もそうでした。なかなか帰ってこないので私が様子見に言ったら、女の子を囲ってお茶を飲んで楽しそうに談笑していたんですぅー!!」


 欲求不満の乙女は過去の事を思い出してヒステリックに叫んだ。


「それは女子バレー部だからでは?」メイドはそう思ったが、敢えて口にしない。こうなったフィーナは面倒臭いの極みなので、あえて聞くことに徹する事にしたのだった。


「絶対……キャッキャウフフ…… うわーん」












「ねぇお兄さん? さっき肩に当たりましたよね?」


 騎士王のコスプレをした乙女が青年に肩を当て、いちゃもんを付ける。


「え? いや、えっとすみません」


「“すみません”じゃないわよ!! こういう時は分かっているんでしょ!?」


 突然の事に弱気になっている青年に今度は魔法少女のコスプレをした女が追い打ちをかけ、逃げ道を塞いだ。


「あ、あの……」


 魔法少女は舌なめずりをしながら青年がムーンチップを持っているのを確認すると、後方に控える薔薇乙女のコスプレをした少女に道を開ける。


「バ・ト・ル。カードバトルに決まっているじゃない!!

 さぁ、プーギャーナムちゃん! こいつをしばいて下さい!!」


 姫君が心配する宰相閣下は……

 ――少女たちとキャッキャ当たり屋カードゲーマーに堕ちていた……


「あ、あの。勝負です!!」


 三人がヤクザの如き集団に堕ちたのには理由がある。

 決勝にあがるために必要とされるムーンチップは30個。彼らの最後の希望たるヴァサーゴは26個を獲得し、それを透明袋に入れて周知のものとする事で世紀末覇王の如き威光を示していた。

 ――だがそれがまずかった。明らかにヤバい少女の姿は他のプレイヤーを畏怖させ、みりあさんの件も合わせて彼らに近寄る者は皆無だった。

 そして誰も寄ってこない状況に困った三人が出した結論。それが――


 “来てくれないなら、こっちから吹っ掛ければいいじゃない”


 ――であった。

 ヴァサーゴを後ろに隠し、敗北者二人が獲物を見つけて突っかかる。この姑息な行動は意外にも成果を上げ、三人の目の前にいる青年を下せば、ついに目標のムーンチップ30個と言う所まで来ていた。


「ヴァ☆トォ☆ルゥ!!!!!」


 予選サバイバル最後の戦いが始まった。プレイヤー二人は手札が五枚になる様にカードをデッキから引く。

 ヴァサーゴの手札に光が当たり、煌めいて反射するのが、バアルの目にふと映った。


「そう言えば、なんであんなに光物持っているのだろう……」


 俺達三人スタートラインは同じであった。どこでここまで差がついたのか俺には疑問で仕方がない。


「ふっふっふ。お教えさせていただきますわ!」


 耳年増な人形の片割れ、リカちゃんさんが俺の独り言に反応した。俺は集中をカードバトルから人形の口元に移し、彼女の言葉を待った。


「あの単細胞女は光物にしか興味を示しませんでしたけど、“高額カードは必ずしも光物だというわけではない”のですわ」


「つまり光っていないカードの中に宝があったと?」


「イグザックトリー! その通りですわ。あのミジンコ女がゴミの如く主様に渡したカードの中にそれがありましたの。

 私達は体の小ささを生かし、カードショップに入店した際にカードのレートを細かく調べました。だからこそ、ゴミに埋まるダイヤの原石を発見するに至りましたの」


 恐ろしい人形達だ。知らぬ間にそこまでしていたとは。


「後はそれを売却し、新しくパックを買ってレアカードをまた売却する。それを主様は繰り返し、デッキを前線級トップメタにまで強化したのです」


 錬金術。彼女たちがやったのはまさにカードを介した錬金術だった。


「バトルフィニッシュ!!」


 人形からヴァサーゴの強さの理由を聞いているうちにどうやら戦いは終わったようだ。

 うなだれる青年、安心した表情を浮かべ、こちらに微笑みを向けるヴァサーゴ。俺達――いや、彼女はサバイバルを勝ち抜き、予選突破を果たしたのだ。


「私達の勝利ね!! 正義は勝―つ! あっはっはっは」


 イルマはヴァサーゴに抱き着くと、勝利を共有し高らかに叫んだ。だが周りの目は「正義とはいったい……うごごご……」とでも言いたそうな感じで、世の中の不条理を見たように淀んでいた。 



“ゴォーン! ゴォーン!”


 そして祝砲の如く鳴り響く鐘の音。ヴァサーゴが30個目のムーンチップを獲得した事により本選進出の定員が埋まった事を示す合図である。

 長かったアキハでの戦いも、とうとう最終局面を迎える。30個のムーンチップを得た猛者たちは8名。彼らは会場のあるアキハADXに集合し、トーナメントで最強を決するのだ。

 

「ついにここまで来たな」


「ええ。やっとこの街の主とご対面ね」


 アキハADXを前にバアルとイルマは仁王立ちし、強者との闘いに武者震いしていた。お分かりと思うが、この二人はチャレンジャーではない。一勝すらできなかった敗者たちである。


「さぁ行くわよプーギャー」


 だがそんな事は些細なもので、建物に踏み込むと三人の熱意はいよいよ燃え上がった。


「ご観戦の方はこちらになりまーす」


 しかし三人の熱は係員のお姉さんのこの一言で急激に冷める。そしてヴァサーゴだけが赤絨毯の敷かれた選手控室に通されると、俺達三人はヴァサーゴ側の応援席へと進んだ。

 ……ん? 三人? 俺とイルマ、そして人形二体で四人の筈じゃあ……


「あれ? バービーちゃんはどうしたの? さっきまでいたよね」


 気が付くと人形の片割れの姿が無い。俺達についてきているのはストレートヘアーのリカちゃんさんだけだ。


「さぁ、どうしたのでしょう。お花をお摘みに行ったのではないかしら」


(そんなわけあるか!!)


 思わずそう言いそうになったが、レディーにそのような事を聞くのは失礼だと思い、飲み込んだ。

 そして片割れが戻ることなく、俺達は本戦トーナメント一試合目の会場に足を踏み入れた。

 ヴァサーゴの応援席には俺達三人のみ。対して相手には多くのサポーターがついており、応援にも熱がこもっていた。


「これがアウェーの洗礼ってやつね。ふふふ上等じゃないの」


 イルマは凛々しい顔でそう言い放ったが、こうなった原因は“明らかに”“明確に”“他でもなく”俺達がヤクザじみたやり方でムーンチップを集めていたからだろう。ほら、相手席の連中の表情を見ろ「悪人を倒せ!!」と言っているみたいじゃないか。


(ん?)


 相手側の観客席を眺めている中、俺は見つけてはいけないものを見つけてしまった。

 それは先ほどまで俺達と一緒にいた人形の片割れ。そいつがあろう事か敵の応援席の最前列に身を構えていたのだ。


(裏切り!! 何という事か!!)


 まさかの事にアルコールランプの火程度の怒りが灯ったが、不思議な事に最も動揺すべきもう一体の人形は平静を貫いており、こちらもその気を失った。


「レディースアンドジェントルメーン!!!」


 そしてテンションバリ高な司会の叫び声と共にバトルモンスターズ決勝トーナメントが開始される。優勝賞品は限定カード、及び街の主たるZIREズィレと一戦を交える権利。前者はどうでもいい。後者こそ俺達が求めるものだ。


「選手の入場でーす!!!」


 司会が一通りの説明を終えると、この会場で対戦する二名の選手が入場する。無論、その一人は俺達の希望である人形少女だ。

 二人は勝負師の礼儀として、最初に握手を交わす。そしてチート防止の為にデッキを交換し、シャッフルして返した。この静かな一連の儀礼を終えて、二人はついにテーブルを囲う。


「アキハレジェンド杯決勝トーナメント第一試合!!

 ヴァトルスゥターートォ!!!」


 戦いのゴングが鳴り、二人がデッキからカードを引いたところで、遅ればせながらこのカードゲーム『バトルモンスターズ』の説明をしよう。

 カードは大きく分けて三種類。『モンスターカード』、『ウィザードカード』、『ストラテジーカード』の三つに分けられる。

 『モンスターカード』はこのカードゲームの花形であり、三種の中で種類も最多だ。絵柄には言うまでも無く、獣や龍、兵士や悪魔等戦闘を行う主体が描かれており、その周囲には体力、攻撃力、敏捷が数字化されて書かれている。


「モンスターを召喚します」


 最初のターンは多くの場合『モンスターカード』を場に出す。何故なら、『モンスターカード』は相手を攻撃する剣であると同時に自分を守る盾であるからだ。今回もその例に漏れず、二人は『モンスターカード』を場に出した。


「俺のターン!! ドロー!!

よーし。それじゃあ始めるか!! “ミノタウロス”! 敵のモンスターを攻撃だ!!」


プレイヤーは1ターンにつき1枚デッキからカードを引くドロー。また、彼らには体力として20ポイントの数字が与えられ、デッキが枯渇するか、モンスターによる攻撃で体力がゼロになると敗北が決する。


「ウィザードカード“エレメンタルバリア”を発動します!! これで“ミノタウロス”の攻撃は無効に」


「ちっ…… やるじゃないか。流石チンピラトリオだぜ」


 先ほどヴァサーゴは『ウィザードカード』を発動して敵モンスターの攻撃を無効化した。

 『ウィザードカード』は『モンスターカード』の様に場に出して留まらず、体力といった数字もない。絵柄は現象や風景、事物であり、テキストにかかれた効果が発動すると捨て札に送られる。例えば、今回彼女が使用した“エレメンタルバリア”の効果は「敵モンスターの攻撃を無効化し、ターンを終了させる」であり、ミノタウロスの攻撃は無効化され、“エレメントバリア”は捨て札に送られる。

 また、『ウィザードカード』は『モンスターカード』と違い「1ターンに一枚しか使えない」という縛りは無い。テキストにかかれているタイミングであれば何度でも使えるという事だ。


「私のターンです。ドロー!!

 ……場にあるモンスター“パペットガイ”を贄として、“パペットクィーン”を召喚します!!」


『モンスターカード』にも序列があり、より強いものを場に出すにはそれなりの条件が付いてまわる。条件は『手札を捨てる』、『プレイヤー体力を削る』等様々であり、ヴァサーゴが先ほど出した“パペットクィーン”は「場に出ている自分のモンスター一体を捨て札に送る」事を条件としていた。

彼女は一体のモンスターを失った事になるが、その分“パペットクィーン”は強力であり、敵のモンスター“ミノタウロス”のステータスを一回り上回っている。


「“パペットクィーン”で“ミノタウロス”を攻撃します!!」


 モンスター同士の戦闘は、まず、敏捷を参照してどちらが先に攻撃をするか決定される。次に攻撃力の数値分相手モンスターの体力値を削り、ゼロとなれば撃破となる。

 “パペットクィーン“は鈍重高体力高攻撃力のモンスターであり、”ミノタウロス“に先制を許したが、返す刀で”ミノタウロス“を撃破して見せた。


「“ミノタウロス”を撃破。ターン終了です」


 今の段階で、ヴァサーゴの場には軽傷の上位モンスター一体。対して相手の場には何もいない。ヴァサーゴ優勢といえるだろう。


「俺のターン! ドロー!

 …………“ロードランナー”を召喚してターン終了」


 このターン相手が出したのは下級モンスター。返り討ちにされる事は明らかであり、攻撃の宣言も無く、彼はターンの終了を宣言した。


「私のターン。ドローします。

 “パペットソルジャー”を召喚します」


 ヴァサーゴが新たに下級モンスターを場に出した。モンスターには1ターンに一度攻撃権があり、このターン、“パペットクィーン”が敵モンスターを倒した後、“パペットソルジャー”が空になった相手の場を通じてプレイヤーの体力に直接ダメージを与える事が出来る。


「“パペットクィーン”で“ロードランナー”を攻撃します」


 定石通り、ヴァサーゴはロードランナーの撃破を試みる。


「ふふふ。上位モンスター“パペットクィーン”の攻撃をトリガーにウィザードカード“圧政の代償”を発動。場に存在する上位モンスター全てを破壊するぜ」


 “パペットクィーン”の攻撃は相手の放った『ウィザードカード』“圧政の代償”によって阻まれた上、直接破壊されて捨て札へと送られた。

 “圧政の代償”の効果は「上位モンスターの攻撃宣言時に発動し、場に存在する全ての上位モンスターを破壊する」という強力なものであり、同時に上位モンスター対策として定番のものであった。


「うっ…… ターン終了です」


 “パペットクィーン”を失い、場に“パペットソルジャー”だけとなったヴァサーゴはこのターンに“パペットソルジャー”で“ロードランナー”を攻撃した場合、体力は削られるが両者とも倒れるに至らず、次の相手ターン、敏捷で勝る“ロードランナー”で“パペットソルジャー”が一方的に撃破され、新たに召喚されたモンスターによって攻撃されるのを恐れ、彼女は“パペットソルジャー”の攻撃権を行使することなくターンを終わらせたのだった。


「ふふふふ。俺のターン!! ドロー!!

 俺は体力を5支払い、上級モンスター“ビーストドラゴン”を召喚! “パペットソルジャー”に攻撃だぁ!」


 “ビーストソルジャー”は自分の体力5ポイントを犠牲にする事で召喚できる上級モンスター。体力を犠牲に攻撃力敏捷に特化した高火力アタッカーであり、“パペットソルジャー”は反撃も許されず圧倒的なパワーの前に無残に砕け散った。


「よし!!

 続いて“ロードランナー”の攻撃!! チンピラレッドにダイレクトアタック!!」


 盾の存在しなくなったヴァサーゴにロードランナーの凶爪が襲い掛かり、彼女の体力は20から16に減少した。


「よっしゃあ!!」


 先制をとった相手プレイヤーは握り拳を作って叫び、ギャラリーもそれに呼応して応援の声を上げる。


「私のターンドロー……」


 ギャラリーの歓声の中、ヴァサーゴは静かにカードを引く。

 敵には上級モンスター、下級モンスターが一体ずつ。対してヴァサーゴの場には何もない。絶望的な状況であるが、彼女の目にはまだ熱い炎が灯っていた。


「……うん。そうだね。最初からそうするつもり」


 ヴァサーゴは頷いた後にそう呟くと一枚のカードを裏のままテーブルの中心に置いた。


「何!? 『ストラテジーカード』だとぉ!?」


 相手と自分の場を分けるセンターライン。そこに存在するストラテジーゾーンにヴァサーゴが一枚のカードを置いたことに相手プレイヤーは驚愕して呟いた。


『ストラテジーカード』――自分の場ではなく、センターラインに置く事で発動する特殊なカード。

 このカードを出したプレイヤーはそのターン『モンスターカード』も『ウィザードカード』も使用する事が出来ないという極めて大きな条件のあるカードだ。


「モンスターを出しておけば、1ターンは生き延びられるやもしれないのに…… 負けを確信して狂ったのか? ふはははっ! チンピラらしい無様な最期だな!!」


『ストラテジーカード』は極めて博打要素の強いカードだ。リスクは高いがリターンも大きく、戦況をひっくり返すだけの力がある。

 『ストラテジーカード』には効果と共に条件が記され、その条件が満たされれば起動して効果を生じる。だが、場に置かれるのはこのターンと次の相手ターンの2ターンのみであり、それを過ぎると何の効力も無く捨て札に送られる。つまり、この2ターンの間に条件を満たさなければ、リスクだけを払う事になるのだ。


「ターン終了です」


 『ストラテジーカード』を出したヴァサーゴに出来ることは無い。ただ、条件が満たされるよう祈るだけだ。


「俺のタァーン!! ドロー!!

くくく。ドローするまでもない。勝った勝った。間違いなく勝った。何故なら――」


(前のターン俺が引いたカードはお前の最後の希望を粉々に粉砕するものだからだ。

 そう、俺の手札には上級モンスター“文明破壊の獣ペイルビースト”がある。召喚条件は「場にある『ストラテジーカード』を破壊する事」だ。本来であれば自分で『ストラテジーカード』を置き、お膳立てをするのが一般だが、ありがたい事にヤツの方から準備してくれた)


 相手プレイヤーは下卑た笑みを隠そうとしない。そして、その背後で裏切り人形を含むサポーターたちが「鉄槌を加えろ」と腕を振る。


「俺はこいつを出すぜ!!

 超レアカードにして協力無比の上級モンスター!!

 “文明破壊の獣ペイルビースト”!!

 あらゆる営みを破壊し、蹂躙する大いなる獣よ!! 出でよ!!」


 体力・攻撃力・敏捷全てが高レベルの恐ろしき獣。市場価格30万ACの凶悪フィニッシャーで、プレイヤーたちの憧れの的。その凶刃はヴァサーゴの体力など容易く吹き飛ばし、勝利の栄冠は獣の主のものとなるだろう。

 

――だがそれは召喚できればという話だ。


「『ストラテジーカード』“人形狂乱の夜”発動します」


 人形どもが狂気を振り撒き、夜の館で踊る姿が描かれたカードが表になると、相手プレイヤーは絶句し、手札を場上に落とした。

 “人形狂乱の夜”の効果は――「場の全てのカードを破壊し、自分の捨て札に存在する全ての『モンスターカード』を場に出す」――

 そして、肝心の条件は――「このカードが破壊された場合」――

 つまり、“文明破壊の獣ペイルビースト”召喚がトリガーとなってこのカードは発動したのである。


「あ…… ああ……」


 場に出るはずだった勝利の獣は場に出た直後、“人形狂乱の夜”の効果によって破壊され、“ビーストドラゴン”“ロードランナー”と共に捨て札に送られる。

 勝利の確信からの敗北の確定。その落差は相手プレイヤーに嗚咽の声を漏らさせた。


「ターン終了ですか?」


 場に“パペットソルジャー”“パペットクィーン” “パペットガイ”が再生し、圧倒的優位に立ったヴァサーゴは悪魔のように相手に問うた。


「……けです」


「えっと…… ごめんなさい聞こえませんでした。先ほど何と?」


「俺の負けです!! 投了だ!!」


 勝敗は決した。相手プレイヤーにはもはや手立てはなく、ヴァサーゴにターンを渡せば人形どもの総攻撃で体力が0になるのは避けようが無かった。


「「「BOO!!!」」」


 ヴァサーゴの勝利。その不愉快な現実にギャラリーから不満の声が放たれる。だが、結果は結果。俺達は決勝トーナメント第一戦を突破し、ZIREズィレへの確かな一歩を踏み出した。

 ってか、さっきアイツが言っていたチンピラトリオって何だよ。まさか俺達の事じゃないよな。いや、俺達だわ…… 間違いなく俺達だわ……



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