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若き魔界幹部の悩み  作者: 耕眞智裕
か弱き女王の悩み
52/69

3 浅広き世界書(ナロウ・ブック) Ⅱ

 “キュッキュ”


 ソフビ素材の身体が奇妙な音を立て、出迎えた二体は奇妙に踊る。

 そう、彼らは人ではない。人を模った“人形”であった。


「私リカちゃん。あなた達の前にいるの」


「今から主様の元に案内するの」


 金髪ナイスバディでキラキラなバービーそして、彼女から見ると少し地味ながら独特のかわいらしさを持つリカちゃん。大体三十センチほどの大きさの人形たちが俺達を出迎えてくれたようだ。


「何よ。可愛いじゃない!!」


 そんな二人?の姿に俺の従者である女イルマは目を輝かせる。そして、子犬を見てはしゃぐ子供のように二体に近づくと、近くで見る為にしゃがんで目を凝らした。


「えっと、バービーちゃんとリカちゃんだっけ。よろしくね!」


 彼女はにこやかに挨拶すると、手を差し伸べてスキンシップを測ろうと画策するが、それはリカちゃんの強烈な跳び蹴りによって阻まれた。


「っ!! 何なのよ!! ちょっとくらい触ってもいいじゃない!!」


 手痛い反撃にイルマは手を腰に当てて人形を睨み、威圧する。


「あなた。失礼じゃなくて?」


「そうよ。『ちゃん』を付けるのなら、差別なく、私たち二人につけるべきでしょう?」


 人形たちは威圧にも屈せず、表情に出せない代わりにぴょんぴょんと跳ねながらイルマに対して怒りを示した。


「何を言っているのよ? ちゃんと二人とも『ちゃん』をつけて呼んだでしょう!? 『バービーちゃん』と『リカちゃん』って」


 意味不明な抗議にイルマも声を荒げて返す。状況は不理解故の泥沼に突入しており、平行線の言い争いが続きそうだ。


「まぁ、とりあえずよろしくな。“バービーちゃん”“リカちゃんちゃん”」


 そこで俺がこのいつ終わるか分からぬ無駄な争いに終止符を打つ。


「あら。このお嬢様は分かって下さっているみたい」


「上品な方ですわ。それに比べてこっちの無礼女は…… ちゃんと“ちゃん”を付けろこのデコ助ですの」


「誰がデコ助よ!! っていうかなんでそうなるのよ!!」


 イルマの言いたい事も分かる。だが、リカちゃんはリカちゃんであってリカではないのである。


「さぁ、行きましょうお嬢様」


「どうぞこちらへ。足元にお気をつけになって」


 イルマの叫びを無視し、バービーとリカちゃんがマレードに近づくと、ぴょんぴょんと跳ねながら館の入口へと誘う。そして、攻略組一行は人形たちの後に続いて館の中へ足を踏み入れた。

 

「一つ訊きたい」


「何よ」


 外観より広く感じる館のおどろおどろしい通路を、俺達を迎えたバービーとリカちゃんに導かれて進みながら、俺はムスッとした顔で歩くイルマに声をかけた。


「ここに召喚された者が敵…… 例えばここのボスになるという事はあり得るのか?」


「ええ。あり得るわね」


「はぁ……」


「あら、この館の主に覚えがあるのかしら?」


「まぁ、多少ね」


 浅広き世界書ナロウ・ブックに囚われた者達はこの世界での役割を与えられるらしい。俺は英雄、イルマは従者といったようにあてはめられるのなら、他の魔界幹部たちも何らかの役割を与えられている事になる。


「それで、勇者だとか従者だとか言うが、他には何の役割があるんだ?」


「さぁ。そんなの知らないわ」


「え? 知らない?」


「仕方ないじゃない。私が知っているのは全部伝聞なのよ。しかも、浅広き世界書ナロウ・ブックで語られる物語は一つじゃなくて、今回みたいに冒険ものがあれば、学園恋愛ものもあり、弁護士ものやスポコンまで確認されているのよ。そんなことを知っている人なんているのかしらね」


 なるほど、彼女が知らないとすれば、全て出たとこ勝負という事か。まさに未知の世界で冒険という訳だ。


「着きましたの」


「どうぞお入りくださいまし」


 長い通路の先、やっと目的地の部屋に到着した。見た所ここまでに他の部屋に向かう通路や階段、扉は無かった。案内の意味はあったのだろうか。

 そして俺は堂々と、イルマは扉で待機しているリカちゃんに舌を出しながら広く開けた空間に突入した。


「わぁ……」


 まるで美女と〇獣に出てくる食堂のような妖しくも幻想的な空間。その雰囲気に膨れ面だったイルマも感嘆の声と共に表情が緩んだ。


「わぁー 初めてのお客様だぁ いらっしゃいませぇ どうぞこちらに」


 リカちゃんたちに代わって僕たちを案内するのは、時計や蝋燭ではなく、可愛らしい熊のぬいぐるみだった。

 その愛らしい姿にイルマは目を輝かせるが、先の一件に学んだのか、一切の言葉を発さず、ただその姿に視線を向けながら、ぬいぐるみの待つ長テーブルの一席に座った。


「ねぇ、ご飯とかでるのかな」


 勇者一行の一角さんはとても呑気なようだ。俺は呆れて一つ溜息をつくと、彼女の対になる席に無警戒に座った。


“タタタタタ”


 すると二人の前に一列になって熊のぬいぐるみたちが現れ、一礼する。何か始まるようだ。


“テテテッテン

 ニャムちゃん一番 動画は二番

 三時のおやつはnyamu gameニャムゲーム


 ニャムちゃん一番 動画は二番

 三時のおやつはnyamu gameニャムゲーム


 テッテンテン“


 軽快な音楽と共にぬいぐるみは踊る。そして最後に尻尾を立てて可愛らしく振ると、舞台から降りるように去っていった。

 もはや危険しか感じない。

 俺はぬいぐるみの踊りと共に流れていた歌の歌詞に戦慄し、硬直状態にあった。


“ウイーン”


 ぬいぐるみの歓迎が終わると、テーブルから板状の何かが、機械音と共にせり出してくる。それが映像を写すモニターであると分かるまでに時間はいらなかった。そして、それが何を写すのかも……


「まずい!! ここから離れろ!!」


 俺は急いて立ち上がり、気が付かない間に纏わりついていたぬいぐるみたちを吹き飛ばした。


「え? 何? ちょっと! え!?」


 マレードは力づくでぬいぐるみたちをはねのけたが、イルマの力では高速具のように纏わりついたぬいぐるみたちをはねのける事は出来ず、完全に椅子に固定されていた。


“これから楽しい時間が始まるのに駄目だよ!!

 みんなで可愛いニャムちゃんを愛でよう!!“


 どこからか声がすると、マレードの周囲に魔法で出来た夥しい数の浮遊モニターが出現した。


「くっ…… くそう!!」


 魔法のモニターへの攻撃はまるで空を切るように意味をなさない。そして、マレードの行動をあざ笑うかのように、全てのモニターが光を灯し、彼が恐れていた映像が映し出された。

 

「うぃいいいいいいいいいいい↑↑↑↑↑↑っすぅぅう!!

 どうも! ニャムでーーーっす!!!

 アッアッアッアッアッ!!!

 今日はですね…… えっと今日は、あ、これ…… この、えっと、この超スゴイ腕時計!! えっと…… ロリックス?のぉ↑腕のぉ↑…… 腕時計を紹介させて↓いただきまーす!!!!」


 黒魔術がそこで行われたかのような怪しく黒い部屋。そこに佇むはゴシックファッションの少女理想化ニャム。彼女は自分の腕に装着された高級腕時計をリスナーにしたり顔で見せびらかした。


「始まってしまった……」


「ねぇ? どういう事なのバアル? この娘アンタの仲間なの?」


「ああ、敵にしても味方にしても恐ろしい人だよ……

 とりあえず、彼女の映像は観るな! 聞くな!」


 マレードは苦虫を噛みつぶしたような顔でそう言うと、目を閉じて瞑想を始めた。


(俺は無だ…… まるで漂白されたように真っ白な世界…… そこには誰もいなく、音もしない…… )


「えっとぉ。このピン? ネジみたいな奴を動かすとぉ↑ 何と時計の、スゴイ腕時計の針がぁ、スゴイ針が動くんですぅぅぅぅ!!」


 仏陀のように瞑想に入るが、ニャムの声はラーマのように彼の成道を妨げる。


(誰もいない…… 声もしない…… ちっ! 針が動くのは当たり前だろうがっ!!)


 無の世界は容易に侵略された。ニャムの声はドロドロしたペンキのように彼の世界に侵入すると、悍ましい色で染め上げていく。そして、あたかも耳元で囁いているかのように幻聴した。


「この金色のジャラジャラも凄いですよね!! なんかピカピカだし!!

 あっ!! 落ちた!! えっとこの辺かなぁ?

 動画一旦中断ですっ!!」


 勇敢な腕時計君の迫真の落下によってニャムの動画が中断されると、拷問機材と化していた浮遊モニターは一つ、一つ消滅した。

 

「姫の姿でもやはり、俺は…… おれか……」


 危機は去ったかに思われた。だが時はすでに遅し。マレードの精神は既にニャムに侵され、彼の世界は全てニャム印のペンキで塗り固められていた。そして、全くの耐性が無かったイルマは一足先に精神力を使い果たして気を失っていた。


「あら? 感動のあまりお休みしちゃいましたか……」


 消える意識の中、人形少女の声が聞こえた。そして、黒く音のない世界に落ちていった。








「―――てくださーい!!」


 どれほど意識を失っていたのだろうか。俺達は凶悪な精神攻撃を受け、現世と冥界を彷徨っていた。そして何とか現世の岸にたどり着くと、恐ろしい少女の声が聞こえてくる。


「起きて下さーい!!」


「う、うううう……」


 声はもはや休む事すら許されないほどの大きさとなり、俺は瞼を開けて体を起こす。地面はまるでベッドの上のように柔らかく、そして黒かった。


「ああ。起きましたね。よかったぁ~ お姉さんずっと起きないかと思っていましたよ」


 声がする方向に顔を向けると、指が球体関節のゴシック少女の姿が見えた。間違いない。その姿は紛う事なく、人形少女ナナミもとい完全体ニャム。彼女は傍にバービーとリカちゃんを侍らせ、カメラが向けられた椅子に鎮座していた。


「……やっと起きたわねバアル」


 その声の主であるイルマは疲労困憊の様子で、ニャムの前に用意された椅子に人形によって拘束されていた。


「あはっ!! お姉さんたちただのお客さんじゃなくて勇者さんなんですってね。本当はここで少し休んでもらって、生で私のスーパー配信をお見せしたかったのですけど、私の中にある何かが貴方たちを倒さなきゃいけないって囁くんです」


 ニャムはそう言うと、俺の高貴で美しい姿を映すニャムの瞳が少しずつ濁り、人形に指示して拘束されたイルマの顔先に熱々のおでんを差し出させた。


「やめるんだニャム!! そんなことしちゃいけない!!」


「えー。なんでですかぁ? とっても良い絵が撮れそうですよ。そうだ! 拷問実況なんてどうでしょう」


「どうしちゃったんだニャム…… 君らしくないよ。

 あ、そうだ。この姿を見てくれ。君も俺の事は知っているだろう!?」


 危険な香りを放つニャムを俺は必至に説得するが、彼女はその様子を愉しむような残忍な笑顔を見せると舌で唇をなぞった。


「無駄だバアルっ! あ、熱っ!! そいつはもうお前の知っている奴じゃなっ! 熱いって! そいつは役割に支配されているんだ!! あつつつつ!!」


 熱々の大根との死闘の最中、イルマは必至になって俺にニャムが正気じゃない事を伝えた。

 そして今。俺の正気も怪しくなってきた。俺をこの場所まで導いた“HERO”の魂が敵を倒せと唸るのだ。

 敵というのは言うまでも無く、このステージのボスであるニャムの事であり、俺は別人のようになっているとはいえ、仲間を攻撃する事が出来ない。


「早くやっつけちゃいなさいバアル!! げほっ! アンタならワンパンでKOできるでしょ! あががが!! ってか助けてホント! もう無理!!」


 イルマは必至に訴えるが、俺には葛藤がある。ナナミさんと協力して頑張った遊園地完成の時の事が走馬灯のように頭に浮かぶのだ。


「もうっ。

 あ、そうだ。もう実況も始めちゃいましょう。いや、折角だからその前に私の渾身のスペシャル動画『ニャムスペシャルかわいい100連発スペシャル』を鑑賞してもらいましぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 俺は仲間を殴っていた。それは心を決めたからでも、役割に体が動かされたからでもない。ただ、彼女が放った言葉に恐怖したからだった。


「うみゃややややややあ」


 遠慮なき右ストレートの直撃をもろに受けたニャムは奇声を放ちながらコミックのように宙を舞い、部屋の角にある目にキツイ飾りを圧し潰す形で落下した。


「「主様!!」」


 拷問を指揮していたバービーとリカちゃんがニャムの元に駆け寄ると、拷問実行人形たちは魂が抜けて人形の本来の姿に戻り、イルマは拷問から解放された。

そして―――


“!!!CONGRATULATION!!!”


 祝いの文字が空中に浮かぶと、どこからともなくファンファーレがこだまし、館が徐々に透明化していく。館のボス理想化ニャムは勇者の拳によって倒されたのだ。


「はぁはぁ。やったわねバアル」


 館の消滅と共に熱々おでんも消滅したようで、イルマは肉体的後遺症なく俺にサムズアップを示してウィンクした。


「あんたの仲間強敵だったわ。この私が言うのだから誇りに思いなさい」


 そして彼女は俺より先に右手を空に掲げ、勝利のポーズをとった。


「ふわぁぁぁぁあ」


 だが、背後から先ほど倒したはずの強敵の声がすると、先程の勇ましさはどこかに消え、「ひぃ!」という可愛い叫び声を上げながら俺の元に駆けてきた。

 館と共にここの全てが消えたわけではなかった。ここの主だった少女と、彼女を守る二体の人形だけが消滅せず、そのままの姿でそこに残っていた。

 俺は少し警戒しながら、仲間であったはずの少女の元へ向かい、身構えた。


「うーん。あれ? お姫様? どうしてこんなところに? 確か私はホクトで変な本が光ってそれから……」


 彼女の狂気は消え、その姿は俺の知るナナミさんだった。そして俺は安心して警戒を解くと、肩をなでおろし、彼女の耳元に口を近づけた。


「よく聞いてナナミ……じゃなかったヴァサーゴ。

 俺はバアルだ。

 突然現れた勇者の仲間との交渉に夢中になっていた俺は背後で光る本の存在に気が付かなかった。

 俺はその本にあやしい魔法をかけられ、目が覚めたら姫様になっていた!!

 俺がネカマをやっていると勇者の仲間にばれたら、嘲笑され、魔界の仲間にも悪評が広がる。

 何が起きているか全くわからなかった俺は、勇者一行の一人イルマに名前を聞かれて、普通にバアルと名乗り、浅広き世界書ナロウ・ブックの書いたあらすじに転がり込んだ。

 俺は自分の中にある勇者の役割に従うべく、圧倒的攻撃力でニャムを眠らせ、勇者の導きを使って、そこのモノホン勇者の仲間の代わりにこの世界を攻略している。


“女性になっても中身は同じ!! 限界無しの超火力!! 真実はいつも一つ!!”」


「ふみゃ? すみません。ちょっとよく分からないです」


 名天才バアルの解説は少女には理解されなかった。


「つまり、姫様が宰相さ……じゃなかった。バアルでってのは分かったのですが、私なんでこんな所に? 確か目が覚めたらスーパー可愛いエムチューバーになっていて、可愛いお人形さんたちが…… あっ球体関節だ」


 バアルの説明では理解がとどかないと感じ、ナナミ・ヴァサーゴは状況を確認するために自分の手を見る。そしてそこに人形のような球体関節があるのが分かると、ぱぁっと表情を明るくした。


「主様!! 目が覚めましたの!!」


 ヴァサーゴが完全に目を覚ました事で、彼女に駆け寄ったきり音沙汰無かったバービーとリカちゃんも目覚め、歓喜の声をあげて祝福の舞を踊り始める。


「わぁこの子たちも夢じゃなかったんだ」


 二体の動く人形を見たヴァサーゴは大喜びし、人形たちをひとまとめにして抱きしめた。その様子から、彼女がここに来てすぐ役割に乗っ取られていた事が分かる。つまり、理想化された姿を与えられた後、徐々に役割に精神を乗っ取られていったのだ。


「でもなんで宰相様じゃなくてバアルの姿が姫様なのですか? 女装趣味があったとかですか?」


(この子サラッと突き刺さるようなこと言うなぁ)


 バアルのよく知る少女となったヴァサーゴの言葉に彼はは爪楊枝で突かれた様な痛みを心に受けたが、そう思われても仕方のない状態でというのは本人も承知していた。

 

(しかし、何故俺が姫様の姿になったのか)


 この姿でなければ、いわれのない疑いがかけられることも無かった。浅広き世界書ナロウ・ブックが作るのは理想の姿。ヴァサーゴは人気?エムチューバーに、イルマは長身の女戦士にというように理想とした姿を取る。だが俺は―――


(俺の理想ってなんだ? 今の段階で完成度高いんじゃない?)


 理想と言われると確かに困る。俺は今の俺に満足しているし、他の誰かになりたいと思った事もない。勿論フィーナ姫にも。


「それでどうすんのバアル? まさかその子たちを連れて行く気?」


 蚊帳の外からしびれを切らしたイルマの声が聞こえる。もう少しここでヴァサーゴと情報のやり取りをしたいが仕方ないか。


「勿論連れて行くつもりさ。仲間は多い方が良いだろう?」


「でも、その子さっきまで私たちの敵だったのよ?」


 確かにそうだ。この子はヴァサーゴだが、その内にあるのはここのボスという役割だ。連れて行く事なんてできるのだろうか。


“究極動画配信人形スーパーニャムが仲間になりたそうにこちらを見てきます。仲間にしますか

    〈はい〉            〈いいえ〉          “


 そんな事を悩んでいると、まるで俺の心内を察したようにその言葉が宙に出現する。

 俺は微笑み、迷わず「はい」と告げると、この世界の“昨日の敵は今日の友達”的システムに感謝した。ってか、究極動画配信人形スーパーニャムって名前なんだよ……




 現在のパーティは三人と二体。

 勇者バアル。従者イルマ。館の主究極動画配信人形スーパーニャム。そしてスーパーニャムの配下である動く人形バービーとリカちゃん。

 俺達の先の見えない度はまだ続く―――


「で? バアル次はどこに行けばいいの?」


 ここには行先を告げる存在やイベントなどといった親切なものは無い。先の館のように俺の中にある役割に聞くしかない。


「えっと、ちょっと待って……」


(役割さん 英雄の魂さん。ちょっと聞きたいのだけど、次の目的地は何処?)


 自分の心に問いかけるなんて不思議な感じだが、それで答えが返ってくるのは、なお摩訶不思議な気分だ。


「…………目的地は更に北。この道をそのまま進んだ先にある砂漠のオアシス都市。その地の主を滅せよ」


 言葉だけが頭に響き、俺はそれをそのまま口にする。便利というか適当というか。確かに行先イベントが無いのは不親切だが、これは親切を越して馬鹿にされている感がある。


「それじゃあ向かう先は決まりね!!

 砂漠のオアシス都市だなんてワクワクするじゃない。次はどんな体験が待っているのかしら」


 流石勇者一行が一人。典型的な冒険者脳だ。全く呑気でいいな。


「あ、そうだ。

 ねぇアナタえっと……爆笑動画芸人プーギャーナムちゃんだっけ?」


「…………ヴァサーゴと呼んで下さい」


 出発して直ぐ俺達の先頭で足を大きくあげて進んでいた従者サマは突然振り返ると、指を指して新しい仲間に声をかけた。


「あなたのステータスはどうなっているの?」


「え? ステータス?」


「そうステータス。だって、敵の時は強いけど、味方になったら途端に弱くなるみたいなのあるじゃない」


「でもどうやってステータスを見るのです?」


 イルマはヴァサーゴのステータスが気になっていたようで、ステータスの開示をじりじりと距離を詰めながら急かしてくる。だが、ヴァサーゴには見せたくても見せ方が分からない。


「ではスーパーカワイイ主様!! 私たちが説明しますわ!!」


 そこで出てきたのはバービーとリカちゃん。二体は強烈なリーキックをイルマの脛にお見舞いして離れさせると、丁寧に丁寧を重ねてステータスの表示方法を主にレクチャーする。


「それっ」


 レクチャーされた手順通りの動作を行ったヴァサーゴが掛け声と共に指を掲げると、彼女のステータス画面が宙に表示された。


「なるほどなるほど。ま、こんなものよね普通」


 『魔力』と『すばやさ』は高いが、防御面は極端に低いマジックシュータータイプの能力で、イルマが言うように、それらのステータスの平均は俺と彼女とは違って実に平凡だった。


「痛っ! 何よこいつら!!」


「無礼なあなたへの仕置きですわ!!」


 しかし能力は平凡でも、彼女には二体の配下がいる。その二体が敏捷に動き、「すばやさ」が高いイルマの脛を的確に攻撃している事から中々の戦力になり得るだろう。その分を加えれば、俺達に並ぶ戦力といえる。


「さて、行こうか」


 強力な仲間の参入に心強く思った俺はイルマに代わってパーティーの先頭を、白銀の鎧を光らせながら勇んで進む。







「…………何あれ?」


 だが、勇む行進は砂漠のオアシス都市の姿が三人と二体の視界に入った瞬間、その歩みを停止した。

 砂漠など見えない。いや、きっと元々は砂漠だったのかもしれないが、俺達の前にあるのは地面がコンクリートに覆われた摩天楼都市。

 商業ビルと思しき建物の看板には、二次元キャラクターの広告や大手電気量販店の名前。そしてどこからか電車の音が聞こえる。


「あー……」


 俺はまたもこの街の主の正体に察しがついてしまった。

 


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