5 新名解放
「よくぞ我がもとに参集した。褒めて遣わそう」
「はっ、ありがたきお言葉」
幹部たちは声を同にして、魔王に言葉を返した。先ほどマレードに口を利かなかった眼鏡の青年――ジレット・バルバドスも力強い声を放った。
「そして、ようこそ。新たなる闇の眷属よ。我は貴様たちを歓迎しよう」
「ありがとうございます」
新人二人も先輩たちに負けないように声を出した。
「では、まず、貴様たち二人に、この魔界での名と二つ名を与えるとしよう」
(キタキタキタキタ!!)
魔王の一言に俺は歓喜した。ついに幼少からの夢が叶うのだと震えあがった。
「マレード・フォン・ガランドよ」
「はっ!」
「魔界では、我、魔王ユナイテッドの名において『マレード・バアル』を名乗るが良い!!
そして、貴様にふさわしい二つ名を与えよう……
そう……『闇の貴公子』それがふさわしい」
「身に余る光栄!!!」
俺は膝をついたまま、声をあげた。だが、本当は飛び上がった後、そのままブレイクダンスを踊り、歓喜を体中で表現したかった。
「ナナミ・コンチネンタルよ」
「は、はい!」
「貴様の魔界での名は『ナナミ・ヴァサーゴ』。心に刻みつけるがよい。
そして、二つ名であるが……
よし、電子の」
「『パペット・マスター』!! 私の二つ名は『パペット・マスター』が良いです!
『パペット・マスター』『パペット・マスター』『パペット・マスター』『パペット・マスター』!!!」
何を血迷ったか、人形コスプレ少女は、恐怖の魔王を前に二つ名の要求をし始めた。
「え、えぇ…… それじゃあ、その『パペット・マスター』で……」
「ありがたき幸せ!!」
(着き通しちゃったよこの娘……)
ナナミは己が信念を着き通し、望み通りの二つ名を獲得した。その勇気ある行動に、皆は唖然とし、一瞬、空気が凍った。
「うむ、この時をもって貴様らは闇の住人だ。
貴様らに闇の幹部を示す仮面を授けよう。これを用いて地上にて謀略の蜘蛛の巣を張るがよい」
魔王の言葉と共に頭上から黒い仮面がゆっくりと新人二人の元に舞い降りてくる。二人は顔を上げ、それを手に取ると再び頭を下げた。
「仮面を以って、新たなる門出としよう。
立ち上がれ! そして、魔の威光を再び地上に放つのだ!」
幹部たちは立ち上がり、自分たちの仮面を被って翻る。それに合わせ、マレードとナナミも新品の仮面を被り、立ち上がった。
その瞬間、閉まっていたもう片方の幕が上がり、大歓声がこだました。
緞帳の先には数百もの黒い軍服を纏った魔界の戦士が声をあげ、新幹部誕生を祝う。
「新たなる同志よ。己が才能を魔界の為に振るい、成果となって妖花を咲かせる事を期待しよう。
魔界万歳!! 闇の者たちに栄光あれ!!」
「うぉおおおおお!!! 魔界万歳!! 闇の者たちに栄光あれ!!」
空間は広がったが、熱気の度合いは、先ほどとは比べようもないほどの高密度であった。
夢に見た瞬間が目の前で展開され、マレードは宰相就任式典と同レベルの高揚に身が溶けそうになっていた。
桜月の三番目の日。マレードはついに夢を実現し絶頂の時を過ごした。
だが、彼はそれ故に忘れていた。この後に予約された苦しみを 未来に訪れる悪夢を……