表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若き魔界幹部の悩み  作者: 耕眞智裕
気高き偶像青年の悩み
44/69

17 気高き偶像青年の悩み Ⅰ

 能天気な国の能天気な宰相は、遊園地で少女に振り回された疲れが癒えぬまま職務に復帰していた。ここ二日ほど椅子の番をしてもらっていたアンナには、休暇願を送りつけられ、彼は一人で黙々と山積みになった書類に目を通していた。


「生誕祭に伴う、サプライズライブ。

 招待客に祝典パレード。

 マーバス市内の飾りつけ。

 等々……」


 全ての準備が完全に終了しているのを見て、一体誰へのサプライズなのか分からなくなる。これではゲームの〇周年記念キャンペーンみたいだ。


「はぁ……

 だが、皆頑張っている。これだけつめれば、余計な事件が起きない限り、大成功だろう」


 そして、俺は表だけでなく、裏の事も考えなくてはならない。つまり、ヌンティウス・デイの事だ。神に認知されぬ透明の女。だが、俺やジレットさんにはあの忌まわしい女が見えていた。奴は必ずいる。

 加えて、呪道具の件も考えなくてはならない。何故か彼女と、彼女に惑わされている者達は呪道具の収拾に務めている。本気で世界征服でも企んでいるのだろうか。


“大陸を混沌に誘う者”


 世界征服という言葉から、俺はあいつが自分をそう称した事を思い出した。一体何のために混沌へと誘うのか? 争いなどというのは、無論無い方が好ましい。であるならば、あいつはそれを起す事を愉しんでいるのだろうか?


「全く意味の分からない女だ」


 意味深な事だけ言って肝心の内容を話さない人間は古今東西どこでも嫌われる。物事は正確かつ、勘違いのないように伝えるべきなのだ。


「だが、近いうちに会う事になるだろうし、その時みっちり聞き出してやる。そしてその時、俺が幻覚を見ていたわけでは無いという事が証明される」


 俺は今朝、ジレットさんのホテルに連絡を取り、彼に協力する事を伝えた。そして、呪道具を護り、奴にお縄をかける策を準備した。


 我が国でもほんの一部の人間しか知らない事だが、王城の宝物庫には呪道具は存在しない。それどころか、城にすら存在しない。

 だが、ヌンティウスはそうとも知らずにのこのこやってくるだろう。それが年貢の納め時だ。

 こんな事を言うとフラグになりそうだが、敢えて言っておくとしよう。

 我が国の宝物庫は城の地下60メートルに位置し、城内から続く長い階段と通路を経由しなければたどり着けない。宝物庫の正確な座標は秘匿されており、仮にペシェの様なタレント持ちでも到達は困難だ。

 宝物庫に至るまでの経路には全国から呼び寄せた傭兵や兵士、そして憲兵隊が配備され、侵入者を完全ブロックする。

 そして、最後の壁となるのは宝物庫を護る頑丈な扉だ。あの扉は特別で、キーは存在せず、表面を彩る飾りを動かす事で開く“仕掛け扉”なのである。解法を知っているのは王族と王室庁長官のみ、知らぬものが開ける場合、総当たりで無限ともいえる時間を浪費するか、怪盗シーフクラスの技量が必要になる。

 ふっふっふ…… そしてそして、仮に扉を突破されても我々の勝ちは揺るがない。奴の欲するものはそこになく、窒息するほどに密閉された宝物庫は究極の檻となるのだ。

 等々――


「あの女が自分のした事を悔い、命乞いをするのが目に浮かぶなぁ!! あっはははは」


 自分に贈られるであろう最高のプレゼントを妄想し、マレードは笑いながら失敗フラグを立てる。


“コンコンコン”


「憲兵総監ジーノ・フォン・カタルであります!! 例の件のご報告にあがりました」


「入り給え」


 カタルが口にした例の件とは、勿論呪道具守護の事だ。俺は彼に傭兵の召集や、兵の配置を依頼していたのである。だが、その事は彼にとって寝耳に水であっただろう。


「失礼いたします閣下」


 大男の言葉は相も変わらず、いかつく、迫力がある。思わずこっちが畏まってしまいそうだ。


「傭兵の選定は完了し、我が国の公安関係者の選りすぐりを城に配置いたしました。

 ですが……」


「ああ、言いたい事は分かる。だが、俺はこの情報に確かな蓋然性があると考えている。どうか俺を信じて欲しい」


 「魔界の知り合いからの情報です」などと言う訳にもいかず、俺は特殊な外交ルートから得た情報だとカタルに伝えていた。だがこれは外務省を介してのものでは無く、彼らが不審がるのは無理からぬ事であった。


「勿論です閣下。このジーノ・フォン・カタル。生を受けてから全てを閣下に捧げる者であります。疑うなど肉体が滅んでもあり得ません」


 そう語るカタルの目は真剣そのもので、その信奉心は不思議な恐怖をマレードに与えた。


「……ああ、そう言ってくれるとありがたい。

 では頼むぞ、憲兵総監殿」


「は!! 必ずや閣下のご期待に応えます!!」


 カタルの一挙手一投足が風を生み、マレードの髪を揺らした。そして、その巨体にも関わらず静かな足取りで部屋を出ると、宰相府執務室はいつもの静けさを取り戻した。


「はぁ、あと三日か。早いものだな」


 リラックスの為に窓の扉を開け、外を眺めながらマレードは呟いた。

 街中は既にお祭りの化粧が施され、『44』という数字が溢れていた通りには、それに代わって『26』という数字が並ぶ。聞いたところによると、その数字に因んで26%オフのセールを実施している商店もあるそうだが、俺が歳を取ってもこの店は生き残れるのだろうかと心配になる。

 それと、この歳になるとあの中年が生誕祭を嫌がっていたのも理解できるようになった。誕生日が嬉しいのは10代まで、それ以降はその数字が呪いのように見えてくる。「ああ、そうさ。この26年間、俺には女性経験など無かったさ」ってね。


「さて、仕事に戻ろう」


 外を見てリラックスどころか陰鬱な気持ちに苛まれ、俺は仕事という現実逃避に走った。









「良し。完璧なパフォーマンスだ。本番もこれで大丈夫だろう」


 観客無きマーバス国立国際スタジアムにエスセブの声が響き渡る。

 マーバス国立国際スタジアム――収容人数最大三万人の大型施設であり、ジーマ帝国の見栄と散財の具現体であるが、テルカ空港とは違って、スポーツの大会や式典など、定期的に利用され、利益を生み出す優良公共物であった。


「チャー、メン、休憩にしよう」


 エスセブの声の後、ワンワールドリーダーのシュウがメンバーたちに休息を呼びかけた。

 本番を模したリハーサルの後であり、彼らの額には疲労の結晶が輝いていた。だが、彼らの表情には疲れはない。高揚によって疲労が覆い隠されていたのだ。


「だが驚いた。ここに来て一番の驚きだよ」


 世界中の舞台に立ち、舌が肥えているワンワールドのメンバーにそう言わせ、高揚させるほどにマーバス国立国際スタジアムの味は好評であった。

 彼らの感覚は正しく、マーバス国立国際スタジアムはマウントフィールド社の協力の下、大陸全土から音響設備や照明を取り寄せ、見栄の波動を爆発させた黄金の殿堂なのである。因みに、マーバス国立国際スタジアムの財源は数年分の皇室費であり、建設開始から数年間、貴き方々の間では白飯とみそ汁、そして蒟蒻がもてはやされたようだ。


「それじゃあ私は打ち合わせに行くから、昼食でも取って来てくれ」


「うーす」


会場の味を楽しんでも、腹が膨れるわけではない。ワンワールドのメンバーたちはエスセブの許しを得ると、ジーマ政府が作成したマーバス観光マップを広げて近くの飲食店を探し始めた。


「そういやさぁ、あの話どうなってる? もうそろそろ本人に話してもいいんじゃない?」


 着替えのために楽屋に戻ると、ベース担当のチャーがそう切り出した。


「おう。何なら今すぐにしてもいいんだぜ」


 “あの話”とは僕たち三人がずっと前から実現させようとしていた新メンバー加入についての話だ。

 別にオーディションを開こうとか、そういう訳じゃない。誰を迎えるかは最初から決めており、僕たちはその為の準備を少しずつ進めてきたのだ。


「マル喜ぶかなぁ。あの人昔から俺たちの何倍も練習していたし」


 そう、僕たちはワンワールドのプロデューサーであるマルク・エスセブをもう一人のベース、あるいはキーボードとして迎え入れたいと思っていた。彼には才能は無かったかもしれないが、努力と音楽に対する情熱は僕たち三人を超えていると、皆思っていた。


「ああ、そうだな」


 だが、この事が話題になると僕の心臓は締め付けられる。チャーもメンも知らぬ事だが、恩知らずにも、僕はこれから親友マルクを陥れようとしているのだ。僕をここまで導いてくれた恩人を――


 僕がマルクと出会ったのは今から6年前。合衆国の大して有名でもない普通の公立高校でのことだ。


(はぁ、全く三次元リアルっていうのは下らない。魅力的でもなければ、合理的でもない。無意味な知性を持ったたんぱく質の塊が全く建設的でない行動を繰り返すだけ)


 僕は退屈なリアルに飽き飽きしていた。――いや、違う。僕は自分の好きなものを排斥しようとする奴らに細やかな抵抗をしていただけかもしれない。


(だが、あの素晴らしい二次元バーチャルを作ったのは三次元の人間なんだよな。三次元の作品を三次元の人間が貶す、本当に馬鹿馬鹿しい)


 僕の入った高校は漫画やゲーム、アニメ等を敵視し、学業の妨げとする風潮が強かった。たまたま現役で国立大学に合格した者が出た事で進学校と勘違いし、無意味に校則が厳しくなると同時に生徒のプライベートに口を出すようになったのだ。

 画面の奥にある手の届かない理想郷が僕の世界であり、世俗の事なんて全く興味が無かった。それ故に友人など出来ず、ただ校舎の窓から見える空を眺める事を学園生活の楽しみにしていた。


「よぉ!!」


 だが二年生に進学してすぐ、僕にしつこく付きまとう奴が現れた。

 男の名前はマルク・エスセブ。二年生になって初めて教室を同じくするクラスメイトの一人だ。


「…………はぁ」


 僕はマルクのしつこさに呆れると同時に少し感心した。今までここまで熱心に付きまとう奴なんていなかったのだ。


「でさぁ、あの話どう?」


「……あの話? 軽音楽部の事か?」


「そうそう」


 マルクは軽音楽部を作る事を望んでいた。部の結成には最低四人の部員が必要であり、生徒会と教員の認可が下りなければ部室も与えられなかった。

 そして、本校には過去に軽音楽部なる部活が存在した事はなく、文字通り何もない所からの出発であり、彼の野望は無謀に思えた。


「……分かった。その軽音楽部に入ってやってもいい」


 だが敢えて僕は彼の提案を飲むことにした。しかしこれは軽音楽に興味を持ったわけでも、マルクに同情したわけでもない。このしつこいコバンザメを引きはがすいい機会だと思ったのだ。


「マジ!? うぉぉぉぉおお!!! ありがとう!! ありがとう!!」


 “こいつの前でアニソンを披露し、失望させる”それが僕のプランで、嬉しさのあまり飛び跳ねるマルクの不快な顔が歪むのを想像し、僕はほくそ笑んだ。



――――だが僕はこの男を過小評価していた。


マルクの誘いで訪れた駅前のカラオケ屋。これは奴を失望させる絶好の機会だと僕は思った。

そして男二人のむさ苦しい個室で、僕はマイクを握る。歌うのは『魔女っ子プリティーファイブ』主題歌『跳んで!私のラブエモーション』だ。迫りくる悪の軍団との戦闘と、乙女の恋心が錯綜する王道的傑作アニメだが、つまらない凡人には理解できない子供じみたものだと思われる作品だ。


「跳べ!! 私の想い!! 私の恋心ぉ 貴方の心にぃぃぃ」


 主人公の“心炉こころゆめみ”の迸る愛を込めた主題歌『跳んで!私のラブエモーション』を僕は一切の妥協なく、腹の底から歌い上げた。ここにいるのはどうでもいい肉人形一人。ただ、僕はアニソンに自分を重ねる事を愉しんだ。


「ふぅ……」


 歌い終わり、一息ついても拍手の一つも無かった。“計画通り”僕はそう確信した。

 だが――


「――僕の目に狂いはなかった。素晴らしい歌に素晴らしい歌声…… 僕は猛烈に感動しているっ!」


 マルクから出た言葉は予想外のものだった。しかも、信じられない事に感情が揺さぶられ、彼の目から滝のような涙が流れていた。


「…………」


 僕は絶句した。全く予想していない彼の態度に頭がエラーを起こし、フリーズしていた。

 そして正直「ヤバい人」だと思った。


 それからよくあるアニメの展開のように、なし崩し的に軽音楽部(仮)とやらに入らされ、部活ごっこが始まる。

 勿論、二人だけでは“部”として認可されない。僕たちの最初の目標は自然と新たな部員集めに収束する。


「よし!! ライブをやろう!!」


 それがマルクの提案した部員獲得策であった。だが、軽音部には部室も、音楽を披露する事が出来る会場も無い。


「ライブって…… 一体どこでやるつもりなんだよ?」


 僕が至極当たり前な反応をすると、マルクはその反応を読んでいたように笑い、ブレザーのポケットから一枚の紙を出した。

 そこには“町内のど自慢大会”という言葉が踊り、募集条件には年齢や性別などの記載が無かった。だが正直言って、この大会は所謂典型的な“老人が人前でカラオケする会”であり、僕は眉をひそめてにっこり笑うマルクの顔を覗き込んだ。


「もうエントリーはしたから!! このライブで箔をつけて部員を集めようぜ!!」


 全くこの男は勝手が過ぎる。

 僕は光に向かって後先見ない虫のようなマルクに、「これはライブというより、なれ合い系歌謡大会だぞ?」と言ってやろうと思ったが、彼が曲の選択権を僕に委ねると付け加えた事で、その言葉を一旦飲み込んだ。

 好きな曲を精いっぱい歌うという事に僕は極上の快楽を得ていた。しかも、それは観客のいないカラオケ屋では満足できない域になっており、イドの部分で「人前で歌いたい」という願望が培養されていた。だから、僕はマルクの案にケチをつけず、乗る事にした。


(まぁ、僕は歌えればそれでいいか)


 かくして、僕たちは本番に向けて練習を開始する。

 僕は手ぶらで、マルクはお年玉と小遣いをはたいて購入した自慢の中古ギターを手に、空き地や隣町の駅前広場で行き交う人々の苦笑を尻目に練習を続けた。


 いくら笑われようが、歌う事は楽しく、一ヵ月以上先だったにもかかわらず、その日が来るのは体感的には一瞬だった。

 会場は地方テレビ局が保有する文化ホール。文句をつける程酷い場所ではないが、賛辞を贈るほど素晴らしい場所でもない。良くも悪くも凡庸な会場だ。


「僕たちの汗と涙の結晶が、ここで宝石に代わるんだ!! 頑張ろうぜ!!」


 マルクがなんかカッコいいこと言っているが、僕は汗と涙がどうなろうがどうでもいい。「さっさと歌わせろ」という感情しかない。


「君たちは5番ね。この紙を持って入って右の部屋で待機してください」


 不愛想な係員に通された殺風景な待合室で、僕たちは自分達の番号である『5』がアナウンスされるのをギィギィと音が鳴る頼りない椅子に腰かけて待つ。周囲は皆60歳を超えていると思しき者達で、ティーンエイジャーの僕たちは完全に浮き、トキオの高齢化が絶望的な状況だと錯覚する。


“エントリーナンバー3番『三途屋形船』さん。ステージに上がってください”


 壊れかけのスピーカーから番号が伝えられる度に、待合席に並んだ年上の演者達が少しずつ減っていく、それは視覚的に出番が近づいてきている事を示すものだった。


「…………」


 そして、さっきまで息巻いていたマルクは、借りてきた猫のようにおとなしい。どうやら先程までのは自分を鼓舞するための空元気だったようだ。


“エントリーナンバー4番『琵琶湖法師』さん。ステージに上がってください”


 そのアナウンスの後、4と書かれた正方形の紙切れをポケットに入れ、琵琶を持った男性が腰を曲げて部屋を出ていくと、ついに僕達だけが待合室の占有者となった。


「なぁ、兄弟……」


「僕の親が君の親と再婚したなんてことはないぞ」


「僕たちちゃんとやれるよな? これで軽音楽部安泰だよな?」


「安泰? そもそもまだ認可すらされていないじゃないか」


「…………」


 二人きりになると、マルクは僕の話を聞き流しながら不安をぐちぐちと吐露し始める。彼はここにいる誰より不安で、緊張に身体を震わせていたのだ。


「大丈夫。その為に僕たちは練習してきたんだろう? 僕達ならどこにでも行けるさ」


 仮にこのステージで評価されても、新入部員が来るとは限らない。だが、マルクの並々ならない努力を見ていた俺は彼に躓いて欲しくなかった。

 努力は決して全て報われるわけではないが、報われて欲しいと思うのは自然だ。


「ああ、そうだな。僕達ならできる!! 一緒にトキオ一を目指そう!!」


 豚もおだてりゃなんとやらだ。やたらとでかい事を言っているが、この男は自信満々で僕を困らせる程度がちょうどいい。不安そうな姿はこっちの調子も狂わせるからな。


“エントリーナンバー5番『公立イッセー高校軽音楽部』さん。ステージに上がってください”


「なんだ。お前の事だからグループ名位つけていたかと思ったよ」


「いや、練習の事ばかりで、そんな事考える余裕も無かった」


「はぁ、じゃあこれが終わったら考えよう。先ずは演奏に集中だ」


 不安を払い、僕たちは初めてのステージに登る。そして、この小さなステージが後々、尾ひれに尾ひれを加えられ、伝説のステージともてはやされる事になるなんて、当時の僕たちは思いもしなかった。


「え、えっと…… 僕たちはイッテーこっこうでぇ…… そのぉ軽音? 軽音楽をやってまして……

 いっぱい練習したから聞いてくだちゃい!!」


 存外緊張が表に出る男の様で、マルクは言葉を詰まらせながら、空席だらけの客席と三人の審査員に向けて挨拶した。

 中年の男審査員は小馬鹿にした様に笑い、厚化粧の女審査員はパフォーマンスもまだだというのにスコアシートに数字を書き始める。そして、最後の一人は花提灯を浮かべて夢心地だ。加えて、数人の観客はシート三つ分を占領して横になる者や、禁止されている飲食をする者、椅子に胡坐を掻いて本を読む者など、絶望的な退廃感を醸し出していた。


(これはトキオ一なんて程遠いな)


 想像していたよりはるかに酷い光景に苦笑すると、舞台左右のスピーカーから僕のよく知る曲のイントロが流れ始めた。

 曲は超有名アニメの挿入歌で、劇中ではキーボードやドラムを含んだ女性メンバーで演奏する曲だが、ここにいるのは男二人。それをカバーするのが今流れるカラオケ音源で、ギターを弾くマルクより、歌を担当する僕の方が責任重大だった。


「渇いた こころ 駆け抜ける」


 練習通りの歌いだし。僕は練習でも妥協しない。つまり、ここでも最高の声を出せていた。

 だが、今日はいつもと違った。

 緊張や環境の所為ではない。僕の心の底で何かが開き、そこから濁流のように何かが出てくると、それが身体を巡り始める不思議な感覚。

 それは奇跡だった。この地を始点として、僕とマルクの未来に大きな影響を与えた奇跡。

 この絶妙なタイミングに僕はタレントに目覚めたのだ。学生LVが20の報酬として受け取ったその力は――


――『感情伝達』――


 声に自身の心情を乗せ、リスナーの心にそれと同じ感情を強制的に芽生えさせる魅了の力。

 僕の声に感情が乗り、聞く者すべてに伝わると、まるで伝染病が発症するように感化していく。その力の全貌を知ったのは少し先の話で、今はただ歌う事を楽しんでいた。


「だから わたし」


気が付いたらここにいる者達全てが僕の歌声に酔いしれ、マルクはギターを弾く手を止めると、恋する乙女のように頬を紅潮させて歌を聞き始めた。

寝る事なんて許されない。無視する事なんて許されない。「俺の歌をきけー!!」等と叫ばなくても、彼らは耳を傾けざるを得ないのだ。


「…………」


歌の終わりにはしばしの沈黙。僕を除くすべての者が感情の津波で頭をかき乱されて整理するのに時間を要していた。

そして、一人の拍手が始まると、それがドミノ倒しに連鎖し、会場が拍手に包まれた。その中には拍手を受ける立場であるはずのマルクも含まれていた。


「ご清聴、ありがとうございました」


 魅了状態のマルクの代わりに僕はパフォーマンスの終了を宣言し、一礼するとマルクを引っ張って入った時と逆の舞台袖に下がった。

 その時僕は笑っていた。人前で歌う事で、初めて三次元リアルに喜びを感じた。




「はぁー……」


 あのライブから十数日。

 審査員の高い評価を受け、地元テレビでも紹介された事で、僕たちの事はそれなりに話題になった。

 だが所詮その程度。情報の波が間断なく押し寄せるこの情報化時代に僕たちの活躍は、波間に揺れるクラゲの如く押し流された。最初の時には入部を示唆する者もそれなりにいたが、「歌う」のと「聴く」のは別物であり、彼らの行動は後者へと流れていった。

 けれど進展がなかったわけではない。僕たちの活躍により、部の認定は受けられなかったが、空き部屋の一つを提供と学際や新入生歓迎会、入卒業式での公演が学校から認められた。

人に歌を披露する場が与えられたことに僕は歓喜したが、部長(仮)の感情は複雑だ。部員が増えない悩みが先の溜息となって表出していた。


「まぁいいじゃないか。僕たち二人だけだが、殆ど部活みたいなものだろう」


 僕は能天気にもそんな事を言ってマルクを励ましたが、彼は前みたいな笑顔は見せない。ただ、僕を心配させまいと作り笑顔で答えるだけだった。


 ――時は流れ、僕たちの学生生活は終わりを迎える。

 あれから幾度かライブをしたものの、結局、新入部員の獲得は叶わず、僕とマルクの卒業を以って、儚い軽音楽部(仮)は高校から姿を消した。

 けれど棒たちは諦めなかった。いや、僕はマイペースに歌を歌っていただけ、夢を追いかけていたのはマルクだけだった。

 僕はマルクの腰にぶら下がるように、彼の行くところ向かう所について行き、上京すると、いつも通りに歌う事で快楽と雀の涙の御駄賃を得るという生活が続いた。その過程で後にチャーとメンとして世界を駆けるメンバーと出会い、ついに僕らのバンドはデュオから4人グループに成長した。

 だが現実は厳しい。路上ライブに人の足は止まるが、それ以上にはならない。アーティストを目指す若者は輝く星々のように多く、芸能界とのコネがない単独星にはスポットライトが当たらない世界だった。

 メンバーの中心であるマルクの苦労は想像もできない。幾度と芸能界の端に触れ、その数だけ挫折していった。対して僕は歌う事に何の不自由も無い幸せに酔いしれ、彼の苦しみに気付く事が出来なかった。


「やったぞ皆!! ついに僕達にもチャンスが舞い込んできた!!」


 そんなある日、いつもは誰より早く来るマルクがこの時初めて遅刻し、封筒片手に集まりに現れた。


「どうしたんだ? 遅刻なんてお前らしくないぞ」


 「体調不良か、それとも精神的に何かあったのか」メンバーたちはそう思うと、心配そうにマルクを見つめた。


「大丈夫だ。そんな事よりコイツを見てくれ!!」


 懐かしい満面の笑顔でマルクは、手にした封筒の中身を取り出すと、メンバーたちが囲うテーブルの上に置いて注目を集中させた。


「…………これは」


 それはアイドルの登竜門的番組“ザ・ヤングス”の出演依頼と推薦状であった。

 本来、芸能界の大物の密な繋がりが無ければ雲の上のメジャー番組であり、それの出演機会を僕達みたいな底辺の路上バンドが得られるなんて信じられない。

 チャーとメンも同じ考えの様で、喜ぶべき案件の筈にも拘らず、二人とも首を傾げ、訝しんだ。


「いやさぁ。俺達、芸能界やつらにアーティストの卵とすら見られていないんだぜ? そんな俺たちがオーディションどころか、直接番組に出られるなんてあり得ねぇよ。こいつは偽モンだ。アンタ人が良いからまんまと騙されたんだよ」


 メンが言うように、僕達にはこんな有名番組に出られるような資格なんてなかった。世の中には、夢と希望を胸に上京した若者を嘘で弄ぶ不届きな連中がいるという事は度々耳にしており、「とうとう僕らもやられた」とその時は思っていた。


「いや、これはちゃんとしたスジから頂いたモンだ。ほら、ここを見てくれよ」


 マルクが皆の疑いを晴らす為に指した指の先には、僕たちのよく知る大物芸能人の達筆なサインと四角形の偉そうな印が捺されていた。


「いや、だけどよう…… このサインが本物かどうかは分からないしなぁ…… それにお前とこの人は知り合いじゃあないんだろ? 知り合いならもっと早く言ってくれていたはずだし……」


 メンの指摘にマルクの笑顔は曇り、何も言わずに下を向いた。彼の心にも「騙された」という言葉が浮かんだのだろう。


「まぁ、行くだけ行ってみよう。“もしかしたら”ってのがあるかもしれない」


 静かになる部屋の中で、僕はそう提案した。暗い顔で今にも崩れ落ちそうなマルクを見ていられなかった事と、僕たち底辺アーティストには失うものは無いという背水の勢いから出た言葉だった。


「ああそうだな。もし、偽だったら美味いもん食って気分を紛らわそうぜ。で、マジだったら、祝杯で美味いもんを食おう。な? 兄弟」


 チャーが豪快に笑い、マルクの背を叩いた。それは彼なりのマルクに対する慰めであった。




 そして収録当日。


「おいおいマジかよ……」


「ああ、こいつはマジに祝杯もんだぜ! でかしたぞマルク!! こいつは大金星だ!!」


 会場となる国営文化ホールには、次世代を期待された名だたるメンバーと共に、僕たちのグループ名“ワンワールド”の名があった。

 後に大陸中に知れ渡るこの名は、僕とマルクの最初のライブの後、母校の名の由来とされる言葉から、軽音楽部の将来を願って付けられたものだった。その願いは儚く潰えたが、その名は思ってもいない大舞台に今記されているのだ。


「あは、あははははは…… 良かった。本当に良かった……」


 自分が騙されていなかった事に安堵し、腰を落とすと、マルクはよれよれの笑顔を見せた。だが、実の所、安堵なんてしていられない。なにせ、偽物だと信じ切っていた僕たちは一切の練習をしてこなかったのだ。これはノー勉で入試に挑むが如き愚行である。


「あはははは」


「やっべぇ…… これどういう気持ちで祝杯すればいいんだ……」


 一瞬の歓喜の後、チャーとメンも自分が置かれた状況を思い出し、顔を青くする。だが、そんな事言っても、やるしかないと決意し、地面に座り込むマルクを立たせると、僕たちは文字通り、成功への門を潜った。


「やっべぇ…… やっべぇ……」


 門前払いは無いが、外に蹴飛ばされる可能性はある。いや、その可能性が高いというのを他のアーティストのハイレベルな演奏でじわじわと思い知らされていく。


「やっべぇ…… やっべぇ……」


 おかげさまで、メンは同じ言葉を繰り返すだけの壊れたラディオになり、マルクもチャーもさっきの喜びが吹っ飛んだように虚ろな目で虚空を見つめていた。

 僕はと言えば、かつてないギャラリーの多さに興奮の鼓動が止まらなかった。早くカタルシスを得たいと息巻いていたのだ。


「続いてはこのグループ!!

 あの大物タレント“ジャバ・ザ・ゴットさん”のお眼鏡にかなった、期待の新星!!

 えっとぉ……“ワンワールド”です!!

 さぁ、その力を見せてくれ!!」


 ハードルをガンと上げられ、僕たちのグループが呼ばれると、「はいっ!!」っと飛んだ声を出し、僕たちは姿勢もタイミングもバラバラに立ち上がった。その様子に何か察したのか、ギャラリーも司会の男も口尻を引きつかせた。図星である。


「えっとここがここで……」


 リハもした事のない未知のステージに、メンバーは立ち位置の理解すらままならない。僕らのたどたどしい様子にどこからか、笑う声が聞こえる。


「え、えっと…… 僕たちはわ、ワンワールドっていう…… そのぉ 音楽グループをやってまして……

 いっぱい練習したから聞いてくだちゃい!!」


 いつか聞いたセリフに不思議と安心する。だが、今回は彼の言葉に嘘があった。いっぱい練習なんてしていまちぇん。


“カツッ カツッ”


 ドラムのメンがスネアを弾き、僕たちの大勝負が始まった。

 曲は路上で演奏していた最も馴染みのあるオリジナルソング。

のはずだったが、緊張と慣れない環境にチャーもメンも走り気味だ。マルクに至っては途中途中で音が止まる。


(でもそんなの関係ない。僕は僕が好きなように歌うだけだ)


「なんで♪ なんで♪ 蛍はすぐ死ぬんー」


 野垂れ死にしそうな毎日を思い浮かべながら、僕は音楽に言葉を乗せて会場の先まで送り出す。


「腕があ♪ 腕が♪ 僕の腕がぁー」


 正直、チャーが身を窶して作った歌詞の意味はよく分からない。だが、思い浮かぶのは辛くも楽しい毎日。

 その感情が歌に乗って、全ての者達を感化させる。僕の思いが彼らに届き、自分が主体となって疑似体験させるのだ。

 

「こんな幸せな気持ちで♪ もう何も怖くない♪」


客席の何人かは涙を流している。だが、これは僕たちの演奏が優れているからではない。ただ、タレントでズルをしているのだ。けれど、僕には制御できない。感情が昂ると濁流のように思いが伝わっていく。


「アンインストール――♪」


 歌い終えた時に見る光景は、どこであろうと同じ。

 皆無防備に感情を受け入れ、ただ涙し、スコールの様な拍手の音が場を包む。


「ワンワールドの皆さんありがとうございましたー!!」


 僕はただ、今までにない極上の快楽を貪った。他の事はどうでも良かった。技術で評価されたわけではないという後ろめたさもどうでもいい。マルクが何故“このような機会を得る事が出来たのか”という疑問さえもどうでもいい。


 僕たちは虚構の評価で番組を成功させ、大物芸能人の顔に泥を塗る事を回避した。

 そしてスターダムへのし上がる事になる――


 “ザ・ヤングス”の成功からものの数週間で僕たちは十を超える番組の出演を獲得した。とんとん拍子に“歌の場”が増える事に歓喜しつつ、トキオの芸能界がコネと人脈が全てでそれ以外は塵芥のようなものだという事に恐怖した。

 まぁ、何にせよ。僕たちは、何もない所からその厳しい世界のパスを手に入らるに至ったのだ。これも全てはマルクがチャンスを運んでくれたお陰。僕らは彼に全てを賭けても感謝しきれないだろう。


「おい! それはどういう事だ!!」


 だが二か月を過ぎ、少しずつ活動に慣れてきた頃、その最大の功労者に事務所は残酷な決定を下す。


「いいんだチャー。僕らがこの世界で生きていくうえで上の決定は絶対…… 仕方ない事なんだ」


 送られてきた通達には『ワンワールドからマルク・エスセブを外す』と誤解しようのない書き方で記されていた。その理由として“ヴィジュアルがグループに相応しくない事”と“技術が及第点に達していなく、努力によっても埋める事が出来ないと判断された事”の二つだけが付記されており、僕たちのはらわたは煮えくり返った。


「何なんだよ!! こんなの納得できるわけないじゃないか!! マルクが一番頑張っていたんだぞ? それなのにこんなのって……」


「僕には音楽の才能は無かった。それだけさ。

 それに見た目も皆みたいに煌びやかじゃないし」


 一言一言が悲しみを纏い、どこか怒りも垣間見られる。マルクもこの通達に納得していないのは明らかだった。


「でも、僕はこれからも皆を見守っているよ。

 ほらこれ。事務職だけど、この事務所にいられそうなんだ」


 悲しみの雲を振り払うと、そう言ってマルクは作り笑いで別の書類を僕たちに見せた。それは僕たちの事務所の職員異動通知で、事務所が彼を路頭に迷わせまいと用意してくれた受け皿だった。


「だからさ……」


 その時マルクの瞼の堤防は限界に達した。悲しみの濁流は彼の頬を伝い、床のタイルに水たまりを作ると、嵐のように声をあげた。


「くっ」


 僕は耐えられなかった。仲間の鳴き声に呼応して飛ぶ蝉のように、僕は部屋を出ると、階段を駆け上がり、事務所の責任者で大物タレントであるジャバ氏の自室の戸を叩いた。


「ジャバさん!! ワンワールドのジレット・B・エアウェイです。お話が!!」


三次元をクソだと笑っていた僕がこんなにも必死になるなんて思ってもみなかった。全部マルクの所為だ。あいつがリアルの楽しみを見せなければ僕は……


「入り給え」


 戸の中から聞こえる力強い声。それを待っていた僕は戸を開けると頭を下げ、対面する大男の顔を見上げた。


「それで? 何か用かな?」


 ドワフ族の血を引くジャバはその血の濃さの象徴である大きな体を起こすと、腰ほどの高さの小人ジレットを上から見つめた。


「はい。本日納得しかねる通知を事務所より頂きました。内容は――」


「エスセブ君の件だろう?」


 ジャバさんの巨体と長年この業界で戦ってきた事で生まれた威圧に呑まれそうになったが、僕は今遭遇している事態に対する不満を怯むことなく投げかけた。

 だが、それはジャバさんの予測の範疇だったようで、渦中にある者の名を低い声で呟いた。


「……はい。僕たちは…… 僕は納得できません。彼は――」


「向こう見ずだが、誰より努力家で前向きで、それにチームを引っ張るリーダーシップがある」


「……はいそうです。それなのに――」


「何故彼を外したのか。と言いたいのだろ?」


 まるで重量のあるサンドバックを殴るみたいに、僕の訴えがそのままジャバさんの口から返ってくる。その時ジャバさんが僕たち以上にマルクの事を見ていた事に初めて気が付き、何故か先までの興奮が嘘のように脱力した。


「そこに座りなさいエアウェイ君」


 ジレットの落ちる身体を大きな掌で支えると、ジャバは人間やエルフ用のサイズの椅子を指差し、座るように指示した。

 ジレットはそれに従い、よろよろと身体を揺らしながら示された椅子に近づくと、全身の力を抜いて身体を柔らかいそれに預けた。


「君はこれからもっと大きな世界に出ていく事だろう。

 だから、知っておくべきかもしれないな」


 ジレットが椅子に腰かけたのを見届けた後、ジャバはその正面にある巨大な一人用ソファーに巨体を乗せ、虚ろな表情のジレットを睨んだ。


「君たちも知るように、この世界はコネと人脈――

 だが、それは表面の見えている部分に過ぎない。

 芸能界の真の支配者は我々ではなく、後ろで支援して下さる財界の有力者やスポンサーなのだ。我々も彼らには逆らえないのだよ」


「やっぱり金ですか……」


「ああそうさ。彼らがいなくては番組の出演はおろか事務所の皆を食べさせることも出来ない。金は事務所を維持させ、皆が生活するために必要なのだよ」


 そんな事を知ったところで僕にとってはどうでもいい。僕が欲しいのは通知の撤回だけだ。


「その為には苦渋の決断をしなくてはならない時がある。

 不思議な話で、エスセブ君の件はある大株主様の要望だったのだ。私も寝耳に水でな。聞いてみたのだ。“理由をお聞かせください”と――

 そう言ったら奴さんなんて返したと思う?

 “理由ですか? まぁ、とりあえず見た目と能力不足って事で”

 いやー、驚いたね。こんな取って付けた理由で若者の将来を振り回そうというその態度に。

 でね。むしろ僕が君に聞きたいのだけど。エスセブ君は一体何者なんだい?」


「え? どういう事です?」


 急な話の転換に僕は戸惑った。


「いやね。その大株主様が彼の脱退後の人事にも口を出していてね。

 どういうお関係なのかと思っただけだよ。エスセブ君も話してくれないし」


 なるほど。ジャバさんが僕を易々と部屋に入れ、こうして話を聞いてくれた理由が分かった。彼もこの件に納得しておらず、このような結果を生んだ原因がマルクの立場にあると考えていたのだ。

だが、生憎僕も何が何だか分からない。僕が知るマルクは大株主とやらと縁遠い存在だった。


「わかりません。でも僕は納得できないです。僕をその株主に会わせて頂けませんか?」


「うーむ」


 最も事情を知るのはその株主とやらだろうと思い、僕はジャバさんにその人との仲介を求めたが、彼は難しそうな顔でうなり声を流した。


「残念だが、それは出来んよ。

 この業界ではスポンサーの詮索はNGだからね。

 ふふっ、それと同じくアーティストの詮索も控えるべきだったな。どうやら私は失礼が過ぎたようだ。先ほどの質問の件は忘れてくれ」


 打つ手なし。これ以上彼に何を言っても通知内容の撤回は愚か、まともな答えも得られないだろう。


「それなら、僕らがスポンサーになります。今は無理だけどいつかきっと――」


 だが、僕は諦めない。もし今の立場で目的を果たせないなら、立場を超えるしかない。マルクに対する情がここまでになっている事に自分でも驚く。


「大きく出たな少年。

 それはつまり、この私を超えてこの事務所を支配するという事なのだぞ?」


 ジャバの巨体がジレットを覆い、彼の体全体を影に落とした。

 だが、言動とは裏腹にジャバの表情は孫の成長を見守る老人のように晴れ晴れとしていた。


「トキオだけでなく大陸の頂点を目指せ。私は君が有言実行の人間である事を期待しているよ」


 ジレットはただ頷くだけだった。だが、彼の心には言葉に出すまでも無く、決意の炎が赤々と燃えていたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ