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若き魔界幹部の悩み  作者: 耕眞智裕
気高き偶像青年の悩み
33/69

6 風と共にミレーヌ

 フォーゲルヤクト王国とインゼルプルゼェル王国の戦争が大陸全土に大きな影響を与えるのは、それらが持つ資源による。フォーゲルヤクトは科学的に火を起し、魔法封じの結界下でも使える重要なエネルギー資源である魔精油の産出国であり、一方インゼルプルゼェル王国も魔力素を安定させ、機械を動かすのに必要な鉱石である魔法石マギアニウムの産出国である。この両国が交戦状態になると重要資源の高騰は回避できず、ジーマのような小国は一瞬で枯渇してしまう。


「ジーマ帝国宰相マレード・フォン・ガランド登庁した。

 遅くなって済まないが、本件の経緯を説明して欲しい」


 宰相府庁舎に設けられた会議室でマレードはそこに集う各省の高級官僚たちに情報を求めた。


「はっ。本日酉の時。フォーゲルヤクト王国は国内のデューナ油田がインゼルプルゼェル王国による攻撃を受けたとして、当国に対し宣戦を布告し、それを全国の大使館に通知しました」


「インゼルプルゼェルによるデューナ油田への攻撃の確証はあるのですか?」


「破壊されたデューナの映像は公開されましたが、それがインゼルプルゼェルによるものだという確証はつかめておりません」


 この状態から否応なくマッチポンプの可能性が頭をよぎる。つまり、自らデューナに破壊工作を講じ、宣戦布告という行動を起こす原因を作ったのではないかという事だ。

 だが、一つ不可解な点がある。


「各国の対応はどうなっていますか? 特にトキオとラージロープの反応は?」


「両国ともフォーゲルヤクト王国とインゼルプルゼェル王国の周辺国と連携し、対話の窓口を開きつつも、軍事介入の可能性を示唆しています」


 大陸内で諍いが始まろうとすれば、大国が黙っていない。対話で場を収める事が出来ればそれに越した事はないが、結局のところ軍事力を以て介入する可能性があると脅しをかける事が最も効果的であり、トキオやラージロープといった大国が大陸の平和を維持していたと言っても過言ではない。戦争を始めるという事は世界を敵に回すという事なのである。

 だが、その様な大陸の体制をフォーゲルヤクトの為政者たちが理解していない筈がなく、このような行動を起こす事が自殺行為であると熟知しているはずだ。にもかかわらず宣戦布告という自らを死刑宣告にするような行為をしたことが俺には不可解なのだ。


「ところでインゼルプルゼェルの方はどうなっていますか?」


「現在の所、フォーゲルヤクトの行動に反発しており、各国に対し協力を要請しているみたいです。我が国には無いですが……」


 当然の反応だ。インゼルプルゼェルは隣国の脅威に対して最も有効な防衛策を講じている。


「メディアにはもう流しましたか?」


「いえ、不確定事項が多数あるのと混乱を避ける目的からこの事は内部に留めております」


「そうですか」


 できればこのまま収束して欲しいが、このままだと国民にも知らせる事になるだろう。そして悲しい事に我が国に出来る事は殆どなく大使館を介して微力ながら説得しつつ、大国の対応を見守るしかない。


 ここまでで得た情報から俺はこの件に対し多少楽観的になっていった。大国から圧力を加えられればフォーゲルヤクトも頭を冷やし、冷静になるのではないかと推測したからだ。


「宰相閣下。フォーゲルヤクトより主要国のチャンネルに映像が送られています」


「こちらのモニターにも流して下さい」


 俺は他国の局に流れているという映像とやらを見る為に会議室の大型モニターにそれを映すよう要請した。

 その映像はフォーゲルヤクト軍人や杖を装備した魔術師が戦車などの兵器を前に並びその力を誇示する所から始まった。


(フォーゲルヤクト…… この自信はどこから来ているのだ?)


 映像内にある装備は旧式であり、おおよそ大陸の大陸を相手に出来る代物ではない。もし実質的な侵攻が開始されれば、他国は軍事介入をする事由を得る事になり、それらの兵器は一方的に破壊されフォーゲルヤクトの国土が蹂躙される事となる。これは火を見るより明らかであるが、何故彼らはこの様な暴挙に出たのか俺には謎でしょうがない。

 だが、映像の最後にその謎は驚愕と共に明らかになった。古く傷ついた独楽のような形をした大型の機械が映像の中に現れたのだ。


「そんな馬鹿な…… あれはまさか…… イカロス」


 かつて魔界の地上拠点破壊に用いられた戦略兵器イカロス。この円盤の様な兵器は魔法を起点として空を飛び、魔法封じの結界を空から地上に発生しながら目的地へ高い速度で向かう。そして、機体下部についている絶大な威力を持つ魔粒子砲によって地上の目標を破壊する。

 その製造には世界に二つしかないと言われる魔法石マギアニウムの超大結晶が必要とされるに加え、神からもたらされたとされる失われた技術が必要であり、大陸には二体しか存在しておらず、一つで大陸を支配する事も叶うと言われる危険性から、どこの国にも属さない大陸中部にある霊山に封印されていたはずだった。

 恐らくこの映像を初めて見た者は大国の将軍であっても心の内に恐怖を得る事になるだろう。


(フェイクか…… いや、分からない。なにせ現物を見るのは俺も初めてだからな)


 とんでもない隠し玉に俺たちは何も口に出来ず、その後始まったフォーゲルヤクト軍軍人による宣戦布告スピーチをただ黙って聞く事しか出来なかった。

 そのスピーチの中で最も我々が恐怖したのは「愚かにもインゼルプルゼェルに与し、我々と対峙する国には天からの神罰が与えられる」という言葉だった。これはまさにイカロスを使用する事を意味し、仮にフォーゲルヤクトを制圧できても高速で移動する空の恐怖に怯えなくてはならない。間接的に自国民が人質に取られているようなものだ。


(これでは下手に行動できない。大陸にはアレを止める手段は無い……)


「最初の攻撃目標はインゼルプルゼェル首都キーファ。ひつじの時。罪人の街は炎に包まれるだろう」


 映像では続いてインゼルプルゼェル王都への攻撃とその時刻が宣言され、その後に領土割譲や資源鉱山の接収、武装解除、フォーゲルヤクト軍の進駐等の攻撃を中止する条件を提示した。

 30から31の日にかけて約19時間。インゼルプルゼェルにとって最も長い日になるだろう。


「インゼルプルゼェルからの避難民を受け入れる用意をしておきましょう」


 距離的にも遠く、インゼルプルゼェル移民も少ない我が国だがこの様な態度を示しておくのは必要な事だ。俺は油断できぬ状況が続く可能性を感じ、屋敷に留めている貴きお方の警護を信頼できる憲兵総監に依頼した。


 ――こうして大陸には夜より暗い暗闇が覆い、眠る事も許されぬまま朝を迎えた。

 結局、恐怖の象徴を前に各国は有効な打開策を講じる事は出来ず、フォーゲルヤクトも頑なな姿勢を崩さない。攻撃の宣告を受けたインゼルプルゼェルは首都の住民を疎開させつつ、全兵力をフォーゲルヤクト国境に展開し、ただでは倒れないという決意を示していた。

 だが、それがフォーゲルヤクトを刺激した。攻撃開始時刻までに先制攻撃をされるのではないかという恐怖が彼らを動かしたのだ。

 

「宰相閣下。フォーゲルヤクト軍に動きがありました」


「分かりました。映像を回して下さい」


 フォーゲルヤクト国内の大使館は軍によって包囲されており、我々の情報源はフォーゲルヤクト国境に群がる各国メディアからもたらされる映像だけだった。俺はそれを回してもらい、設置されたMCに流した。

 そこには慌ただしく動き回る兵士と、ローブを羽織った十数人の魔術師、そして巨大な何かを乗せたトレーラーが荒い映像の中に映っていた。


「まさか……早すぎるな」


「えぇ、恐らくイカロスでしょう」


 画面越しにも伝わる巨大な力が俺の全身の毛を逆立たせた。

 やがて来るかもしれぬ魔界以上の敵に備え、この悪魔を敢えて破壊せずに封印していた事が最悪の結末になろうとしている。今は対岸の火事でも、もし、フォーゲルヤクトが領土的野心を抱いたら、その矛先は自分達へ向くことになるのだ。

 だが、希望はある。もしあの物体がイカロスを模した偽物で相手を威圧する為だけの張子の虎なら各国はフォーゲルヤクトの侵攻を止める事が出来る。それが事実であるよう、我々は他人任せながら、イカロスの所在確認のために先日トキオ合衆国で結成された霊山調査隊の報告を祈りながら待っていた。しかし……


「閣下。調査隊の報告が大使館を通じ、今もたらされました。その内容を拝誦させて頂きます。

 “巳の時。調査隊は霊山『不死の山』の最奥部に存在する『入らずの間』前に到着。そこにて30人の魔法解除に長けた魔術師の詠唱を30分間行い、封印の解除に成功するも、封じられていたはずのイカロス二体の姿は無く、何もない空間だけが広がっていた”

 ……以上であります」


 フォーゲルヤクト軍の動向に関する報告から二時間後に受けたこの報告によって俺が抱いていた楽観論とも言うべき細やかな希望は崩れ落ちた。フォーゲルヤクトから提供された映像にあるイカロスは十中八九かつて空を支配し、地上に恐怖を撒き散らしたあの機械なのだろう。“彼らはイカロスを保有している”という前提で今後を考えるべきなのだ。


「そしてもう一体か……」


 先の調査隊の報告はもう一つの問題も我々に提示した。『入らずの間』に封じられていたイカロスは二体。つまり、フォーゲルヤクトはもう一体イカロスを保有している可能性が高いのである。


(全く、どうやって持ち出したのやら。封印の解除には上級の魔術師が数十人必要で、あの地に至るには特別な許可が必要なはずだ。その上アレを二体というとかなりの重さがある)


 結局のところ、小国の政治家が考えた所でどうする事も出来ない。俺はただ状況が好転する事を祈る事しか出来ない自分に情けなさを感じる他なかった。


(他の魔界幹部たちはどうなっているだろうか…… アスタロトさんは忙しそうだな。ナナミさんは……まぁ、学生だし)


 情報収集以外に出来る事が無いと悟った俺はある種の達観状態になり、ふと、闇の仲間たちの姿を思い浮かべた。四人の仲間の内二人はその所在についてある程度分かっているが、残りの二人についてはどこで暮らしているのか分からない。魔界を含むフォーゲルヤクトとインゼルプルゼェル以外の場所にいれば良いのだが。


「さ、宰相閣下…… イ、イカロスが……」


 仲間を案じる事も許されず、フォーゲルヤクト軍が新たなる動きを見せた。イカロスを起動させ、その禍々しい機体をトレーラーから空中に放ったのである。そして、その事はそれが紛れもなくイカロスそのものだという事も証明した。


「示威行為か? それとも、彼らは……」


 七色の光を放ち、浮遊するイカロスの姿が巨大モニターに投射されると、会議室内にざわめきが広がる。

 そして、彼らは雲なき空に浮かぶ殺戮兵器の下方部に光が集中していくのを目にした。それは攻撃開始の前兆であり、その矛先は国境付近に展開するインゼルプルゼェル軍部隊へと向けられていた。


「まだひつじの時ではないぞ! ……いや、キーファ攻撃がひつじの時という事なのかっ!」


 机を挟んで前に座るジーマ軍総司令長官が憤り、思いっきり机を叩いた。俺も同様の心境だ。あれが発射されればインゼルプルゼェル部隊どころかその周囲の街にまで被害が及ぶ可能性がある。これは紛れもなく大陸憲章にある虐殺行為に当たる。

 

 魔の破壊兵器が空を舞い、大陸中が恐怖に包まれたその瞬間。“彼ら”は現れた――




「わー わー 我こそは…… ねぇ、リネア? これのボリューム小さくない?」


「これでも最大なんですよ? もっと気張って腹から声を出して下さい」


 緊張した場に突然気が抜けた声が殺伐としたフィールドを巡る。声は映像と同期したスピーカーから聞こえ、映像を映している報道関係者も混乱の中、声の主の姿をカメラを回しながら探していた。


「ひっひふー ひっひふー ……よし! あーあー 聞こえていますか? 我こそは第67代目ゆ」


「ミレーヌ…… 68代目ですよ」


「え? そうだっけ? えっとー 訂正訂正! 我こそは68代目勇者! ミレーヌ・ルフトハンザである!! わたしが来たからにはもう安心だよ!」


 明るく甲高い声に俺も含め、皆開いた口が塞がらない。先の絶望感との温度差で倒れてしまいそうだ。


「あのぉーちゃんと見えてるぅ?」


「ミレーヌはちんちくりんだからなぁ。ちっちゃすぎて見えないんじゃない?」


「まぁまぁそんなに苛めなさんな。ミレーヌも気にしているんだから」


「ムキー!! これから大きくなるんだもん!!」


 ミレーヌと名乗る少女の他にリネアと呼ばれた女性、ミレーヌをおちょくる女性、そして、彼女をなだめる男性の声が確認でき、最低四人が戦場の何処かにいる事が分かる。


「まぁ、それは置いておいて、ミレーヌが勇者の証明として《オオトロの剣》で敵をぶった切ればいいんじゃない? 流石にちっちゃくても注目されるでしょ」


「だから、これからぐーんと大きくなるんだって!! 

 まぁいいわ。憂さ晴らし……じゃなくて、正義の為にわたしの力を知らしめる!! 見よ伝説の剣の輝きを!!」


 少女の声と共に突然フォーゲルヤクト軍が展開する平原の一点に強い光が灯った。報道関係者もその光を発見し、カメラをズームさせる。すると、そこには五人の男女の姿があった。彼らこそがマイペース極まりない声の主たちだったのである。その中心で光源たる剣を掲げるちんちくりんの褐色の少女。彼女こそが68代目勇者ミレーヌ・ルフトハンザであった。


(あれは確かにオオトロの剣。騎士の王を選別した聖剣のように勇者を選別し、その者に権威を与える伝説の宝剣。それが光り輝くのはその者を勇者と認めた証)


「あれが勇者?」


 会議室で誰かがボソッとそう呟いた。俺もそう思わないでもない。金色の勇者然とした鎧を纏うというより、被されているような少女に威厳も何も感じる事が出来ないからだ。


「ふふーん! これでわたしがホンモノの勇者だって分かったでしょー」


「はいはい。ミレーヌ、ちゃっちゃと正義を執行しましょ」


 兎の耳を伸ばした大人のお姉さんに諭され、頭を撫でられる子供のような勇者は頭上の掌を振り払い、一人前に出ると空中に浮かぶ円盤を見上げ、両足に力を込めた。

 そして、少女は大地を蹴って飛び跳ねる。その瞬間、身の丈に合わぬ鎧はフワッと身体との隙間が見える程に浮き上がり、兜の隙間から白銀の髪が覗く。そして彼女の躰は地に着くことなく、そのまま空中へと浮上する。


「しゃらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」


 気合のこもった掛け声のドップラー効果を発しながら、少女は重力を無視して、魔法封じの結界の中空へと突き進む。

 そして、ミレーヌは高度がイカロスを超えると一度立ち止まり、いや、ホバリングし、白色に輝く剣を天に構えた。


「必殺ぅ! 破邪勇光剣んん!! チェストォォォォオオオ!!!」


 技名を盛大に叫び、勇者ミレーヌは剣が作る光の刃でイカロスを一太刀に分断し、中央から二つに割いた。

 完全に制御を失った二分の一イカロスは空中に留まる事が出来ず、濃度の濃い魔力素を吹き出しながら大地へと降下を始めた。


「まずい…… このままだと落下の衝撃で凝縮された魔力素が暴走する!!」


 俺は説明口調でその危険性を叫んだ。制御が出来なくなった高濃度魔力素は衝撃で大爆発を起こすか、指向性を持って何処かに照射される。どの道大変な事になるという事は確かだ。


「さて、もう一仕事♪ 勇者は使命を最後までしっかりやり遂げるってね」


 水泳選手のターンのように体を曲げ、ミレーヌは天地を返し、飛翔こうかする。そして二つに分かれたイカロスの残骸を細い手で掴み、まるでアメコミのスーパーヒーローの様に持ち上げると、そのまま大地にゆっくりと降り立った。

 小柄な勇者の活躍によってイカロス墜落の難は一応逃れた。しかし、禍々しい機械から発せられる魔力は健在であり、天秤の様に小さな少女が左右の手に巨大な物体を支えているというアンバランスな姿も手伝って、見守る人々のハラハラとした緊張感が消える事は無かった。


「ホラ! 速く逃げて逃げて!! 死にたくないでしょ!」


 見守る者達の心配をよそにミレーヌは涼しい顔でイカロスの残骸に残るフォーゲルヤクト軍人と周囲の人々に避難を呼びかけた。そのすぐ後、少女の声に呼応するように二人の軍人が転げ落ちるように残骸から現れ、ミレーヌを一瞥すると何も言わずに走り出し、後退していく友軍部隊に合流した。


「…………これでよし! グルンガルド! 後は任せたわよ!」


 ミレーヌは周囲に人がいなくなった事を確認すると、彼女の仲間の一人である黒鎧の剣士の名を呼んだ。


「――承知」


 長身黒髪の剣士は小さく低い声でそう言うと、黒い鞘から白銀の剣を抜いた。剣は刀の様に細長く、纏う黒い鎧と対照に白く輝いていた。


「おっけー! いっくよー そらっ!!」


 黒き剣士グルンガルドが剣を抜いたのを見てミレーヌは頷くと、明るい声と共に両手の残骸を彼に向けて放り投げた。

 突然放たれた回転しながら宙を飛ぶ危険な物体に、マレードを含め、見守る者は唖然とし、時間がゆっくりと動いているように感じた。


「いざ参る」


 世界がスローモーションのただ中にいるのに対し、最も危険な場所にいる勇者とその仲間たちは信頼と余裕を表情に浮かべ、グルンガルドの一挙手一投足を見守っていた。


「暗黒魔神剣。受けよ」


 剣士は技の名を呟きそして迫りくる二つの物体へ跳んだ。そして、目に見えぬ速度の斬撃を数十回浴びせ、大地に着地した。


「漆黒の闇は全てを飲み込む……」


 その言葉と共に剣を収めた鞘が突然黒い靄を作り、宙に制止する残骸を包み込んだ。そのすぐ後、爆音と共に靄の中に白い光が眩しく煌めいたが、それは直ぐに収まり、靄の中から小さな部品や細かな鉄片が無数に落ちて来た。

 

「流石グルンガルドね。おつかれさま」


 恐怖は去った……ようだ。黒い靄の中にはもう何もなく、危険はイカロスの姿と共に消えたのだろう。正直俺も状況を掴む事が出来ない。ただ、勇者一行が黒い剣士の元に集まり、労いの言葉をかけハイタッチをしている事から、それは確かな事なのだと感じた。


「こほん。えーえー! 皆さん聞こえますかー 

 イカロスの脅威は私達勇者パーティーが消しました。どうかご安心ください!!」


 拡声器から放たれる少女の声が報道を通じ、リアルタイムで大陸中に広がっていく。そして、安心から時間の流れが戻ると、大陸中のあらゆる場所で歓声が上がった。


「では、改めて自己紹介!!

 わたしは68代目勇者……でいいんだよね。ミレーヌ・ルフトハンザである!!」


「勇者パーティーが一人。聖職者リネア・サウディアです。よろしくね!」


「同じく、貴方の心を盗む盗賊。ルード・アルゼ」


「同じく! 見た目は子供、筋力は大人! 格闘家イルマ・デ・アエロメヒコ!」


「剣士……グルンガルド。それだけだ」


「世界に危機が訪れる時!! 颯爽と現れる五つ星!! 我らこそ平和しゅぐ…… 平和の守護者! 勇者集団ヒロインパだぁ!!」


 褐色銀髪の勇者ミレーヌ。黒い兎耳を尖らせた女聖職者リネア。金髪の美男子エルフ盗賊ルード。小学生のような見た目の少数民族ドワフの格闘家イルマ。そして黒剣士グルンガルド。五人の戦士たちは世界が注目している中で自分たちの存在を盛大にアピールした。

 フォーゲルヤクトが現在に蘇らせた古の戦略兵器イカロスはその姿を示してから一日も経たずに虚しく小さな機械部品の山と化した。恐怖の兵器は勇者たちによるお披露目会の舞台装置の一つとなり下がったのである。




 こうして世界を恐怖に陥れた一夜の嵐のような事件は、風の様に颯爽と現れた勇者たちの活躍により幕を閉じた。だが、それは表面的な部分においてであり、この事件は大きな謎を残す事になる――

 


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