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若き魔界幹部の悩み  作者: 耕眞智裕
清き人形少女の悩み
21/69

11 救国のヴィーナス Ⅳ

 僻地の開発はかようにして命懸けだ。計画の発案者である俺が自らはるばる視察する意味もあるだろうし、責任もある。だが、ここに来た目的はこれだけではない。


「監督。彼らの様子はどうですか?」


「特におかしい点は見られませんね。真面目に仕事に取り組んでいますよ」


「そうですか。では、引き続き採掘魔法技師たちの監視をお願いします」


 現在この場所には15人の採掘魔法技師が着任している。ジーマ帝国が有する採掘魔法技師は30人であり、その半数が動員されているこの事業の重要さを物語っている。

 そして、我々は30人の採掘魔法技師の中に宰相府庁舎にビューテフォーな穴を穿った人間がいると確信し、穴発見員以降二か月もの間、調査を進めていた。その状況を確認するのが俺の隠された目的だった。……のであるが、犯人に嘲笑われるかのように数センチの進展も無く、ただ、技師たちにストレスを与えただけであった。実際、ストーカー被害を訴える者も現れ、もはや監視は限界に来ていた。

 そして、もう一つ確認した事がある。ケルベロスさんに渡るはずだった資料の行方だ。俺はモンスター退治の後すぐに現地の郵政局に向かいそれを確認したのだ。だが、返って来た答えは「正常に配達された」のみであった。つまり、郵便桶には入ったという事になる。

 

(まさか、ケルベロスさん食べちゃったんじゃ……)


 ヤギの様に封筒を頬張る犬耳少女に心が温まったが、資料の行方は未だに不明。俺は局員に捜索の依頼だけ出してこの件にピリオドを付けた。



 そして、犯人の情報を何一つ得る事も無くマーバスに帰る日がやってきた。

ただただ犯人のシルエットすら掴む事も出来ずに無為に時間が浪費されていくのを悔しく思うのと同時に、技師らに対して申し訳なさが溢れ、俺の精神を蝕んでいった。

 だが、進展は思わぬところからやってきた。それは、帝都マーバスへ帰る途中、飛空艇で祖国の大地を見下ろしていた時の事だ。


「閣下。憲兵総監より電文があります」


(ん? 何だろう? もしかして犯人に目星がついたのかな)


「よろしい。読み上げてみよ」


「はっ! 謹んで読み上げさせていただきます!」


 俺が同乗した憲兵に電文の読み上げを依頼すると、彼は声を張り上げて答え、胸ポケットからトイレットペーパーのようにロール状になった紙を取り出すと、目を細めて一字一字、丁寧に音に変換し始めた。 

 

「拝啓、我が国の輝く星であり、万物に勇気と希望を与える。あぁ素晴らしきマレード・フォン・ガランド宰相閣下。温かさからほんのり暑さを感じ始める梅雨の月。閣下は覚えていらっしゃいますでしょうか? あれは十五年ほど前」


「前置きは良いから要点だけ読み上げて」


 長ったらしい前置きに慣れたようにマレードは言った。憲兵総監ジーノ・フォン・カタルからの手紙はいつもこうなのである。


「あ、了解いたしました。……えっと、“共にした時間の”じゃなくて、“閣下の聡明な”じゃなくて、“私の分のおやつをネコババした事は忘れません”でもなくて…… あ!あった。ありました!」


 賛美の飾り言葉の森から金の林檎を見つけ出し、若い憲兵は汗交じりの笑顔を見せた。


「それは良かった。読んでくれるかい?」


「はい! コホン、では謹んで。“閣下の聖域で発見された不浄の穴と同様の物があろう事かオーティマ宮で発見されました。穴は前者と同様に地下水道まで続いており、調査を進めております”……以上であります!」


 穴について進展があった事は喜ばしいが、これはいよいよただ事ではない。未確認穴掘り野郎は皇帝一族の寝所にまでその手を伸ばしていたという事なのだ。

 

「ありがとう。では、君。あちらにオーティマに向かう事を伝達してくれ」


(悠長にしていられない。奴の狙いは何だ? 皇族や俺の暗殺か?)


 モヤモヤした感情と待つことの苛立ちが貧乏ゆすりとなってマレードの身体に表れていた。俎板の鯉の状況はこの後二時間ほど空の上で続く事になる。






「あー、すみません今急いでいるので。後で記者会見します」


 空港に着くと、すぐさま俺はまな板から飛び上がり、速足でSPと共に待たせている政府専用車に向かった。その道中、ヴィーナス計画の情報欲しさに群がるマスコミのディフェンスに遭遇したが、俺の華麗なドリブルで彼らを躱し、車内のシートに滑るように座った。


「アンナ君。スケジュールの空いている所に記者会見を入れておいて」


「ふぁーい」


 車が動き始めたタイミングで俺は秘書にそう伝えた。因みに、犯人に刺激を与えぬようマスコミには穴の件は伝えていない。時として、報道というのは犯罪者の舞台に花を添える結果をもたらす事になる。劇場型犯罪というやつだ。

 だが、恐ろしい事に、いや、恐ろしいという表現は適切ではないが、彼らは職業柄嗅覚が鋭い。街や人、そして空気の些細な変化を感じ取り、いらぬ事にまで詮索するのだ。おそらく、彼らは違和感を少なからず持っているだろう。


(はぁ、ほんと上手くいかないなぁ…… 何かを成そうとする時余計な邪魔が入る)


 実のところ、新たなる穴の連絡が入るまでマレードはこの件を過小に評価していた。宰相府から失われた資料などは無く、人的被害もない。また、この場所に穴があった関係上、地下水路に毒が入れられたとは考えられず、実際被害の報告は受けていなかったからであるが、その評価を改める必要が出てきたのである。そして、最も彼を不快にさせているのは犯人の目的が不明な点である。奴は人を傷つけるでも、何かを盗むでもなく、ただ、そこに穴を残しているだけなのだ。


「閣下! お待ちしておりました。こちらへどうぞ。憲兵総監がお待ちです」


 オーティマに到着すると誰の目にも異常な事が起きていると分かるほどの数の憲兵が目に入った。実際異常事態が起きているのだから当然であろう。

 そしてその一人を先頭に俺と秘書はジーノが待つ現場へ向かう。道中辺りを見渡すと、宮殿内はいつもに増して騒がしく、侍女たちもおどおどとした様子であった。


「姫殿下はどうなされた? ご無事であるか?」


「えぇ、殿下はご無事であります。盗られたものなども無く、今お部屋でお休みになられております」


 まぁ、そうだろう。あの姫に危害を加えるのは至難の業だ。もし彼女の前に敵として身を晒したら今頃ハンバーグだ。ミンチよりひでぇ


「こちらです閣下」


 連れて来られたのは中庭。前にフィーナの剣術を見た場所だ。そしてその一角、ガゼボの脇にあるハーブのポタジェにジーノの巨体と憲兵たちの姿があった。


「宰相閣下! お待ちしておりました! こちらです。

 宰相府庁舎と同様の50センチ四方。これがスロープ状に地下5メートルの水路まで続いております。

 そして、この方が穴の発見者であります」


 ジーノの巨大な手に押され、庭師と思しき男がたじろいでマレードの前に出されると、混乱故か、目を泳がしながら一礼した。


「わ、私は宮廷で庭師をさせて頂いている者であります…… 高名な何でもできる君閣下にお会いできるとは感涙の極みであり……」


「うん。ありがとう。で? この穴を発見したのはいつ?」


「本日の朝でございます。前回こちらで作業させて頂いた時には無かったもので、私とても驚いて……」


「ん? 前回っていうのは?」


「あ、はい! えっと、確か…… 二か月前、桜の月、21番目の日です」


 庭師のこの発言でこの穴が宰相府の庁舎より後に作られた事が分かった。確かその日は計画の知らせを関係者各位に郵送し終えて、計画の第一歩を踏み出した時だ。


穴を作った日は桜の月、21番目の日から本日、梅雨の月、19番目の日までの間だという事は分かったが、結局犯人の目的は分からないし、あまりに疑惑の期間が長すぎて手掛かりに繋がらない。


「長きに渡る調査にも関わらず、閣下の身辺を脅かす鼠の尻尾すら掴む事叶わず。このジーノ・フォン・カタル不肖の至りにございます」


 ジーノは俺以上の憤りを感じている。それは彼の表情から分かった。だが、地下水道の調査に時間が掛かるのには理由がある。多忙で数少ない水道技師の同伴が無ければ法律上内部に入る事すら叶わず、行動に制限がかかるからだ。


「今後の調査に尽力し、姫殿下の御寝所警備を最優先にせよ」


「御意であります!

 君! 到着が遅れている水道技師に連絡を! ブロック7から13までを調査する。ジーマ憲兵隊の誇りにかけ下劣な鼠に縄をかけるのだ!」


 ジーノの言葉に呼応し、憲兵たちは鋭い目つきで散っていった。

 忙しそうに資料とにらめっこしながら部下に指示を出すジーノに声をかけるわけにもいかないので、俺は固まったように立っている庭師の男に一月になっている事を聞いてみる事にした。


「そういえば、ここは魔法封じの結界は張られているのかい?」


「え? 勿論張られております。練武場として結界が張られていないのは、そこの線までで、その外側にはしっかりと結界が張られているんです」


(まただ。庁舎の時と同じように犯人は何らかの方法で結界を解除し、特殊魔法・地底の獣スペシャルマジック・グレートモールで穴を掘っている。一体どうやって……)

 

結界の解除は言うまでも無く困難だ。その効力は地下水道を含む地底まで続き、解除したら装置が作動して憲兵隊の知るところになる。


(ムムム…… ここは憲兵総監に任せて俺は俺の仕事をするか)


誰も死んではいない。何も盗まれてはいない。ただ穴が空いただけ。それ故にただ薄気味悪い。

 その歯痒い気持ち悪さと、事が前に進まない苛立に歯を軋ませながら、俺はオーティマ宮を後にし、宰相府に戻るべく車に乗り込んだ。

 

…………

………………

……………………ここはどこだ?

……俺は確か車に乗って、それで……


車のシートで座っているはずのマレードの身体は何故か白い宮殿にあった。彼はこの地を知らない。この空気の臭いも知らない。まるで異国の地に立っているような感覚を味わっていた。


「………………」

 

 だが、彼は一人ではない。車の運転手もこの場所に至っていたのである。


「君? 大丈夫かい? アンナ君。アンナ君を知らないか?」


「…………」


 運転手の男は表情を変えず、何も語らない。その姿はどっかの自称人形よりも人形であった。


「ちょっと君!」


「………………!!

 ……マレード・フォン・ガランド……

 主がお待ち。こちら、こちら」


 俺がその体に触れようとした途端、運転手は電源が入ったように体を痙攣させた後、急に大人しくなったと思えば、カタカタと言葉を鳴らしだし、案内するように移動を開始した。


「いったい何だってんだ…… 俺は夢でも見ているというのか」


 現実とは思えない状態がマレードを混乱させていた。ここが何処なのか、運転手が何者なのか一切合切分からない。だが、彼についていけばその一端くらいは知る事が出来ると思い、彼の後をつける。仮に夢であったとしても、中途半端は気分が悪いだろう。


「……ココダ」


 巨大な扉の前で運転手は機械の様に立ち止った。

 扉は混じりのない白。穢れのない純白で、誰の手にも触れられていないかのようであった。

 そして、マレードが処女のような扉に触れる直前、触れられる事を嫌がるように扉が勝手に開き始め、巨大な空間にマレードを招き入れた。

 その場所はまさに現実離れしていた。地面はガラス張りになっており、何故か大地の山々が雲の隙間から目に映り、壁面の代わりにある巨大なガラス窓からは青空とたなびく雲が絵画の様に飾られていた。そして、ドーム型の天井や柱などは扉と同じ白に染められ、ここが神聖な地であると語っているようだ。


「よくきたのうマレード・フォン・ガランド」


 部屋の奥にある白いソファー。そこに座る着物を着た少女が俺の名を呼んだ。


「誰だい君は? なぜ俺の名を知っている? ここはどこなんだ?」


「それでは順を追って説明するかのう」


 少女は立ち上がると、膝上までの甚平のような羽織を揺らしながらマレードにゆっくりと歩み寄ってきた。見た目は十代前半位の少女。白い肌にツインテールの黒い髪、そして黒い瞳。さして異常があるわけでもないそれらの要素が何故か周囲に威圧のようなものを与えていた。


「わしはグレイセス・マレーシャ。この世界を見守り導く者。お主たちが言う所の神なのじゃ」


「神? のじゃ?」


 これは夢。俺は確信した。こんなわけのわからん少女が神だとか…… こんな夢を見るなんて俺ももう駄目かもしれんな。あ、こんな夢を見てるが、俺はロリコンじゃないぞ。


「うーむ。お主には『のじゃロリ』の良さが分からぬのか…… 創造主は喜んでいたのにのう」


「それじゃ俺はこれで。あばよ! 俺の夢の中の神様! 俺はもうちょっと大人の女性が好きだから次からはボンキュッボンでよろしくね」


「おいまて小僧……」


 殺気だ。圧倒的ぶっ殺すぞオーラ。それが槍の様に背後から俺の心臓を貫き、足を止めさせた。


「お主わしの話を信じとりゃせんなぁ? いいじゃろう。証明してやる。お主の全てを話そう」


(俺は心優しい男だ。少女の頼みを聞かぬわけにもいかない。さぁ、語るが良い。俺の武勇伝を! 一点の曇りもない我が人生を)


 マレードは自信満々で鼻を鳴らすと、腕を組んで神を名乗る少女マレーシャの言葉を待った。


「マレード・フォン・ガランド。ジーマ帝国マーバスにおいて新暦995年。月見の月。20番目の日に生まれる。その後二歳にして言葉を交わし、三歳に数学に興味を持つ。そして……」


 マレードは彼女による紹介を気恥しさと嬉しさで口元を綻びさせながら聞いていた。だが、彼は彼女を認めていない。これらの事は誰もが知る事の出来るものであり、彼女が神であるという証明にはならないのだ。


「……そして、25歳となったマレードであるが」


(話は佳境だ。これが終わったらさっさと現実に帰してもらうとしよう)


「このような状況にも関わらず、終始ヘタレでその様子はハーレム物の主人公の様。第二皇女に好意を抱いてはいるがその性格故未だに童貞。あ、もっかい言うぞ。未だにどうt」


 マレードは咄嗟に少女の口を塞いだ。非常に耳心地の悪い言葉を聞いたからだ。


「分かった分かった! 認める! 神様! 君は神様! っていうかなんで二度も? いじめか!」


「なんじゃ? ここからが重要な所じゃぞ? 腕に巻いた包帯の事とか、最後のおねしょが13歳だとか、乳離れしたのが」


「やめてぇ~ お願いだから。もう聞きたくない!」


 少女の小さな口から、俺の指の隙間を通して黒歴史が明かされていく。


「これでお主も分かったであろう。わしは正真正銘の神じゃ。魔力素を流したり、名刺に印字したり色々頑張っておるんじゃぞ! 少しは感謝せい!」


「へ、へぇ。それで、俺に何の様でしょう? もう帰りたいのですけど……」


 俺の精神は疲労困憊。少女の言葉責めに敗北し、早くこの悪夢から覚める事だけを願っていた。


「そうじゃった。そうじゃった。

 コホン。ありがたく思うがよい! 神であるグレイセス・マレーシャがお主を助けてやるのじゃ!」


「助け?」


 突然の神の申し出にマレードはきょとんとする。だが、特に喜びなどはない。彼は早く帰っておうどんが食べたかったのだ。


「今直面している問題解決に協力してやるという事じゃ」


 直面している問題は一つしかなかった。ここ最近俺を不快にさせている忌まわしき穴だ。


「じゃあ、宰相府庁舎とオーティマ宮に空けられた穴。それを作った犯人を知りたい」


「あぁ、構わぬが、既に答えは出せるじゃろ? お主が持った違和感から導き出せるはずじゃ」


 マレーシャはそう言うと、小さな体を揺らしながら不敵に微笑んだ。「協力する前に多少は試させてもらう」とでも言いたそうな態度だ。

 俺はその挑発にも似た挑戦を受け、しばし、情報を整理し違和感をまとめてみる事にした。


 最初の違和感は庁舎の穴の始末が杜撰だったことだ。再度使うにしても、見つからないように埋めるのが普通だ。

 二つ目の違和感は、結界内で魔法を行使している事。何者かが結界を解除しているのか、それとも……


「なぜ、犯人は穴を処理しなかったのでしょう。そこを怠っていなければ発見されずに済んだかもしれないというのに。特殊魔法・地底の獣スペシャルマジック・グレートモールを習熟している以上、犯人は採掘魔法技師。彼らは当然にそれを処理する魔法も習熟しているにも関わらず…… 不思議だ……」


「ん? なんじゃ。そんなの、犯人が採掘魔法技師ではないからに決まっておろう?」


「え? でもそれではどうやって穴を空けたと言うんだ! 手作業でやると何年かかるか分からないぞ!」


「その答えもすぐに出せるはずじゃ。まだ違和感があるじゃろう?」


 俺は少女に誘導されるように彼女に贈る言葉を探す。二つ目の違和感は結界だ。


「結界だ。魔法封じの結界が誰かによって解除されていた」


「フフフ、それは真か?」


「いや、分からない。だが、それしか考えられない」


 俺の悩む顔を見て少女は笑う。まるで掌で転がされているようだ。


「魔法封じの結界は解除されておらぬ。展開したままじゃ。お主も知っておるじゃろ? あれを解除するのは簡単ではない」


 そんな事は分かっている。だが、そうだとしたら矛盾が生じる。だからこそ俺は悩み苦しんでいるというのに。


「じゃあどうやって魔法を使ったんですか? 地下通路内でも結界は有効ですよ!」


 声を大きく張り上げて放たれた俺の言葉にしばしマレーシャは黙り込む。そして、答えを求める子羊が落ち着きを取り戻したのを確認した後、微笑みと共に優しく口を開いた。


「魔法など使ってはおらぬ。そして、手作業で空けたものでもない」


「そんな! じゃあどうやって!?」


 マレーシャの言葉にマレードはまた熱くなった。そして、マレーシャは再度彼がクールダウンするのを待って、同じように言葉を続けた。


「ステレオタイプ、既成概念、偏見…… 穴を掘る魔法があるから、お主はこれが魔法によるものであると判断した。だが、この世界にあるのは魔法だけではないだろう?」


「…………」


「フフフ、分からぬか? これはお主が言った二つ目の違和感が答えのクルーとなるのじゃ。魔法封じの結界――魔法を封じる空間魔法。じゃが、その範疇外にある人知を超えた力。それが答えだ。もう分かるじゃろ? お主も色々な所で使っておったからな。オーティマ宮。城内……」


「…………まさか!」


 流石にここまで材料が揃うと誰でも答えに辿り着ける。そう、この世界には、誰しもが必ず持つ特殊な力がある。それは魔法ではない為、結界の影響も受けない。


「タレント……なのか」


「ご明察☆ 犯人は特殊魔法・地底の獣スペシャルマジック・グレートモールに酷似した効果を持つタレント保有者じゃ」


 マレーシャは褒美を与えるように手をぱちぱちと叩いた。まるで教師と生徒だ。


「それなら辻褄が合う。だけど、それを知ったところで犯人の目星はつかない。タレントは目に見えぬもの。話さなければ知られる事もない」


「次の壁じゃな。……だが、この問題も既に破る事が出来るのじゃ」


 第二の壁にぶつかった俺をあざ笑うように神はそう告げた。そして、犯人の正体に近づくために必要なもの……


「破るか…… 探るべきは犯人の目的といったところか」


「エクザックトリー! そのとおりじゃ。目的の推測が出来れば、自ずと犯人の元に辿り着く事が出来るのじゃ」


「だが、まったく分からない。奴は誰を狙うでも、物を盗むでもなく、ただ、穴を掘っただけだ」


 奴は穴以外の証拠を残していない。穴は何も語らず、俺達は途方に暮れていた。


「つまり、奴は誰かを狙ったわけでもなく、盗みを目的にしたわけでもないという事じゃな。逆に言えば、その段階で目的は達成されておったわけじゃ」


「つまりどういう…… そうか! 情報か! 庁舎内には様々な情報が溢れている」


 カメラなどの記憶媒体があれば何かを持ち出す必要も無い。そして、今、巷で話題のヴィーナス計画の情報も盛りだくさんだ。


「よしよし。続けるがよい」


「もし、犯人の目的がそうであるなら、その正体は情報を欲している誰かだ。つまり、報道関係者か?」


「そうじゃな。その可能性もある。だが、もっと相手を絞り込む事ができるぞ?」


「どういう事だ?」


 マレーシャはマレードが自分のペースに乗ってきた事を心地よく感じ、反応を楽しみながら言葉を与える。時には直ぐに、時にはじれったく、ただそれだけで、マレードの表情は変化し、彼女はそれに満足していた。


「お主は何も撮られていないと言っておったが、実は盗られておる。お主の手の届かないとこでな」


「…………なるほど、そう言う事か。そうならば、飛空艇利用記録にあるはずか……」


 盗まれたもの。それはケルベロスさんに郵送した資料。犯人は庁舎で資料の情報を情報と、それが既に郵送された事を知り、テルカ村に向かった。もしそうなら、えらく行動的な奴だ。


「あの空港利用者は少ないからのぉ。寂れた過疎地に助けられたな。ハハハ!」


「ハハハ…… 犯人は時期的に書類を郵送した直後に村へ出発している。いくら集積所を経由しているとはいえ、そのタイミングを逃したら間に合わないからな。

全くいったいどこのメディアだろうか…… いや、おかしい。もし、メディア関係者なら既にヴィーナス計画の内容が報道されているはずだ」


死肉に群がる蠅のような記者たちの姿を俺は思い出した。彼らの目は飢えていた。誰一人余裕を持った者はいなかった。長年死肉の立場にあった俺には分かるのだ。彼らはまだ何も得ていないと。


「そもそもお主がこの計画にヴィーナスと名付けたのが駄目だったんじゃ」


「は? 何言ってるんだこのお嬢ちゃんは? これ以上インテリジェンシィで的確な言葉はないだろう? はぁ~ 分かってないなぁ」


「分かってないのはお前じゃ。その言葉が的確だったせいで一連の事件に発展したのじゃぞ?」


「??????」


 意味☆不明。俺には彼女が何を言いたいのか分からなかった。だから「ワタシニホンゴワカリマセーン」的な顔で無言の挑発をしてやった。


「あぁ、面倒臭い! わしは神じゃから、全てを知っておる。わしに推理や推測なぞ必要ないのじゃ。折角お主に花を持たせようとこのような問答をしてやったというのにその顔は何じゃ!? ムキー! この国でヴィーナスといったら一人しかおらんじゃろ? あ? 有名なアイドルだとかおらんしな。それに、お主が命名したのじゃ。みんな一人の人間を思い浮かべるじゃろうて」


 身体を言葉に合わせて忙しくしながらそう言い終えると、マレーシャはぜぇぜぇと息を牛の様に吐いてマレードを睨みつけた。


「そうだな。第二皇女閣下しかいないな」


 息を荒くする少女と対照的に男はサラっと涼しい顔で答えた。


「あぁ、そうじゃ。だからお主はそやつを早急に処理する必要がある。奴はお主が進める計画の最大の障害になるやもしれんからな。

 ほら、さっさと行け。わしは全てを知っているが、これは本来『推測』と呼ぶべきものであろう。故にその真違を確かめねばならん! 出口は非常口のマークが点灯しているから、そこから出るのじゃ」


 マレーシャがそう言って指を鳴らすと、この部屋唯一の白亜の扉が音もなく開き、出口への道筋を示した。


「あぁ、まぁ、ありがとう。夢の中の神様。次の夢ではボンキュッボンでよろしくね」


 セクハラともとれる不快な言葉を放ったマレードをマレーシャは引きずって扉の向こうに放り出した。ロリが非力であるというルールはない。

 そして、セクハラ野郎を追い出すと、扉が静かに閉まり、二人の吸う空気は分かたれた。


「全く、見た目に似合わない筋力だ。どっかの姫みたいだな」


 マレードは立ち上がると、自分の身体に傷が無いか確かめる為に見回した。そして、その時、奇妙なものが視界に入った。


「何だこれ?」


 それは紙切れ。人の形をした紙切れだ。マレードはその裏表を目を細めて観察した後――


「まぁ、いいや。貰っておこう」


 ――持ち帰った――


 因みにこのような行為は犯罪になる場合があるから良い子のみんなは真似しないように。






「はぁー! やっと静かになったのう。やはり人と会話するのは疲れる。

 じゃが、まぁ、久々に楽しかった……かな」


 マレーシャは最初に座していたソファーに横になり微笑んだ。


「また来るがよい小童こわっぱ。今度は神に対する礼儀を躾てやろう」


 だが、その微笑みは邪悪な何かを含んでいた。


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