表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若き魔界幹部の悩み  作者: 耕眞智裕
若き帝国宰相の悩み
10/69

10 決意の夜

 俺の『うたれづよさ:えー最弱!?キモーイ』な身体は破壊され、フィーナにお姫様抱っこされながら車まで運ばれた。使用人たちが目を輝かせながら俺たちを見るのが耐えられなかった。だから、手で顔を覆い、一人で俺は泣いていた。

 車に乗ってからは記憶が明確ではない。きっと気絶していたのであろう。だが、不思議な事に家に着くと痛みは消え、何事も無かったかのようになっていた。とはいえ、今日あった事は現実であり、精神の痛みは誰にも癒せないし、経験と記憶して俺の心に刻まれた。


「ふーん……」


 癒しを求め、俺は魔界で授かった黒い仮面を抱く。


「えへへ、へへ……ん?」


 可愛がるように、俺は仮面をまさぐっていたが、不自然な突起物が指先にあたるのを感じ、「なんだろう?」と呟いて、俺はそれを光の下に置いて調べた。

 そこにあったのは、小さく『ON』『OFF』と書いてあるスイッチだった。黒く塗装されている為、その表示は薄く、突起物が仮面のデザインの一部だと思われても致し方ない。さらに、その反対側には、魔力素供給ポートがついており、これが唯の仮面ではなくて、何やら意味を持つものであるのは明らかだった。


(ゴクリ……)


 唾を飲み、俺はスイッチを入れると、仮面を顔に近づける。この仮面をつけたことによって、人間をやめる事になるかもしれないし、緑色の顔になって記憶が無いまま大暴れするかもしれない。だが、今日の俺はそのような事を気にしなかった。きっと心が疲れ、刺激を求めていたのであろう。


「んんん♡ むごごごおおおぉぉん♡ あぁっ♡」


 吸いつくように仮面がマレードの顔面に嵌ると、光が脳内を駆け抜け、そして逆流する。

 光は直に一つの線になり、文字を浮かび立たせた。


   『WELCOME』


その後、マレードの見る世界に色が付き、鮮やかな映像が流れる。

 映像の中の少女は、紙パックのジュースにストローを刺し、美味しそうにそれを飲んだ後、こちらにサムズアップしてこう言った。


“ まずいっ…… もう一杯”


 そして、紙パックの中身が野菜ジュースである事が明らかになった後、その商品名と値段が表示された。

 一連の映像が終わり、光なき暗闇に落ちると、どこからか声が聞こえる。


「闇の貴公子ダーク・ノーブルよ…… 仮面の力に導かれしものよ……」


(おぉ、闇の貴公子ダーク・ノーブル! 何と心地よい響きか!)


 その格好の良い二つ名に、傷ついた俺の心に闇が満たされる。自分が夢を実現した事が肌で感じられる。


「よくぞ参った。ここは闇のネットワーク。我が眷属たちが陰謀を巡らし、情報を交換する場である」


「ははぁー! ……して、先の映像は一体何なのでしょうか?」


 俺は魔王の貫禄ある声に膝をつく。


「あれはコマーシャルだ。スポンサーなしには魔界もやっていけん。そういう時代なのだ。わかるな?」


(世知辛ぇーー!)


 俺は時代の変化に涙した。そして、必ずこの手でかつての栄光を取り戻すと決意した。


「指を胸元で振ってみよ。アイコンが出るはずだ。それを用いれば他の眷属とこの空間で顔を合わせる事が出来るのだ。魔界の繁栄の為、活用するがよい」


 魔王の指示通り、マレードは指先を胸元でフリックする。すると、いくつかのアイコンが出現し、青白い光を灯した。

 そこには魔界幹部の他、戦闘員隊長、魔王、魔界サポートセンターと並び、最後に『EXIT』と示されていた。


「だが気を付けるのだ。彼らは常に連絡が取れるわけではない。相手の事情も考えるのが社会人だ。そして、その為に留守録機能もここにはある。ファファファ! それも用いるがよい」


 魔界幹部たちは俺と同じように、もう一つの顔を持っている。彼らには彼らなりの生活があり、それを無為に破壊しないのは当然のマナーだ。

 突発的事情でここに来た俺は、アイコンに無暗に触れる事無く、魔王様に別れの挨拶をした後、『EXIT』のボタンを押し、リアルへと帰還した。

 

「ふふふっ」


 特別な事をした後の我が家はどこか新鮮で、漏れ出るように笑いが口から零れた。パッションが湧き上がってくるのだ。


「魔界は俺の力で再興してやる!!

…………

それと……」


 マレードの目が部屋に掛けられた額縁に向かう。そこには丁寧に額縁に入れられた複数の新聞記事の切り取りがあった。その小さな文字が見えるところまでマレードは近づくと、顔を悔しさで滲ませる。


『新暦1016年

 ジーマ帝国46位』


『新暦1017年

 ジーマ帝国46位』


『新暦1018年

 ジーマ帝国46位』


 切り取りはグランディア大陸魅力のある国ランキングについての記事で、ランキングが開始された1016年から1020年までのジーマ帝国の順位が並べられている。

 マレードはこの屈辱を常に心に刻みつけておくために、額縁に入れ、目にする場所に掛けておいているのだ。

 そして、これは常に野望を忘れないでいるためである。宰相としての野望だ。


「必ずや、この国の魅力を他国に認めさせ、この屈辱的順位を改めさせてやる!!」


 今年1021年のランキング発表は海の月。残り四か月だ。去年の発表から、様々な努力をマレードはしてきた。レアル銀山の獲得も最終的にはこのためであった。

 だが、不安は尽きない。知名度の低さ、度が過ぎて楽観的な国民性、交通の便の悪さ、観光資源の不足、アレな皇帝、海がない事等々。例を上げればキリがない。如何にして、この国の諸問題を対処するか……


 若き帝国宰相の悩みは尽きない


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ