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第三話:エルフの村

 斜面を転がり落ちる途中、横穴から大きな手が出てきて、ゴグの体をむんずと掴む。

 その大きな手の持ち主はゴグを穴に引きずり込むと、中から岩で横穴をふさいだ。


 真っ暗な横穴のなかで、そいつは低い声でゴグに囁いた。

「静かにしろ」

「……その声は、お前はギイか……」

 コボルトのギイだった。


「ギイ……何で見てた」と苦し気にゴグは言った。

「あんたの剣さばきを盗みたいと前に言っただろ。見てたらえらいことになってた」とギイはゴグの斬られた右上腕を布できつく縛る。

「……チキショウ、痛い」

「シッ! 大きい声を出すな、人間たちがいなくなるまでここに隠れていよう」


「……うう」ゴグは痛さにうめき声をだす。

「しかし、あんたほどのゴブリンがどうしてこんなことに」

 事の顛末をギイに語り、

「俺も耄碌したのかな」とゴグは自嘲した。

 

「そろそろいいだろう」

 ギイはそう言って、岩をどけ穴から出る。

「さて、ここからさっさと逃げるぞ」とギイがゴグを抱えようとすると、

「待ってくれ、ギイ。剣を落としたんだ、元の場所に戻りたい」とゴグは弱々しい声で言った。

「人間が戻ってくるかもしれん。剣なんて放っておけ」

「そういうわけにはいかないんだ」


 仕方がなく、ギイはゴグを支えながら斜面を登る。

 元の大岩の場所に戻ると、アンナが裸で横たわって死んでいた。

 来ていた服は破り取られ、地面に散らばっていた。

 男どもに乱暴された後、殺されたらしい。


「どうやら、この人間の娘も騙されていたようだな」とギイが言った。

「埋葬してやろう」とゴグが言う。

「そんなことしてる暇はないぞ」

「じゃあ、せめて服を着せてやろう」

 娘の死体に服を着せながら、あの時追い返せばよかったとゴグは後悔した。


「襲ってきた人間たちを指揮していた奴に見覚えがあった。片目の奴だ。以前、お前を襲ったやつだぞ、ギイ」

「あの時、あんたが片目を潰してやった奴だな。指揮する立場になるとは出世したもんだ」とギイは皮肉っぽく笑う。

 もしかしたら俺に復讐するために、今回の件を仕組んだのかもしれないなとゴグは思った。


 ゴグの剣は岩の近くに落ちていた。

 拾おうとしたとき、大量に出血したからか、ゴグはめまいがして片腕で剣を抱いて地面にうずくまる。

「おい、大丈夫か、ゴグの旦那」とギイが声をかける。


 その時、遠くから人間たちの大声が聞こえてきた。

「いたぞ、モンスターだ!」

「人間たちだ、逃げるぞ!」ギイはゴグを担いで、森の中を飛ぶように走る。

 たちまち人間たちを引き離す。

 途中で、ゴグは気を失った。


 ゴグが気がつくと、目の前に女がいた。

 耳がとがっている。

「エルフか」とゴグが聞くと、

「そうです。アリシアと申します」とエルフの女が微笑んだ。


 ゴグはエルフのこじんまりとした家のベッドに寝かされている。

「ギイはどこだ、犬の顔をしたデカい奴だ」と辺りを見まわしながらゴグが聞くと、

「あの方なら、もうここにはいません。言づてがあります。これで借りは返した、俺は逃げるよと」

 ギイが無事に逃げられたらいいのだがとゴグは思った。


 それにしても、ゴグはこの森にエルフが住んでいるとは全く知らなかった。

「こんなところに住んでいて危険はないのか」

「結界をはっているので、大丈夫です」

 アリシアが言うには、苦しがっているゴグを助けるために、一時的に結界を解いたようだ。

 他のエルフたちからは反対されたようだが。


「俺がいると、人間が襲ってくるかもしれんぞ」

「大丈夫です。結界を再び張りましたので」

 ギイがすぐに立ち去ったのは、エルフたちに迷惑をかけるのはしのびないと思ったからかもしれない。


「すまなかったな。俺もここを出るよ」とゴグは立ち上がったが、めまいでグラリと体が揺れ、倒れそうになったところをアリシアに支えられた。

「まだ、体が治っていませんよ。もう少し休まれてはいかがですか」

「そうかい、すまないな」

 ゴグは再びベッドに横たわり、眠りに落ちた。


 ゴグは体が治るまで、しばらくアリシアの家に厄介になることにした。

 ベッドで寝ながら、窓の外を見る。

 エルフの里が続いている。

 皆、穏やかに暮らしているようだ。


 ゴグは自分の殺伐とした生活を思い出す。

 何となくエルフの生活がうらやましくなった。

 しかし、今さら無理だろう。

 エルフの家の天井を見ながら、

「俺は酷い死に方をするんだろうな」と独り言を言った。


 だいぶ回復したゴグはエルフの森の端っこで左腕を使って、剣の練習をする。

 利き腕だった右腕が無いので身体のバランスが取れない。

 左腕では投げナイフくらいしかうまくいかない。

 俺は終わりかもしれないなとゴグは思った。

 野垂れ死にか。

 しかし、もう十分生きてきたし、こういう運命が待ち受けていることも何となく予想はしていた。


 アリシアの家に戻ろうとエルフの里を歩いているゴグを、他のエルフたちは胡散臭そうに見ている。

 そろそろ、ここからおさらばする時期が来たなとゴグは思った。


 家に戻ると、アリシアが何やら籠に野菜や果物を入れている。

「あらゴグさん、だいぶ調子が良くなったようですね」とアリシアが微笑む。

「ああ、もう大丈夫だ、世話になったな。俺はもうお暇するよ」

「え! まだ、ここに居ても全然大丈夫ですよ」

「いや、もう迷惑をかけたくないんだよ。これは今まで世話になったお礼だ」とゴグは金貨をアリシアに手渡そうとする。


「いえ、そんなお気持ちだけで十分です」

「いや、是非とも受け取ってくれないか」 

「そうですか」とアリシアは金貨を受け取って、スカートのポケットに入れる。

「では、一緒に行きましょう」


 歩きながら、

「アリシアはゴブリンが怖くないのか」とゴグが聞くと、

「実は、ゴブリン村には物々交換のため、たまに行くんですよ」と笑うアリシア。

「そうか、全く知らなかった」

 ゴブリン村の連中はエルフと交流があることを、ヤクザもんの俺には教えてくれなかったわけか。


 少し歩くと、弓矢を持った若いエルフの男が二人待っていた。

 ゴグを疑わし気な顔で見ている。

「ここから結界を抜け出ることが出来ます」とアリシアが言った。

 一人でゴブリン村に行くのは危険じゃないかと思っていたが、弓矢を持った若いエルフの男が二人護衛でついているから大丈夫だろう。

「世話になった。気をつけてな」とゴグはアリシアと別れた。


 片腕になったゴグ。

 しかも、失ったのは利き腕の右腕だ。

 片目の奴だけでも殺してやりたいが、この体では無理だろう。

 しばらく別の場所に住みかを移して、鳴りを潜めた方がいいとゴグは考えた。


 そう思いながら、森の中を歩いていると、見覚えのある三人組が歩いている。

 この前襲って身ぐるみ剥いで、岩にくくり付けた初心者冒険者の連中だ。

 性懲りもなく冒険者遊びをやっているのか。


 片腕でどれくらい出来るか練習台にしてやろうと考えたゴグは、三人組にそっと近づいた。

 チビの方の腹を思いっきり鞘が入ったままの剣で叩く。

「グエ!」と声を上げて、チビの方は倒れて動かなくなった。


 クレリックの女は前回と同じように悲鳴を上げて逃げ出したあげく、斜面を転げ落ちて行った。

 あのクレリックの女は何なんだろう。

 やれやれ、これじゃあ、練習台にもならないな。


 しかし、背の高い方は逃げないで、剣をかまえる。

 お、少しは成長したか。

「か、かかって来い、ゴグ!」

 何で俺の名前を知っているのかとゴグが不審に思っていると、

「アンナの仇だ」と男が叫んだ。

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