第三話
空を横切った大きな影を他の者もみたのか
数人の人の声が男の方に近づいてきた。
馬は男の腕の中のものに
鼻をそっと近づけたあと
後ずさりをして男に大きく頭を下げて
闇の中に消えていった。
男は目の前の馬に託されような気がした。
「お前は誰だ?」
行灯を男に向けて衛兵らしき男が訊いた。
「オレか?オレは・・・・
オレは最近、藤子さまの世話になっている者だ。」
「藤子さま?」
一人の衛兵が後ろの仲間の方を向いた。
藤子とは一体誰だと話し合っていると
誰かが「庵主さまでは」と言った。
「そうだそうだ」
「では・・・もしかしてこいつは・・例の夢魔?」
そういうと慌てて手で口を押さえた。
「こんな時間に何をしている?
それに何を抱えているのだ?」
「空から落ちてきたのだ。」
衛兵の一人が男が抱えているものを
灯りを照らして覗き込もうとするのを
別の衛兵が止めた。
「待て、相手は夢魔だ。
仲間の物の怪と通じているのやもしれぬ。」
「大丈夫ですよ、
その夢魔は酒と肌を合わせる女がいないと
非力ゆえ。」
声に振り返ると下女郁子が手にした提灯に
藤子が立っていた。
「さ、お前の手の中のものを
皆さんお見せしなさい。
まったく夜が明けると舞わなくては
いけないというのにお前というやつは・・・」




