少女の話1
私はイミテーションの宝石がはめられた指輪を与えられました。
太陽に透かすとキラキラと輝き、母が指にはめた指輪と変わらないように見えました。
私の周りには宝石のようにキラキラとした大人がたくさんいました。
わたしはそのきらめきが羨ましく、 大人について回り、いつでもきらめきをうっとりと眺めていました。
大人についてきてはいけないと止められてしまうこともありました。
どうやら夜会は大人だけが楽しむことを許されている秘密の会であるようでした。
大人だけの秘密の時間、私は母の部屋へ忍び込み、化粧道具を眺めていました。
化粧道具は艶やかで、まるで魔法の道具のように見えました。
美しい小瓶に入れられた香水、 こっくりとした艶を放つ紅、星の砂から出来ているかのようなきらめく粉。
どれもこれも普段は私が触れてはいけない物でした。
大人になるまで必要の無い物よ、と普段母は笑っていました。
母の部屋へ忍び込むのも手馴れたものになってきたある時、わたしは眺めるだけだった化粧道具を手に取ってみました。
魔法の道具に思えたそれらは手に取れば本当に魔力を感じるもので、私はどきどきと鼓動を早くさせていました。
どきどきとしながら紅を差した私の顔はいつもとは違うようでゾクリとしました。
母も父も、今日は遅くまでいないのです。
私は手持ちのドレスの中で一番大人らしく見えるものへ着替え、母の仕草を思い返しながら化粧の続きをしました。
大人のようになった私は、せっかくですので夜会を開こうと思い立ちました。
夜会へは行ったことがないので想像の中の夜会です。
母が夜会へ行くときのように、指には与えられた宝石の指輪をはめ、脚の長いグラスへ注いだ紅茶を飲みました。
夜に見るイミテーションの宝石はあまり輝かないようで、どきどきと昂っていた気持ちは少し落ち着いてしまいました。
この指輪だけが大人のものじゃないのね。
ガラスがはまっているだけだもの。
大人になればほんものの宝石の指輪をして、
私もほんもののきらめきを纏えるのに。
大人になりたいわ。
そう呟いた瞬間、見えるものすべてが凍り付きました。