第27話 聖女、犯人が誰か話し合う
「え? 何ですって!? 獣人族の村を焼いた人間が魔族と繋がっ……モゴゴモゴゴ……」
「部長! いえ、グロリア! 声が大きいです!? 何処で誰が見ているか分からないんですから、気をつけて下さい」
メーティの転移魔法により、街から還って来た私達は、早速グロリアへ潜入捜査の結果を報告した。今、何処で敵が潜んでいるか分からない以上、魔王様にも気をつけて貰わなきゃいけないのだ。
「分かったわよルーシア。もう、最近私の扱いが魔王の扱いじゃなくなって来ているわよ」
口を塞がれていたグロリアが溜息を漏らす。
「それはグロリア様がもっと魔王らしく威厳を魅せつける態度をお取りになられないからいけないのかと……」
「言うわねメーティ」
一瞬掌へ炎を灯すグロリアだったが、ポーズだったようで、すぐに肩を竦ませる。それだけメーティを信頼しているのだろう。
「で、メーティ。貴女が一緒だったという事は、既に策を打っているという事よね?」
「はい、既に部下の侍女達へ侯爵をマークするよう伝えております。敵は泳がせておけば、その内自分から尻尾を出して来るでしょう」
あの時心の声が聞こえた悪魔……それは魔王城に住む上級魔族と魔印の契約をした者か、その眷属、隷属の者という事になる。グロリアの仲間でないとすれば、少なくとも先代魔王の眷属の誰かがあの場に居たという事になる。それにしてもメーティ率いる侍女軍団は相当な力を持っているらしい。敵の詮索については、私が自ら動かなくても良さそうだ。
「おいおい、扉へ魔法結界を張って何の話をしているかと思ったら、面白い事になってるじゃねーか!?」
「ヴァプラ! ノックくらいしなさいよ!」
生活供給部の部長室へと入室して来た獅子頭の男。第二営業部部長自ら生活供給部へと出向く事は珍しい。きっと私達の動きを察知しての事だろう。
「だいたい、あんまり目立つなよ? って、この間忠告したばかりだろ、グロリア。傍受出来ない魔力結界張るのはいいが、余計に警戒されるぜ?」
「いやいやルーシアへ潜入捜査を依頼したのはあんたでしょ! あんたが全部やってくれるんなら、この件から私は一切身を引くわよ?」
てか、魔力結界を張っていたのなら最初から言って欲しい。ちゃんと部屋での会話傍受されないようにしていたんですね。横に視線を見やると、メーティが代わりに頷いてくれた。
「今更おめーも身を引けねーだろ! 獣人族雇っておいて放置出来ねーのはそっちじゃねーか」
「そこは獣人族の安全保障を任されたヴァプラ様のお仕事じゃなくって?」
互いに顔を近づけ言い争いを始めるグロリアとヴァプラ。何やら互いに火花を散らしている。一見互いを貶しているように見えるが、本心では理解しているようにも見える。
「昔からグロリア様とヴァプラ様はこのような調子なんですよ」
「仲がいいんですね、お二人共」
「「どこがだ!」」
声を揃えて私の方を向くグロリアとヴァプラの姿に、思わず噴き出しそうになってしまった。
改めて部長室のソファーへと座る私達。メーティは紅茶の準備をしている。
どうやらヴァプラは私達へ捜査を丸投げしているように見えて、彼なりに獣人族を襲った相手を調べていたようだった。どうやら、独自の調査結果の共有も含め、敵に傍受されないこの部屋へわざわざ出向いたという訳だ。
「でもヴァプラ部長、獣人族の村を人間が襲ったんですよね? 一体どういう事か、私には理解出来ません」
魔物の討伐を領主が依頼する。ただそれだけなら街を守るための一般的な依頼に見える。しかし、そこへ魔族が絡んでいるとなると話は別だ。頭の整理がつかないまま、ヴァプラへ質問する私。
「ルーシアの言う通りね。魔物の討伐を依頼された勇者。依頼主の領主。此処までは理屈が通る。普通なら獣人族の村も魔物が襲ったと考えてしまうわ。でも私達は獣人族の村を人間が襲ったと知っている。そして、ギルドに居た魔物の存在。これって……」
頬に手を添え、グロリアが思案する。あと少しで縺れた糸が真っ直ぐになりそうなんだけど……。
「簡単な事ですよ、ねぇ、ヴァプラ様」
メーティが何処からか紅茶を淹れ、テーブルへカップを並べつつ、ヴァプラへと声をかけた。
「嗚呼、そうだな」
「え? 何よ、ヴァプラ、分かるの!?」
テーブルに置かれた紅茶をひと口含み、ヴァプラは天を仰ぐ。
「まぁ、敵さんは、俺様の部下である獣部隊を消したかったんだろうよ」
「え? ヴァプラ部長、同じ魔族なのに……どうして?」
私は同じ仲間同士で争う行為が理解出来ず、疑問を口にしたのだが……。
「嬢ちゃん。曲りなりとも魔族だろ? それ位すぐ分かるだろ。気に入らない奴は潰す。それが魔族の性分ってモンだ。どうやら犯人は、俺の事気に入らねーー奴の誰かって事になるな。グロリア邪魔したな。また来るぜ!」
ソファーより立ち上がり、部屋を出ようとする獣人王。マントを翻し、颯爽と立ち去ろうとする男を美少女魔王が呼び止めた。
「ヴァプラ……あんたこそ、目立つんじゃないわよ?」
「フッ、分かってるさ。敵さんがどう動くか、今から楽しみだなぁ。じゃあな!」
何故かヴァプラはこの状況を愉しんでいるかのように笑みを浮かべたまま部屋を出る。
魔族の考える事はまだまだ私には分からないようだ。




