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第26話 聖女、街へ潜入捜査をする

 獣人族の村の者達は全員が移住している訳ではない。求人広告を募って、働きたいと申し出た希望者を臨時で雇っている。村に残った者達は今、自給自足のための食料確保と焼かれた村の再建を行っている。


「私達は此処の生活に満足しているわよ、ルーシア様」

「毎日ルーシア様と魔王様を拝めるなんて幸せよぉーー♡」

「至福のひと時」


 私の傍で最近仕事をしている兎人族(バニー)三姉妹の証言である。


 自給自足で最近分かった事がある。


 女魔王グロリアの侍女メーティと行動するようになって気づいたのだが、魔族の国(サタナフィールド)は全く自給自足をしていない訳ではなかった。侍女軍団が展開している穀物を育てる畑やお酒の醸造、魔獣(・・)という名の家畜を放し飼いにしている施設など、上級魔族が嗜むための食物や嗜好品を確保するための設備は充実しているようだった。


 当面、獣人族と第ニ営業部のモフモフ軍団による共同の狩りでの食料確保が続くだろうが、従業員用の食料もその内自給自足しようと目論んでいる。ここはメーティの亜空間魔法……ではなく、魔族の国(サタナフィールド)の広大な土地を利用する予定だ。先日も荒廃した紫色の大地が広がる北東の平原を私のメロンから照射した光で浄化しておいた。


「ちょっと!? あんたのメロンは何でもありなの? 女神のメロンなの?」


 私が放った聖なる光を見た、グロリアの率直な感想だ。



 さて、この日、私は久しぶりにサキュバスルックの格好ではない衣装を身につけている。

 黒いゴスロリ風の衣装にモフモフした毛皮のマント。先日ヴァプラから貰った妖狐の毛皮で出来た特製のマントだ。隣には黒いフードとローブを纏った紫猫目の侍女(バイオレットアイズ)。そうメーティだ。悪魔の尻尾は今回必要ない。なぜなら……。


「はぁ、やっぱり人間の街は落ち着くわねぇー」

「ルーシア様、お忍び故、目立つ行動は控えて下さいませ」


 両腕を伸ばし、新鮮な空気を思い切り吸い込んだところでメーティに注意され、ペロっと舌を出す私。この日私と彼女は獣人族の村があるウエスティア地方の街、ブリーズディアへ来ていた。目的は獣人族の村を襲った者を探るための潜入捜査。これはグロリア……ではなく、ヴァプラ部長直々の命だった。


「第ニ営業部の部下達は今、社員食堂の食料調達に忙しいんだ。足を突っ込んだのはルーシアお前だぜ。そのくらいはやって貰わないとな」


 これが部長に言われた言葉だ。


「そんな事言うなら、部長自ら調査でもしたらいいのにね……」

「ルーシア様、幹部という者は何かと忙しいのですよ。グロリア様もヴァプラ様も、今日は朝から重役会議、リーダー会議、予算会議、魔族会議の予定です。ですからワタクシが自らルーシア様の護衛として出向いたという訳です」


 その会議って必要なのだろうか? セントラリア国にある会社も偉い人は毎日会議をやっているのだろうか? 事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだぞ、と一度言ってみたいものである。


「貴女が護衛なら安心だわ。ありがとうメーティ」

「いえ。それよりもルーシア様、潜入捜査、あてはあるのですか? ワタクシが裏通りのゴロツキを絞めて問い詰めましょうか?」


 (いやいや、それこそ目立つだろ。魔族らしい行為とは言え、それは止めて下さいメーティ)


「分かりました。止めておきます」


 心の中で思った事に反応があったため、私は思わず彼女を見ると猫耳を黒いフードで隠した侍女はうっすら笑みを浮かべ、紫色の猫瞳(バイオレットアイズ)を一瞬煌めかせた。


 (あ、もしかして、メーティさんも心の中読めるの?)


「フフフ、まぁ、そんなところです」


 全てを見透かすような透き通る双眸に、思わず意識が吸い込まれそうになる。彼女の前であまり考え事をしないようにしようと私はこの時、心に誓うのであった。


「まぁ、情報集めなら、街の酒場か教会、冒険者ギルドのウエスティア支部なんてのもあるわね」


 いくつか酒場つきの宿屋もあるが、この街には今、勇者イザナも滞在している筈だ。下手な行動は慎むべきだった。


「此処はギルドへ向かって情報収集が無難でしょうか」


 メーティの意見に私も賛成し、冒険者ギルド、ウエスティア支部へと向かう。大通りに入ると人だかりも多くなる。白や黒の魔法使いのローブを来た者、重鎧を身につけた剣士風の男、弓を携えたフワフワした衣装を着たエルフ、冒険者の装いをした者で溢れている。


 街の中心部に居住区にあった石造りの住宅とは規格外の煉瓦調の建物が見えて来る。魔力でコーティングされた煉瓦は色艶よく外敵からの襲撃にも強い。そんなギルド内に入ると、見覚えあるパーティが受付横、応接室へ続く廊下から出て来たため、私はメーティと慌てて柱の裏へと隠れる。


 (ちょっと……なんでイザナが居るの!?)


「くそっ、あの依頼主! 何様だ! 俺が魔物を倒せねーだとっ!? 馬鹿にしやがって!」

「イザナ、あんな侯爵ほっといて、さっさと依頼終わらせましょ!」


 キャシーはイザナの横をピッタリキープしている。入口の広間にある観葉植物を蹴り倒そうとしたため、ユフィが慌てて支えていた。


 (どうやら勇者へ獣人族の村周辺の調査依頼をしていた相手はこの街の侯爵だったようですね)

 

 私の脳内にメーティの声が響く。意思伝達での会話だ。


 (そうみたいね。でもあの様子。侯爵と何かあったのかしら?)


「まぁ、今日は酒場でゆっくりしようぜ! 明日あたりまたあの森にでも行ってみようぜ」

「グエル、珍しくいい事言うじゃねーか。よし、今日は酒場で快気祝いをするか!」

「はい、そうですね……イザナさんも無事回復しましたし……」

「賛成ーー、ささ、行きましょ~~イザナ」


 機嫌を直したイザナと共に、ギルドの外へと出ていく勇者パーティ達。柱の裏から出ると、私はメーティと受付嬢の下へ急ぐ。


「あのー。さっきのって、有名な勇者イザナ様ですよね? この街へクエストに来ているんですか?」


 満面の笑みで受付嬢へ尋ねると、受付嬢も質問へ答えてくれた。

 

「え? 嗚呼、はい。依頼主については機密事項ですので、お伝え出来ませんが、先日よりこの街へ来ていますよ?」

「あ、そうなんですねー。でも勇者様、さっき〝侯爵〟がどうって……」


 わざと侯爵の部分を強調するように声を荒げると、周辺の冒険者達が私達の様子を一瞬見る。受付嬢が慌てて私の顔を受付側に引き寄せ、人差し指を縦にして口元へつけた。


「しーーーーっ! 声が大きいですよ。何でも街を襲う可能性がある魔物の討伐を街の領主、ヴォーグ家のウイングランド侯が依頼しているみたいなんです。機密事項ですのでこれ以上は詮索しないで下さいよ?」

 

 くりっとした瞳を近づけ、両手を合わせて顔の前へ出し、受付嬢が懇願して来たため、これ以上の詮索は止める事にした。


「あ、すいません。気をつけますね。ありがとう」

「いえいえ、あ、貴女も冒険者なんですよね? クエストの受注ですか?」


「あ、私は今日たまたま来ただけなんです。ではでは失礼します」

「……します」


 私とメーティはお辞儀をし、受付嬢へ挨拶をする。しかし、このまま帰ろうかと思ったその時、聞こえる筈のない声が聞こえたのである。


 (ちっ、勇者め、なぜ、あの街を魔物が襲っていないと分かったのだ!)


「え? メーティ……今何か言った?」

「いえ、私は……」


 受付から離れ、周囲を見渡すが、声を発した者を目視する事が出来ない。


 (くそっ、勇者が魔物を倒さないとなると、計画が狂ってしまうではないか!)


 私は誰にも聞こえないよう、小声でメーティへ確認する。


「メーティ……これって……」

「ええ、今ギルド内に、私達が心を読む事の出来る魔物(・・)が居ます」


 獣人族襲撃事件は思わぬ方向へと展開していくのであった――――


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