第21話 聖女、求人広告を出す
「ルーシア驚いちゃったわよ、私達の天敵であるあのにっくき勇者を、戦わずして退けちゃうなんてね」
翌日、事の顛末を報告するため部長室へ訪れた私を、グロリアは笑顔で出迎えてくれた。魔族の天敵である勇者を退けたという事実は、既に女魔王グロリアを始め、獣人王ヴァプラの耳にも届いていたらしい。
「毎日スケルトンに与えられていた〝何の肉か分からない肉〟がヒントになりました。それにあの勇者は嫌いな食べ物が多かったみたいで。本当偶然でした」
実際は必然だった訳なのだが……。グロリアの横で灰色の猫が『にゃ~~ん』と合いの手を打っていた。
「それにしてもあの勇者の姿、傑作だったわね。イリュージ茸をあんな風に使うなんて魔族でもなかなか思いつかないわよ?」
「あれはかつて教会で生活していた頃、危険なキノコや食物について日々学んで過ごしていましたから、知識として知っていただけですよ」
昔、別のキノコと間違えて教会で調理した際は、幻覚作用でみんな大変な事なったものだ。今では懐かしい思い出なのです。
「まぁいいわ。で、獣人族との契約も無事に締結という事でいいのかしら?」
「今日獣人族の村より代表者とヴァプラ様との面会が予定されています。この契約は、〝基本的骨権の尊重作戦〟の礎となるでしょう」
族長ジジジが周辺の獣人族の村々だけでなく、鳥獣や人狼族、ウエスティア地方に住む獣達へ声をかけてくれるそうだ。元々獣人王ヴァプラの庇護下にある村や里も多いため、今回の提案に賛同してくれる者達は多いだろう。
「さて、お父様の資産があるから、賃金はなんとかなるけれど、会社の重役達を納得させる必要があるし、労働力を雇うって……ちゃんと考えあっての事なのよね?」
「もちろんです。そのためにはグロリアの協力が不可欠となります。グロリア、これって可能ですか……」
グロリアへ次なる作戦を耳打ちする私。
「な、なんですって!? 貴女、とんでもない事を考えたわね……」
目を丸くするグロリアの顔を、満面の笑みで覗き込む私なのであった。
後日、獣人族の村を始めとする各里や集落へ、求人広告が出される事となる。
『何者かに村を焼かれてしまったら
オー●●、オー●●
メロンサービス』
うん、今度エルフ達にも同じ求人広告を出してみようと思う。奴隷扱いではなく従業員として迎え入れたのならエルフ達もきっと喜ぶだろうし。
尚、●●の部分は万が一人間が目にしても分からないよう暗号化してある。村を焼かれ、家を失った獣人達には住み込みで魔王城へ来て貰う事にした。魔王城の国家予算が通るまでは給料を出す事が出来ないため、衣食住の保証で賄う事となる。
そして、魔物が住む国のどこに大量の獣達を受け入れる場所があるのか? その答えは魔王城に施された亜空間魔法だ。先日グロリアへ、新たな部屋や、空間を創る事は可能かと訊ねたところ、規模にもよるが、一週間もあれば可能との解答だった。
ポチやタロウ達と求人広告を貼り出して来た私は、この日もグロリアへ業務報告をしている。
「いいところに目をつけたわね、ルーシア。魔王城の亜空間魔法は先代より受け継がれて来た秘術の結晶のようなものよ。人間には絶対真似出来ない代物ね」
そう自慢気に話すグロリアには、新たな獣達が住む居住区域及び、会社へとあるスペースを構築して貰うようお願いしてある。
「まぁ、亜空間魔法は私のお付き率いる侍女軍団の役目だから、ほっといておいてもやってくれるわ」
「にゃ~~ん」
グロリア達上級魔族へ高級料理を毎日提供している侍女達はかなり優秀だ。きっとこのサタナフィールドでの生活を影で支えているに違いなかった。
「そいえば前から気になっていたのですが、グロリア様が飼っているその猫ちゃん、なんて名前なんですか?」
「あ、そういえば紹介した事はなかったわね」
なんとなく気になって質問した私だが、この後目を見張る事となる。グロリアが指を鳴らした瞬間、灰色の毛並が美しい猫が黒煙に包まれ、みるみる煙が広がっていったのだ。
「え? え?」
灰色の猫耳と尻尾。キリっとした紫色の猫目。ネイビーが基調のメイド服を着た美しい女性が恭しく一礼する。
「魔王軍一の亜空間魔法と変身魔法の使い手、私の侍女を務めている上級魔族のメーティよ」
「以後、お見知りおきを」
一目で私は悟る。この侍女は只者ではないと。強さとしての気配を一切消しているが、敵対する者は容赦しない、そんな冷たく重い威圧感を感じる存在であった。
「この子は空間転移や亜空間魔法も自在に使える。困った時は彼女に頼っていいわよ」
「ご心配要りませんよ、ルーシア様。貴女がグロリア様の味方であるうちは、私も貴女の味方ですから。むしろ何なりと任務をお申し付け下さって構いませんよ」
私が緊張している様子を察してか、手を差し出す侍女のメーティ。そして、猫耳侍女と私は握手を交わす。そして、数日後、彼女の仕事振りの凄さを目の当たりにする事となるのである。




