第19話 聖女、勇者の宴を準備する
〝もてなしの間〟は今、勇者達を出迎える〝いざないの間〟という舞台へ出向く者達の控室となっている。真ん中の襖と呼ばれる扉を隔てて隣同士になっているため、世界を救う勇者を一目見ようと他の獣人族の者達迄集まっている始末だ。
そんな中、部屋の隅で私は聖女に似つかわしくないバニーガールの格好で、祈りを捧げていた。
「嗚呼……聖母様。今から勇者を貶めようと企む悪い私をお許し下さい。『困っている者が居たなら人間でも魔族でも助ける』という貴女の教えの下、このか弱き獣人族達を助ける為の行いなのです。このあと起こる一連の行為をどうかお許し下さいませ」
私が目を閉じ祈りを捧げていると、バニーの長女ララが声をかけて来た。
「魔族でも祈りを捧げる事があるんですね、ルーシア様」
「ええ、魔族だって、過ちや自身の行動に疑問を持つ事はあるものよ?」
私が立ち上がると、兎耳娘は不思議そうな表情から笑顔へと変わる。
「そうなんですね。何だかルーシア様は、他の全てを支配し、蹂躙しようとする魔族と少し違いますね」
「そう言ってくれると嬉しいわね。この後の作戦、よろしくね」
ララと握手をかわす私。彼女は兎らしい紅色の瞳が美しい、スレンダーな兎人族だ。彼女の林檎サイズの双丘と私のメロンサイズの双丘がぷるるんと同時に『よろしくね』の挨拶をする。
「はふぅんんん♡ ルーシア様ぁああん♡ 私はその淫靡な御姿に蹂躙されっぱなしよぉおおお」
「落ち着け堕バニー」
同じく林檎サイズの兎人族の次女――リリが一人、部屋の中央にて黄色い瞳を光らせ、こちらを視姦しつつ悶えていた。スレンダーな姉と違ってリリは林檎級の果実に加え、むちむちとした太腿と肉付きのいいお尻が特徴的だ。バニースーツが食い込み、彼女のセクシーさがより際立っている。
一方先程から口数の少ない三女のルル。この子はまだ幼さが残る背の低い兎人族だ。橙色の瞳の彼女は可愛らしい兎ちゃんに見える。
「勇者イザナ御一行が到着致しました! まもなくビビビが隣、〝いざないの間〟へと連れて参ります」
まさかこんなに早くイザナと再会する日が来ようとは。でも聖女の格好じゃなくてよかった。紫メッシュがかかった髪にバニースーツ。しかも自身の魔力が感知されないよう、衣装の魔法力で結界まで張ってある。
――これなら思う存分、〝魔族ルーシア〟をさらけ出す事が出来る。
「さぁ、みんな準備はいい? 作戦通りいくわよ!」
「「「了解しました! ルーシア様」」」
こうして私ルーシアは、私を追放した勇者イザナと思ったより早く再会を果たす事となる。
「これはこれは勇者イザナとその御一行様、ようこそお越し下さいました」
「おや、獣人族の族長はこんなに若い方なんですか?」
軽鎧を身につけた犬耳ププの姿を訝し気に見つめるイザナ。ププの横には侍女役として猫耳のビビビが控えている。私は兎人族部隊として、舞台袖よりその様子を見守っている。
「いえ、族長は体調を崩しており、今休んでおられます故、私が代役として此処に立っております」
族長の代役を務めるププは間違いを言ってはいない。族長は先程の鼻からの大量噴射により、床に伏している訳だから。しかし、ププが族長ではないと知った瞬間、イザナ達の態度が一変する。
「なんだよ、族長じゃないのかよ。敬語使って損したぜ」
「勇者イザナの前よ~? もっと偉いモフモフ連れて来なさぁ~い?」
突然首を垂れていたイザナが顔を起こし、体勢を崩す。イザナの横に控えていたキャシーまでも文句を言い始める始末。以前私が一緒に居た時よりも酷くなっている気がする。
「まぁ、勇者殿心配しなさんな。ちゃんと勇者殿の申し出にあった通り、持て成しの準備はしておる故」
「なんだよ、それを早く言えよ。ん、食事を用意してくれるんだな? 村の宝はどうした? それがあれば俺が集落を滅ぼした魔物を討伐し、村を救ってやってもいいぞ?」
あくまで上から目線の勇者に苛立ちを抑えるモフモフ達。それにイザナは魔物が獣人族の集落を滅ぼしたと思い込んでいるらしい。お酒が入っている事もあり、私もイザナの態度に頭が沸騰しそうになっていた。
「勇者殿、有難き御言葉にございますが、集落を滅ぼした相手に関しては、我々で調査しております故心配は要りません。それに勇者殿の助けなど、畏れ多い。我々獣人族には、村の守護をして下さっている者がおります故、我々で解決致します」
「おいおい……マジかよ」
「ちょっとぉ~~どういうつもりぃ~?」
「意外な返答で驚きました……」
「なっ、獣人族の若者よ、何を言ってるのか分かってるのか!?」
拒否されると思っていなかったのであろう。イザナに続いてキャシー、ユフィ、グエルまでもが驚嘆の声をあげる。
「ええ、心得ております。その代わり、折角遠く足を運んで下さった勇者殿とそのお仲間へ御膳を準備しております。ビビビ」
「はい、ププ様。お前達、宴の準備を!」
猫耳メイドのビビビが両手をパンパンと叩くと、猫耳娘達が現れ、板張りの〝いざないの間〟へ座布団と御膳が人数分並ぶ。猫耳娘達が勇者イザナ達の手を取り、座布団へ促す。
「さぁ、イザナ様、こちらへどうぞ~~」
「お、おい。お前……」
不服そうな表情のイザナだったが、御膳とお酒を前に満更でもない表情となる。
「素敵なお姉さんもこちらへ~~」
「あら、分かってるじゃない、子猫ちゃん。イザナ、この子達もこう言ってるし、折角なら楽しみましょうよ!」
可愛らしい猫耳メイド娘に手を取られ、キャシーは自慢の胸を揺らして座布団へと座る。イザナも『しょうがねーな』と言いつつ納得したようだ。
「エルフのお姉さんも可愛いですーー」
「あ……ありがとうございます」
頬を赤らめて座るエルフのユフィ。
「逞しいお兄さん、今日は楽しんでね」
「うむ、感謝する。今日は楽しもうではないか」
鞘に納めた大剣を床に置き、戦士グエルはドカっと座布団へ座る。
猫耳娘が勇者イザナのパーティ一人一人につき、お酒を注いでいく。不服そうだったイザナの面影は最早消え失せていた。
「さぁ、準備は整いましたな。獣人族特製の旬彩御膳。ご堪能下され! 勇者イザナ殿とそのお仲間の更なる発展を祈念し、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
猫耳娘に注がれたお酒を飲んで、満足そうな表情となるイザナ。大きな黒塗りの重箱に入った御膳は蓋がしてあった。イザナは豪勢な食事を期待して、御膳の蓋を開ける。
「フフ……イザナ……ご堪能あれ」
思わず舞台袖で私は声を漏らす。もちろん周囲に聞こえない程度の声量で。
「なっ……!?」
御膳の中身に思わず唖然となるイザナ。
そう、獣人族特製の旬彩御膳にはとある秘密があったのである。




