第16話 勇者、モフモフを見失う
~勇者イザナの憂鬱②~
「おいおい、あの犬畜生共! どうしてどこにも居ねーーんだよ!」
このダークブリーズの森にあのエビルジャッカル達の親玉が潜んでいる。俺はそう踏んでいた。奴等は棲み処を作り、群れを成して行動する。そして、必ずリーダーとなる個体が存在する。統率の取れた集団のリーダーなら進化を果たしてBランク程度の力を持っているかもしれない。
「あの……エビルジャッカルが持つ妖気の残滓が此処で途切れています。棲み処があるならこの周辺で間違いないかと」
「ユフィ、お前の魔法具がイカれてるんじゃねーのか!?」
「そ、そんな事は……」
記憶の灯。灯の下にある容器部分へ魔物の一部を入れると、その魔物が辿った道筋を追尾する事が出来る魔法具だ。昨日斬りつけたエビルジャッカルの血と体毛を採取しておいたんだが、どうなってやがる。
「ねぇーーイザナぁーー、そんな苛ついても何も解決しないわよぉおおお」
キャシーが俺の腕に絡みつき、黒ビキニに覆われた胸を押しつけてくる。こいつはいい女だ。昨日も酒の勢いに任せて遅くまでこいつを抱いていた。昨晩の事を思い出し、キャシーと俺はそのまま顔を近づける。暫く舌と舌を絡ませる音だけが辺りに響き、俺は落ち着きを取り戻す。
「ふっ、キャシー分かってるじゃねーか。お陰で冷静になれたぜ」
「ぇえ? こっちは全然冷静じゃないわよ?」
キャシーが太腿を摺り寄せ身体を当てる。ついつい上物の女に俺の聖剣が反応しちまったぜ。
「で、イザナ。イチャつくのは構わんが、これからどうするんだ?」
グエルの邪魔が入る。このまま野外でキャシーを抱いてやってもいいが、まぁ、夜まで取っておくか。
「どうせあの犬畜生共もウェスティア地方には居る筈だ。探して狩ればいいさ。この際Bランク以上の魔物適当に探して、この地方を荒らしてる魔物を討伐して来ましたって、首でも持ち帰ればクエストクリアだろ?」
「さっすがぁーイザナ。こんなジメジメした森早く出ましょっ! 確かあっちに獣人族の村があった筈よ。勇者だって言って、ご馳走奢ってもらいましょうよ!」
キャシーが指差した先には獣人族の村が点在していると聞いた事がある。ちょっと暇つぶしにそっちに行ってみるか。
「よしっ、いいねぇ。ついでに兎人族の一匹や二匹抱いてやるぜ!」
「もう、一番は私だからねっイザナ」
「決まってるだろ、キャシー」
俺達はこうして森を出る事となる。まさか獣人族の村であんな事が起きるなんて、この時の俺は知る由もなかった。
******
私とポチ、警備より帰って来たタロウ。一人と二匹は、そのままおもてなしの間へと移動していた。兎人族の女の子達がしなやかに強調されたお尻をクネクネさせながら、舞を披露している。
「貴重な食料を提供していただき……感謝するわ」
「いただきますずらーー」
「かたじけない……わん」
タロウとポチは丸皿に山盛りとなったお肉にかぶりついている。これは猪豚だろうか? 何のお肉か分からないお肉よりはよっぽどランクが上だ。
「ルーシア様、上級魔族様、いえ、特にサキュバス様は、人間や獣の生き血や……精気を食べて生きていると聞きました。こんな穀物でよろしかったのですか?」
「嗚呼、こうみえて私サキュバスではないのよ。上級魔族は人間と同じ食事も嗜むのよ? 族長さん、まだまだ勉強不足ね」
然り気無くサキュバスではないアピールをしつつ、目の前の焼魚を食べる私。事実グロリア達上級魔族は、人間で言うと、上流階級の貴族達と同等の食事を毎日嗜んでいるのだ。これも一般従業員との貧富の差に繋がっている気もするが。
「そうでございましたか。いやはやむしろこんな質素な料理で申し訳ない」
「心配しないで。タロウ達も満足そうに食べているわ」
「おかわりずらーー」
「美味……わん」
尻尾で喜びを全面に表現する狼男とデスジャッカル。メイド服を着た可愛い猫耳の女の子がおかわりを持って来てくれた。
「魔王様の庇護下におかれ、まさかこんな平穏な時を迎える事が出来ようとはのぅ……」
「族長……?」
遠い目をした族長が、昔語りを始める。魔族と人間、そして、この村の話を少ししてくれた。
魔族に自給自足の概念は少ない。弱い者から搾取するが魔族の基本理念だ。俺のモノは俺のモノ、オマエノモノは俺のモノ精神で、支配地域から物を奪い生活して来た。
しかし、それも昔の話。先代魔王、ここではグロリアの父親にあたる先代魔王――第百二十六代魔王、ジューク・エリザベート・サタン・グレゴール。彼が先々代勇者と取り交わさした不可侵条約により、人間と魔族の戦争は一旦終息したのである。
この不可侵条約により、平和は守られ、人間の国々を襲い、世界征服を企むような魔族はほとんど居ないらしい。闇市場のような裏ルートで人間へ悪魔の魔法具や武具を密売するなどして、資金を確保する者や、悪魔の契約を隠れて行う輩は居るらしいが。
「しかし、平和とは仮初めですじゃ。我等弱き者は誰かの庇護下に置かれなければ生きていけぬ運命。まさかヴァプラ様より、雇用の提案をいただけるとは、魔族にも血と涙があったんですなぁ」
双眸より涙を溢す族長、白いハンカチを先程の猫耳娘が渡すと、思い切り鼻をかんでいる。
「まぁ、心配しなくていいわよ。困っている者が居たなら人間でも魔族でも助ける! それが私のポリシーです」
「フォッフォッフォッ、まさか魔族のルーシア様からそんな言葉が出るとは……ルーシア様はサキュバスではなく、聖女のようじゃ」
まぁ、聖女なんですけどね……。『おほほほほ』と変な高笑いをしつつ、内心苦笑している私なのでした。




