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第14話 聖女、獣人王へ直談判する

 生活供給部の中でもスケルトン達がやっている、魔族の国(サタナフィールド)全体へ魔力を提供している魔力炉での仕事は特にブラックだ。昼夜交代制とはいえ、既に死んでいる(・・・・・)事をいい事に二十四時間体制で動力棒を回し続け、酷使されるスケルトン達。私が浄化した回復の泉と化した〝マネ泉〟はあるものの、それで全てが解決する訳ではない。

 

 人間には生きるための権利、人権があるが、過労死出来ない骨達に骨権(・・)があってもいい筈だ。会社の従業員は使い捨てであってはならないのだ。


「で、ルーシア、貴女の主張は分かったけど、どうして此処(・・)な訳?」


 私は今、サキュバスの格好で第ニ営業部入口、キマイラも通過出来る程の巨大な扉の前に立っている。隣には溜息を吐いて私を問い質す女魔王グロリア。


「スケルトン達が食べている何者か分からないお肉……あれは第ニ営業部が用意しているんでしょう? 第ニ営業部の御力を借りる事がスケルトン達の職場環境改善への近道になると考えたんですよ」

「うーん、貴女の意図がイマイチ分からないわ。食事はエネルギー補給よ? あれの何が不満なのかが分からないわ」


 エネルギー補給……グロリアの主張は間違ってはいない。だが、美味しいご飯を食べる時、たしかに私の脳内からは幸せ成分が大量分泌され、日々の悩みや辛い出来事も忘れてしまえるような力があるのだ。それに、魔物社会にもきっとお酒を飲む文化や、家族を持つ魔物が居たなら一家団欒の時間を求めている者も居るかもしれないのだ。


「グロリアという魔王様の地位があれば、ヴァプラ部長に通してもらう事は出来るでしょう? 今回の最終目標は、スケルトン達の不満を解消する事よグロリア。名づけて、〝基本的骨権(コッケン)の尊重作戦〟です」

「コッケン? ケッコン?」


 グロリアの頭上にハテナマークが浮かぶ。


「骨の権利と書いてコッケンです!」

「まぁいいわ。ヴァプラと会わせるのはいいけど、あいつの機嫌損ねたら面倒くさいから気をつけてよ?」


 再び溜息を吐くグロリア。意を決して私は第二営業部へと乗り込む。


「たーーのもーー」

「ワオーーーーン! わんわんお~~! ルーシア様ーー、今日はどうしたずらか!?」


 狼男のポチが尻尾を振り振りしつつ私達を出迎えてくれた。四つん這い姿で突撃して来た頭を撫で撫でモフモフしつつポチへ挨拶する。


「ポチおはよう。相変わらずの気持ちいい毛並ねぇー」

「ルーシア様、そんな褒めても何も出ないずらーー」


 ポチが私の頬へ顔を近づけクンクンペロペロする。


「もうーーくすぐったいよポチ」

「ルーシア様いい匂いずらーー」


 ポチと私が戯れていると……。


「おーーい、お前等ーー私を忘れているわよーー?」


 横から声がして、悪魔の尻尾で私とポチの身体をツンツンする美少女の存在に気づく。


「あ、グロリア居たの?」

「あ、魔王様、居たずらか?」


 一緒にグロリアを見上げる私とポチ。


「一度灰燼になりたいの?」

「いえ、冗談よグロリア。ねぇポチ、ヴァプラ部長居る?」


 気を取り直してポチへ尋ねる私。


「え? 部長へ用事ずらか? 奥の部屋に居るずらよ?」


 ポチが奥の部屋へ私達を案内してくれる。先日営業部のフロアへ居たキマイラや私が助けたタロウ率いるエビルジャッカル部隊は現場へ出ているらしい。高い天井、広いフロアの奥を進み、豪華な扉がある部屋の前でノックをする。


「ヴァプラ、私よ。グロリアよ」

「ん? どうした? 入れ!」


 中からの声を確認し、私とグロリアが入室する。


「失礼するわ!」

「失礼します!」


「なんだおいおい、グロリアとこないだの嬢ちゃんじゃねーーか。魔王様が直々に何のようだ?」


 豪華な玉座に座る獅子頭の男――獣人王ヴァプラはまさに一国の王を彷彿とさせる威厳を放っている。幸い彼が先日見せた威圧の妖気(オーラ)は抑え込んでくれているようだ。


「まぁ、用事があるのはこの子、ルーシアなんだけどね。あんたに話があるんだって?」

「ほぅ?」


 双眸を細め、私を真っ直ぐ見据えるヴァプラ。意を決して私は部長へ申し出る。


「ヴァプラ部長、今日は折り入ってご相談へ参りました」

「……言ってみな?」


「獣人王ヴァプラ様は獣人族達の村を護ってあげていると聞きました。聞けば我々生活供給部のスケルトン達の食事を始め、献上されたお肉はサタナフィールド各地へ提供されているとか?」

「嗚呼その通りだ。狩猟で食料を確保するだけじゃあ足りねーからな。獣人族や鳥獣族、獣達の生活拠点を護ってやる対価として献上品を貰っている。いい仕組みだろ?」


 確かにいい仕組みだ。弱い者は狙われやすい。彼等を狩る者は魔物だけでなく、人間の場合だってある。この世には弱肉強食という絶対的摂理が存在する。背後に獣人王が控えているのであれば、これ程大きな安全保障はない。


「ええ、さすがヴァプラ様、素晴らしいアイデアです。ただそのお肉ですが、どうやらスケルトン達には残り物(・・・)が提供されているようでしたので……」

「そりゃあそうだろ? お前等スケルトンは最弱モンスターだぜ? 世の中には順番ってモンがあるだろ? お前等にいい肉なんて提供していたら他の奴等に提供するものがなくなっちまうぜ?」


 当たり前というかのようにヴァプラが掌を上にし、両手を水平にする。


「そう、そこなんです! グロリアから献上品として命を捧げられる獣達の存在を聞きました。罪を犯したモノのお肉の存在も。でもそればっかりではスケルトン達が幾ら一度死んでいるからと言って、活動停止してしまいます! そうすると魔力炉が機能しなくなる。このままではサタナフィールド全体に影響が出てしまいます」

「……何が言いたい?」


 若干苛ついた表情で、ヴァプラが私を睨みつける。グロリアは横で心配そうな表情をしている。


「スケルトン達へも安定した食事の提供を所望します」

「無理だな」


 即答。ここまでは予想通り。


「はい、このままでは無理です。ですから、私に考えがあります。鍵を握っているのは、先日襲われたという獣人族の村を救い、あちらへある条件(・・・・)を提案する事です」

「ほぅ?」


 こうして私はヴァプラ部長へ、〝基本的骨権(コッケン)の尊重作戦〟を提案するのであった。


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