第13話 聖女、妙案を思いつく
【ルーシアメモ】
聖女の正体がバレてしまっては大変なルーシアは普段サキュバスの格好をしているが、
〝マネ泉〟=温泉に入った際もバレないよう、グロリアが尻尾のアクセサリと角のカチューシャを魔法でくっつけてくれているんだぞ☆彡
ルーシア豆知識コーナーでしたー。
ではでは本編をどうぞ。
「ええええ!? ちょっと待って! 貴女、ヴァプラと遭遇しちゃった訳?」
「え? そうですけど……それが何か?」
本日の業務報告に部長室へと赴いた私ルーシア。タロウ率いるレッドジャッカル達を治療した事、温泉の脱衣所がびしょびしょになった事、そして、マネ泉の外でヴァプラさんと出逢った事を報告したのだが、四天王ヴァプラの名前が出た途端、グロリアが焦燥の色を隠し切れなくなったのだ。
「それが何かじゃないわよ! あいつ……先代魔王やってたパパ専属の四天王が一人よ? 四天王の中では同じ獣の仲間は大切にするタイプだけど、気に入らない奴は一突きで心臓捻り潰されているわよ」
『貴女よく無事で居たわね……』と呟くグロリア。グロリアの横で灰色の仔猫が『にゃ~ん』と鳴いている。
「そ……そうだったんですねグロリア。どうやら気に入って貰えたみたいでよかったです」
どうやら私は知らぬ間に即死の危機を回避していたらしい。そう言えばあの後、『よくヴァプラ様の前へ臆する事なく飛び出していきましたねっ』って言ってたっけ?
「第ニ営業部はね、潜入捜査や狩猟他、魔族にしては珍しく、世界の鳥獣や獣人族なんかの居住地域も確保してあげてるのよ。人間界を襲ったり魔族の威厳を示すための諜報活動をしている第一営業部や普段何やってるのかよく分からない第三営業部とは全く違うテイストね」
グロリアが営業部について解説してくれた。とりあえず第ニ営業部がモフモフだらけという事は大方理解出来た。
「なんか営業部にも色々あるんですね。でも、ヴァプラさんが根っからの悪人ではない事は会って分かりましたよ」
「まぁそうね……他の四天王よりはまだマシね」
四天王……という事は残り三名居る事になる。
「他の四天王……ですか……」
「まぁその内分かるわ。とりあえず第一営業部の部長やってるベルフェだけは気をつけなさい! あいつを敵に回すと厄介だから」
第一営業部の部長ベルフェ……名前だけは覚えておこう。そう心に誓う私。
ジリリリリリリリ――――
ここで生活供給部より終業のベルが鳴る。グロリアはベルの音を聞くなり魔力炉へと向かう。
「さ、スケルトン達へ食事の時間ね。侍女達がご飯を作っているからルーシア、貴女は先に向かってていいわよ」
「え? あの……グロリア、さっきのベルって終業のベルですよね?」
朝は始業のベル、夕刻には終業のベルが鳴る。これは人間の国にある会社を真似たのだろう。しかし……。
「ええ、だからスケルトン達に晩御飯を与えにいくのよ?」
「あの肉の塊……ですか? あれって何の肉なんですか?」
スケルトン達には毎日天井から何の肉か分からない肉が降って来るのだ。
「よくぞ聞いてくれたわね。あの肉は、第二営業部が狩猟で確保した肉、護ってあげている獣人族の村から献上された獣の肉、悪さをしていたゴブリンやグール、それから人……」
「ああああああああ、それ以上は聞かなかった事にします」
最後は危険そうなフレーズが聞こえそうだったので思わず耳を塞いでしまった。
「でも、あれじゃあ食事って言わないですよ。それに終業時間なのに、みんな働きながら肉を貪っているじゃないですか? 私だけグロリアと同じ上流階級の食事をいただくなんて出来ません」
「え? じゃ、じゃあルーシア用にもグールの肉や人……」
「そういう意味ではないです!」
最後の言葉を言い終わる前に私がグロリアへ意図を伝えた。ついでに終業ベルの意味も。
「……え? 終業のベルって、役職の者が帰って、他の従業員へ食事を与える時間を伝えるベルかと思っていたわ」
「……やっぱり」
溜息を尽きつつ、私はグロリアと魔力炉へと向かうのであった。
「ほへーーほへほへーーーーグロリア様ーーーー過労死出来ない骨を心配して来て下さったのですかーー!」
魔力炉へ入って来た私の姿を見て、スケルトンのブラックが駆け寄って来た。スケルトン達は今にも死にそうな表情で(既に死んでいるのではあるが)魔力炉の動力棒を相変わらず回している。
「さぁ、お前達、食事の時間よーー!」
グロリアが管理モニタらしきパネルを操作すると、天井から肉がドチャドチャと落ちて来た。
「オマエラジュンバンニクエヨ!」
「ドウリョクロヲトメルナ」
「エーハンカラコウタイセイダ」
「サキュバスメロンウツクシイ」
若干一名関係ない言葉を放っている気もしたが、これは作業だ。食事じゃあない。それに形だけの終業ベル……これもなんとかしないといけない。
「グロリア……この魔力炉を回すスケルトンって、他に居ないの? せめてもう少し早く仕事終わらせてあげる事は?」
「魔族の国中に魔力を送っているのよ? それは無理な話ってもんよ」
交代で肉を貪り食べているスケルトン達。彼等はきっと、あのレッドドラゴンのお肉やホワイトシャークのヒレスープなんて食べた事がない筈だ。せめて高級じゃなくても普通の食事は出来ないのだろうか。
「グロリア、そういえば、このお肉って……第二営業部が確保してるって言ってましたっけ?」
「ええ、そうよ? それがどうかした?」
献上品でお肉を貰っている……そのお肉はどこへ配給されているのか……社畜扱いのこの子達にまで行き届いていないだけなのか……この魔族の国〝サタナフィールド〟の仕組みをもっと理解する必要がありそうだ。
(ルーシアサマガ……タノシソウ)
(サキュバスノユエツノエミ……)
(アクマノカジツ……)
(サキュバスメロン……)
スケルトンリーダー達が良からぬ妄想をしている中、私はこの状況を打破する作戦を考え、思わず笑みを零していたのであった――――




