第11話 勇者、モフモフの群れに苦戦する
皆様お待たせしました! 第2章スタートです。よろしくお願いします!
~勇者イザナの憂鬱①~
「くそっ、こいつらただのエビルジャッカルじゃねーのかよっ」
俺は歯を食いしばる。こんな筈じゃなかった。とりあえず金を稼げそうな手頃なクエストがあったんで受けたつもりだった。最近魔物の動きが活発となっている〝ウエスティア地方の調査、及び街を襲う可能性のある魔物の討伐〟がクエストの依頼だった。ウエスティア地方は一度訪れた事があったため、キャシーの転移魔法で手軽に行き来出来る。危険なら俺達の住むセントラリアへ戻ればいいし、軽い気持ちで受けたクエストだった。
「グルルルルル……バゥ!」
十数匹のエビルジャッカルが同時に豪火球を放つ! 周辺が火の海となるが、オリハルコンの鎧に護られた俺はこの程度の攻撃、蚊の刺す程度だ。周囲に拡がる業火を諸共せず、眼前に迫る猛牙を回避し、魔物の胴体を斬り捨てる。
「中級氷属性魔法――凍氷冷風!」
俺の視界を遮っていた炎が冷気の風によって相殺される。視界が晴れると黒い果実を揺らした俺の女、キャシーの姿が見えた。冷気による凍傷を受けたエビルジャッカルが撤退していく。
「イザナ! 怪我はない?」
「遅せーーぞ、キャシー。こんくらいの炎で殺られる勇者様じゃねーーっての」
腕を絡めようとするキャシーを突き放し、エビルジャッカルの逃げた先を見て舌打ちする俺。エビルジャッカルは森の奥へと逃げていった。
「イ、イザナさん……。高回復薬を……」
「ちっ、いらねーよ。ユフィお前はエルフの癖にトロいんだよ」
「ご、ごめんなさい」
ユフィの手を払う事で高回復薬が地面に落ちる。落ちた高回復薬の瓶を謝りつつ拾うユフイ。
「おいおいイザナ、そんな言い方はねーだろ!」
「そういうお前は炎を前に何も出来なかったじゃねーかグエル」
大剣を持った大男、グエルを窘める。こいつはエビルジャッカルの猛攻に追いついてなかった。どいつもこいつも役立たずだ。
「癪だけど……いつもなら防御魔法でルーシアが皆を保護して私が攻撃魔法で範囲攻撃、迫る敵をイザナとグエルが仕留めていたのよね」
「おいおいどうしてそこでルーシアの名前が出て来るんだよ! あいつが邪魔だってお前が言ったんだろ、キャシー」
俺は怒りに任せてキャシーの胸倉を掴んでいた。あいつの名前が出た事で頭に血が上ったようだ。キャシーが咳き込んだため、持ち上げていた彼女を下ろす。
「Cランク魔物ごときが嘗めやがって……。まぁいい。あの森の奥に住処があるのは分かった。一旦ブリーズディアの街へ戻るぞ。明日あの森に居る親玉を討伐してやるさ」
「あ、待ってイザナ!」
俺はそういうと、街へと引き返す。数日の調査であの森に親玉が居る事は分かった。今日は気が削がれたんで街の酒場で呑む事に決めた。宿屋でキャシーを抱いてもいいか。さっさとこんなクエストクリアして、報酬を貰うだけだ。
******
魔王城に就職(?)して暫く経った。ようやく各部署の名前や、どんな魔物達が勤務しているのか等、少しずつ分かって来たところだ。最近の私は救護室にて待機、激務による急患が出た際は各部署へ出向く事が日常となっていた。そんなある日の事……。
「ルーシア! ルーシア、大変ずらーー!」
「あら、ポチじゃない。そんなに慌てて、どうしたの?」
救護室に急いで入って来た狼男は、先日声が出なくなっていたところを助けたポチだった。肩で息をするポチを落ち着かせるべく、モフモフした頭を撫でてあげる。
「ふにゃあ……気持ちいいずら……ってそうじゃないずら! 友達のタロウとその仲間達が怪我して戻って来たずらよっ! 第ニ営業部の転送部屋に居るずらっ!」
「え? 本当に!? すぐ案内してっ!」
救護室を飛び出して、急いで第ニ営業部へ向かう。転送部屋とは営業部の従業員が、世界各地の活動拠点へ移動する際に転送出来る装置らしい。第ニ営業部へ赴くと、天井の高い部屋にポチと同じシルバーウルフや風を操るエアウルフ、獅子の頭に胴体・鷲の翼に蛇の尻尾を持ったキマイラ、沢山の魔獣が闊歩していた。
「ルーシア、ここずらっ!」
「こ、これは……た、大変」
CランクやBランク、様々な魔物達を後目に転送部屋へと入る私。そこには巨大な転送用の魔法陣の上、燃えるような赤い体毛から血を流し、一部凍った後のような凍傷を負った魔物達が苦しそうに横たわる姿があった。確かCランク魔物のエビルジャッカルだ。何匹かは剣で激しく傷つけられた痕がついており、予断を赦さない状況だ。
「タロウ! 救護室のルーシア様を連れて来たずらっ!」
「ポチか……かたじけない……無念……ルーシア殿……仲間達を頼む……わん」
私のメロンで包んであげる事が一番だが、十数匹の魔物を一匹ずつ治療していては時間がかかる。私は祈りのポーズでそっと目を閉じる。忘れられてそうだが、もちろん今はサキュバスの格好だ。
「女神よ……彼の者達へ癒しの光を、生命の息吹を……。――〝聖女の祝福〟!」
私の全身より白く眩い光が放たれる。視界が見えなくなり、思わず目を閉じるポチ、そしてジャッカル達。やがてポチ達が目を開けると、傷の癒えたエビルジャッカル達が四つ脚で立ち始める。
「ワオーーン! オンオンオーーン!(ありがとう、ありがとうわん!)」
「オンオーーン! ワオーーンオンオンオーーン!(治った! サキュバスサマありがとうわん!)」
ジャッカル達の歓喜に溢れる声が意思伝達により脳内再生され、思わず笑みが零れる私。
「ルーシア殿……回復スキルが使えるサキュバスとは希少也……我が名はタロウ。この御恩、一生忘れぬ所存……わん」
「タロウさん、よろしくね。そんな堅くならないでいいわよ。さぁ、みんな完治していない筈よ。このまま〝マネ泉〟へと参りましょう!」
聖女の祝福は全体への回復スキルであるため、一体へ集中する回復魔法より、一度の回復量は劣るのだ。ここは私の回復力により浄化された〝マネ泉〟へ入る事が、完治への近道なのである。
「だだだダメずらーーーー! 〝マネ泉〟へ入ったら声が奪われるずらーー」
全身を震わせ転送部屋の入口で両手を広げ抵抗するは狼男のポチだ。どうやら声が奪われて以来、〝マネ泉〟がトラウマになっていたようだ。
「大丈夫よポチ。あれから私がマネ泉を浄化させたの。今では回復力に溢れる天然温泉になっているわよ? それに、この時間なら誰も居ないでしょうし、貸切にしちゃって一緒に入っちゃいましょうか?」
「入るずらーー! 一緒に入るずらーー! サキュバスメロンずらーー!」
ポチの鼻息が荒くなっているのは気のせいだろうか? ポチのような可愛らしいモフモフと一緒に温泉へ入るなら、私も大歓迎だ。
こうして十数匹のモフモフ軍団は、一路温泉へと向かうのであった――――
お待たせしました。第2章開始となります。聖女のメロンが会社とどう絡んでいくのか? 楽しんでいただけると幸いです。よろしくお願いします!




