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第9話 聖女、闇の温泉を浄化させる

 昔本で読んだ事があった。この世界を創造した女神は、荒廃した土地を浄化させ、闇の地を花畑へと変え、触れると溶ける泉を浄化させ、光輝く泉へ変えたと。


 私は回復魔力を身体全体へ張り巡らせたまま、紫色に泡立つ温泉へと突撃する。私の足先がお湯に触れた瞬間、痺れるような痛みを感じる。


 一瞬反射でお湯から身体が離れようとするが、私は意を決して〝悪い子は真似してはいけません温泉〟――通称〝マネ泉〟へと飛び込んだ。


「どう? マネ泉のお湯加減は? 気持ちいいでしょう? 少しヒリヒリするのが癖になってくるわよ?」


 お湯加減は丁度いい。だが、ヒリヒリどころか全身が痛い。焼けるようだ。生身の人間の皮膚なら溶けてしまうのではないだろうか? 百倍に希釈してこれなら源泉は即死級だろう。スケルトンじゃなければ確実に死んでいる。


「ええ、温まりますね。でもこのヒリヒリ、グロリア以外には刺激が強すぎみたいですよ?」


 私は赤くなった皮膚をグロリアへ見せる。もうすぐ皮膚の表層が溶けてしまうだろう。グロリアが驚嘆する。


「なっ!? こんなに薄めているのに?」

「グロリアはやはり魔王様なんですね。きっと強い耐性をお持ちなんでしょう。でもこのままでは従業員達が居なくなっちゃいますよ?」


 心当たりがあったのか、グロリアがわなわなと震え始める。


「そんな……あの子達が死んでしまったの……私が原因だって言うの?」

「でももう大丈夫ですよ、グロリア」


 震えていたグロリアがそっと顔をあげる。


「え? 何を言って……」

「だって、私は聖女(・・)ですから」


 次の瞬間、私の全身から強い光が放たれる!

 光は温泉全体を包み込み、やがて紫色の温泉が金色に輝き始める。目映く発光する温泉に、グロリアは思わず眼を閉じる。


「なによ……これ?」

「困っている者が居たなら人間でも魔族でも助ける。それが私のポリシーです」


 光の中でグロリアへ微笑みかける私。この時グロリアは、目映い光の中で笑みを浮かべる私が女神に見えたという。


 やがて、金色の光が収まり、私は産まれたままの姿で温泉の中央に立っていた。爛れていた筈の皮膚は艶を取り戻し、キラキラと光の粒子を帯びた湯気が私の大事なところと果実の蕾を隠してくれていた。


「な、何が起きたって言うの!」


 グロリアは開いた口が塞がらないといった様子だ。それのその筈だ。


 今まで何倍に希釈しても毒素の抜ける事がなかったマネ泉が……。


 なんという事でしょう!


 光の粒子が溶け込んだ、無色透明の光輝く〝回復の泉〟へと変化してしまったのです!


「私の聖女としての浄化の力を温泉へ流し込みました。私、人間の国の適正検査で、戦闘能力はBランクだったんですが、回復力だけはSSSランクだったんですよ」

「ええええ、えすえすえすランクですって!?」


 グロリアが驚くのも無理はない。力や魔力に換算すると、SSSランクは間違いなく魔王級だ。私もこの数値を俄に信じられなかった位だから。


「そ、それであんたのその果実(メロン)に触れただけで傷が回復するという訳ね……」


 闇属性相手なら私のこの力は天敵なのであろう。死なないスケルトンが昇天するのも無理もない。


「あ、でも心配しないで下さい。普段は回復力をセーブしていますから、私の前にもし上級魔族の方現れても、聖女の力で傷つけないようにはしますから」

「……なんだか人間のあんたに手加減されているようで、上級魔族が可哀想に思えてくるわ」


 お手上げと言わんばかりにグロリアは溜息をついた。そして、私はゆっくりと身体を沈め、文字通り身体の芯まで温まる事の出来る温泉へと浸かる。


「はぁーー生き返るーー」


 これよ、これ。温泉はこうでなくっちゃ。至福の表情となる私を見て、ゴクリと生唾を飲み込むグロリア。


「そ、そんなに気持ちいいの? ちょっと……そんな事言って、私を殺すための罠じゃあないでしょうね?」

「大丈夫です。闇属性の者が入っても大丈夫なように、回復の泉を調整していますから。人間にも魔族にも優しい、〝みんなが真似(・・)しても大丈夫な温()〟ですよ?」


 温泉に浸かった状態で優しく手招きする私。魔王様は慌てて脱衣場へと走って行った。


「ちょちょちょっと服脱いで来るわーーーー」




******


「「はぁーー生き返るぅうーーーー」」


 私とグロリアが同時に声を漏らす。グロリアも良い効能(・・・・)ばかりの温泉に浸かって満足そうだ。


「温泉って、こんなに気持ちがいいものだったのね! 知らなかったわ」

「身体中から活力が溢れて来るようでしょう? 本来温泉とはこうあるべきなのです!」


 私が温泉を力説していると、グロリアは、二つの果実がお湯の表面に浮かんでいふ事に気づく。まじまじと浮かぶメロンを見つめる。


「それ……どうやったらそんなに浮かぶの?」

「えっと……あはは……浮かんでるなんて気のせいですよー」


 羞恥心を隠すかのように、そのまま顔を沈めていく私。


「このーー、ルーシア! この私があんたのメロンがなぜ浮かぶのか、調べてあげるから覚悟しなさい!」

「グロリア、待って、やめ、やめてってば!」


 こうして、私とグロリアは癒しのひと時を過ごしたのである。




 後に、魔王城には冒険者を惑わし地獄へ連れ込む死の温泉と、魔王戦を前に完全回復出来る、女神の温泉があるらしいという噂が冒険者達の間に広まるようになるのだが、それはまだ先のお話である――――

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