表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハートナイフ  作者: 蒼野 媽流
第二章 季嵐温運
54/63

8 雌雄を決する星の出会い

シェリハ達はダブルフラワーホールの警備員に誘導され、観客席に座った。

招待と聞いていたから間近で見れるのだろうか、とシェリハは期待していたのだが、予想外に最後尾の列だった。

はっきりいってモデル達は蟻ほどの大きさにしか見えないし、偵察どころではない。


(やっぱりな。じっくり見せてくれるわけがないか)


シェリハはせっかく足を運んだのに間近で見れなくて、梨星はがっかりしているだろうと隣を見たら彼女は目を輝かせて舞台を見つめていた。

七色に光るスポットライト。

この日の為に磨きに磨きを掛けてきたモデルたち。

個性的で独創的な衣装。スポットライトに負けない華やかなメイク。

梨星でなくとも一クリエイターとして興味深いものだ。

シェリハはイーライナンの汚いやり口は好きではないが、仕事に対して手を抜かないその姿勢には好印象を持っていた。

壁にはダブルフラワーホールの象徴である様々な色の花が敷き詰められている。おそらくはドライフラワーだろうが、スポットライトが薄い花弁に当たるたびに花に光が灯ったように見えて美しい。

そして観客の喝采を受けながら颯爽とモデル達が歩いていく。

二人がショーに見入っているとすらりとした長身の男がゆっくりと近付き、シェリハの右隣に座った。


「どうも。あんた、シェリハ・マルフリーフェだろ? あのエブミアンテ社の」


シェリハは突然話し掛けられて男の顔をまじまじと見た。

顎にまで掛かる前髪を横に流し、胸元まで伸ばされた髪はミルクティーのようなブラウンだ。

ブルーとブラックのマドラスチェックのシャツの上にコーデュロイ素材のブラックのジャケットを羽織り、ブラックのジーンズにブラックのエンジニアブーツを合わせている。

線が細く背はすらっとしていてシェリハよりも少し高い。

目は二重で大きく、色はダークブラウンだ。吊り上がった眉は太く整えられていて、シャープな印象を与えている。

一見二枚目の好青年に見えるが、あのイーライナンの片腕なのだから腹の内は定かではない。


「ベートマさんに招待されてね。…どうも若いけどそれなりの立場の人みたいだな。君は?」

「ヴァイシザー社の貴宮空澄だ。あんたと会うのは初めてだけど、この業界に飛び込んだ時から会いたくて会いたくてね。

こんなところでお目にかかれるとは嬉しい限りだよ。ん…?」


空澄は早口で捲し立てるとシェリハの隣に座っている梨星を見た。

梨星も黙ったまま空澄を見上げている。

その時梨星はイーライナンの台詞を思い出していた。『懐かしい人に会わせてあげるから』と言い放ったのは、そういう意味が含まれていたのか、と考えていた。


「空澄、あの人の会社の社員だったの…?」

「そうだ。久し振りだな、こうやって会うのは。

しかし驚いたな。俺が認めた男の彼女が前の彼女だなんてな」


前の彼女。空澄ははっきりとそう言った。

シェリハは驚きはしなかったがなぜ彼らでなければならないんだろう、と思ってしまった。

梨星に交際経験があって当然だとは思うが、その前の相手がイーライナンの力になっている男というのだから世間は広いように見えて狭いものだ。

離れたとはいえこの業界にいる限り、ずっと関わらなければならない。そして敵対しなければならない。

イーライナンの手助けをしているなら彼女の方針や思想に賛同しているはずだ。


「空澄…、学校でも優秀だったけどもう頂上に立てるまでになったんだね」

「そんな君がこんな所で見物なんて、知られれば騒がれるんじゃないか?」

「こんな暗かったら誰も気付かないさ。

そんなことどうでもいいだろ? あんたに出会わせてくれた社長に感謝するよ…」


空澄はそう言うとシェリハに顔を近付けて、指先を彼の頬に這わせた。

思わぬ出来事に梨星は顔を青くしながら見つめていた。

元恋人の男が現恋人の頬に手を添えているのだ。梨星は目の前の光景が信じられず、ただ見ていることしかできなかった。

一見空澄にされるがままになっているように見えるシェリハは動揺せず、静かに空澄を睨み付けた。

その目は冷たく、外国人ならではの青い目の温度が伝わってくるようだった。


「あんたの仕事ぶりは全部知ってるよ。もちろん作品もな。

俺がこの業界に入った時、あんたは既に有名だった。

うちの会社だけじゃない、この業界の奴らは皆あんたのこと知ってるんだ。

俺はまだ新米だけど他の連中じゃ程度が低すぎて相手にならない。

それで目を付けたのがあんたってわけだよ。

それからはあんたが関わった仕事をしらみ潰しに調べたよ。でもパターンが見えてこない。

まるで何十人もの人間が集まってアイデアを出し合ってるみたいだ。

だからあんたは独走できる。他の奴らには真似できないものを持ってるんだからな。

だから社長はあんたを欲しがってる気持ちがよく分かるよ。できることなら同じ会社で競い合いたかった」


シェリハは空澄が話し終えるのを待ってから、無言で空澄の手を払いのけた。

この男と同じ会社で働くなんて有り得ない話だ。

イーライナンのやり方が気に入らないシェリハには到底できないことだ。

利益を出せば何をしてもいい、なんてドーリーは言わないだろう。


「ベートマさんにも言ったけど、そうなることはない。永遠に。

俺にとってこの仕事は金を稼ぐツールじゃない」

「ふん、じゃあなんだって言うんだ? 金がなきゃ生きてなんていけないんだ。俺にとってはこの仕事は天職で金を稼ぐツールだ」


ファッションショーは喝采で幕を閉じようとしていた。

二人は梨星の存在を忘れて静かに睨み合っていた。

同じクリエイターでも仲間として交わることはないだろう、とお互いに感じていた。

こうして戦いの火蓋は気って落とされたのだった。


イーライナンの部下であり梨星の元彼がようやく登場しました。

彼女の部下なのでイヤ~な人ではありますが。

恋人VS元彼ではありますが、ドロドロ~な展開にはしないつもりです(笑)

果たして二人は無事に帰れるのか?

ということで次回の舞台はダブルフラワーホールになります。

ちなみにダブルフラワーホールをはじめ、私の作品に登場する建物・地名などは架空です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ