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ハートナイフ  作者: 蒼野 媽流
第一章 一逢一別
36/63

36 花に囲まれたレストラン

ライブ後のディナー編です。

花とは咲く美しいそれではなくエブミアンテ社員デザイナー・イラストレーター、UNISEやシアン(シンガー・プレイヤー・サポーター)のことです。

次回もディナー編となります。

店長のアティータから許可を得たところで、エアリと梨星は皿を持ってその場を去ってしまった。

皿に料理を盛り、互いの顔を見て満面の笑みを浮かべている。

他愛もないことではしゃぐ姿はまるで姉妹のようだ。

シェリハとルハルクはそんな二人を静かに見つめていた。


「あれだけ暴れたのにまだ元気があるんだな。

若いってだけで次元が違う生き物のような、そんな気がするな」


ルハルクは苺を浮かべたメロンソーダをストローで吸い上げながら言った。

三十路を過ぎた男性がジュースを飲んでいるこの光景は少し異様だ。

梨星やエアリが飲んでいるならそうは映らないのだろうが、メロンソーダはクールのイメージを貫くルハルクとは対照的な存在だ。

ようやく梨星とエアリが戻り、料理とともにテーブルに華を添えた。

海の幸を飾ったピザ。

野菜を磨り潰して揚げた色鮮やかなフライドポテト。

チキンライスをふわふわの卵で包んだオムライス。

洋食がメインだが、和食や中華など幅広くある。


「何がいいか分からないから、適当に選んできました。

和食や中華、あとは見たことない外国の郷土料理なのかな?

そんなのもありました」


梨星はそう言いながら全員に箸とおしぼりを手渡し、席に着くや否や食事を始めた。

よほど腹を空かしていたのだろうか。

食事の合間に飲んでいるのはオレンジジュースだ。

子供ではないといっても、こういった細かいところで幼い部分が出てしまうのだろうか。


「炒飯を餃子の皮で包んだやつも美味しかったぞ。

オムライスとはまた違った味わいがある」

「へぇ、面白いですね。

あとで見に行こうかな」


ルハルクとシェリハの会話が終わる頃、梨星はふうっ、と息を吐きだした。

満腹になったのだろうか、幸せそうな顔をしている。食事を終えた後、梨星は挙動不審だと思われても仕方ないほどにきょろきょろと辺りを見回している。


「どうしたんだ?さっきからそわそわして」

「え、シアンがいるのかなあって思って…」


梨星のミーハー丸出しの発言を聞いて、大人達は意地の悪そうな笑みを浮かべている。

現実的に考えて、ミーハーでなくても気になってしまうのは当然のことである。

学校の中ではデザイナーを志す生徒や現役の教師しかいないので、シアンのようなアーティストは梨星にとって特異な存在だ。

発想を形にするのにペンを用いるのは共通しているが、梨星が個人の世界を視覚化するのに対しシアンは世界を聴覚化する。

その点に於いて彼は梨星にとって劇薬のような存在なのだ。


「へぇ、アーティスト様に会いたかったわけだ?

でも会えないことはないわよ?

先輩と後輩の仲なんだし?」

「違うよ〜。ただ純粋に人柄と音楽が好きなだけ。

すっごくきれいだったなあ…」


エアリに茶化され、梨星はシアンの姿と音を脳裏に思い浮べながら、うっとりとした表情を浮かべた。

同性から見てもアーティストとして、一人の人間として彼は魅力的な人物だ。

独自のライフスタイルや仕事にこだわりを持ち、誰に対しても気さくで面倒見がよく、目下の人間からすれば兄のように身近に感じられるような存在だ。

シェリハから見てもシアンはそのように映っている。

シェリハ達が店内を独占していたその時、店内に幾多もの声が重なる音とともに団体客が来店してきた。

性別も年齢も様々な人々は七分丈のカットソーにジーパンといったラフな格好をしている。

その中にサングラスをかけ、背が高くすらりとした体型の青年が数人いた。

格好は他の人々と同じようにラフではあるが、漂う空気が少し違っていた。


「あれ…まさか…」


無意識にシェリハが呟くと、通り掛かった彼らがシェリハ達の方を見た。

サングラス越しに本人だと確定できる双眸が見えた。

メイクを落としたのか華やかさはないが、面影は残っている。

素肌は決して若くはなく、年相応の大人の肌だ。


「シェリハにエアリにルハルクさん。…それと妹さん?

誰のかは知らないけど」


サングラスを外して声を掛けたのは都森だ。

都森の言葉に梨星は首を振った。

先程ステージに上がっていた歌手が目の前にいることで、緊張しているのかもしれない。

同じ世界で生きている人間同士なのに、特に芸能界に身を置いている人間というものは一般人にとっては雲の上の人のような存在なのである。

だからきっと彼らが目の前にいることが非現実的に映ってしまうのだろう。


「都森さん、お知り合いなんですか?」


そう言いながらシェリハ達の顔を横目で見ているのは、七分丈のカットソーにジーパンの格好をした男性だ。

どういった関係なのかは分からないが、おそらく彼らをサポートしている者なのだろう。

七分丈のカットソーはみんな色が違うようだが、デザインは同じもののようだ。

人ひとりの影もない森に置き去りにされた、開いたままの鳥籠がプリントされている。

ひょっとしなくとも販促用Tシャツかもしれない。


「ああ、前の会社の上司と後輩だ。

今でも一緒に仕事をすることもある。

シェリハには今回もかなり世話になったんだ。

…また後で顔を出すことにするよ。

じゃ、行こうか」


都森はそう言いながらシェリハに意味ありげな視線を送る。

それはまるで男性から女性に投げ掛けるような、色気を感じるものだった。

そして都森はUNISEのメンバーとシアン、サポーターであると思われる男性を連れてその場を去っていった。

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