34 自由を問い掛ける手の平
ライブ編は今回で終了です。
彼らはサブキャラなので細かいことは描いていませんが、以前のステージからなぜ空白の時間があったのか、都森の声はなぜ震えていたのか、彼らとキャラクターの絡みがあった時に追々書いていきたいと思います。
次回はライブ後の晩餐編です。
小鳥の甲高い囀りと川のせせらぎが聞こえる。
そして控えめなドラムの音がリズムを作る。
前でなくても舞台が見えるよう設置されたモニターに、森と鍵の掛かった鳥籠が映る。
まるで意志を持ったかのように木々が蠢き鍵穴に侵入し、錠が地面に落ちた瞬間鈍い音を立てながら鳥籠の入口が開く。
囚われの鳥は空高く羽ばたいていく。
小鳥の囀りと川のせせらぎの音が同時に止み、ギターをはじめ様々な楽器がワンテンポずれてシンプルなメロディーを鮮やかなものにしていく。
その時舞台の照明が足元からゆっくりとメンバーを照らし、観客は彼らを確認すると総立ちになり会場は賑やかになった。
だがルハルクだけ座ったままだ。
「副社長、始まりましたよ」
「こんなところまでそんな呼び方をするなよ。
俺は座って見るから気にしなくていい」
立ち上がらないルハルクを見て、シェリハは不思議そうな顔をした。
彼は楽しみにしていた筈なのに、座って観覧とはどういうことなのだろう。
立ち上がり全身で踊るような激しいものを好まず、座って音楽を楽しむタイプなのだろうか。
ボーカルは左のサイドのみゆるいウェーブをかけたブラックのウルフカットの青年。
体格だけで言うなら青年というよりかは、青年にしてはやや小柄で全体的に華奢なので成長途上の少年という言葉が最も相応しいかもしれない。
ナチュラルメイクながらやや垂れがちの大きな目と天を向いた長い睫毛は女性のようである。
女性の寝起きを連想するような、ソプラノにハスキーを混ぜたような声はどこか色っぽい。
V字を描くようにフリルをあしらった黒のシャツ。
フリルにはフリンジが付いており、彼が動くたび違う顔を見せている。
サスペンダーを垂らしたベージュのチノパン。
皺がプリントされたブラウンのショート丈のウェスタンブーツ。
ベースは眉にかかるかかからないかという長さの前髪のみストレートで、ダークブラウンの短髪にゆるいウェーブをかけた青年。
切れ長のダークブラウンの目は意志の強さを象徴しているかのようだ。
瞼にのせられたマットな質感のブラックのアイシャドウが、さらに意志の強さを誇張している。
ゴールドの王冠が大きくプリントされた、黒のUネックカットソー。
引きちぎられたパールのネックレスがプリントされた、ダークインディゴのストレートデニムパンツ。
白と黒のボーダー柄のスニーカー。
バイオリンは黒の中折れ帽を被った、ピンク寄りの明るいブラウンのセミロングストレートヘアの青年。
グレーをベースにしたパープルのアイシャドウのグラデーションがとても艶っぽい。
大きくも小さくもない目だが瞼が凹んでいるため、アイシャドウがよく映えている。
ベージュのニットトッパーカーディガン。
胸元にフリルをあしらった、豹柄のシフォンブラウス。
サテン素材のブラックのガウチョパンツ。
肌が透けないデニールの、シンプルなグレーのタイツ。
エナメル素材の黒の編み上げブーツ。
ドラムはサイドのみコーンロウにし、それ以外は襟足をが胸の谷間に当たるくらいの長さの露草色のウルフカットの青年。
髪色に合わせているのか、ビビッドな暖色系のメイクが目を引く。
ブラックとカーマインのボーダー柄のVネックのニット。
シルバーホワイトのスキニージーンズ。
ブラックのワークブーツ。
そしてギターのシアンは金髪を振り乱しながら、ギターを弾いている。
グレーのアイシャドウで瞼を彩り、アクセントとして目尻にチェリーピンクのアイシャドウを乗せている。
クラッシュ加工を施した、パンジーのオフショルダードルマンニット。
ニットから透けて見える、レイヴンのタンクトップ。
左腕に広がる鮮やかな刺青。
羽を広げた孔雀と枝下桜が描かれている。
ブラックのコーデュロイサルエルパンツ。
メタリックカラーの配色が眩しい、マーブル柄のハイカットスニーカー。
メンバーそれぞれが個性的で異彩を放っている。
エアリと梨星はまるで子供のようにリズムに身を任せて踊り、燥いでいる。
ルハルクは相変わらず座っているが、笑みを浮かべていることから楽しんでいることが窺える。
「可愛がって育てた後輩がこうも成長してくれると嬉しいものだな。
あいつらがこんなになるなんて思わなかった。
シェリハ、お前もだ」
「え…?」
爆音の中音を掻き分けるように二人は話していた。
シェリハはなぜ自分の名前が出るのか不思議に思い、聞き返した。
「いつも下を向いておとなしくて、自己中なクライアントに当たった時、泣きそうになってた時もあっただろう。
そんな奴が長いこと勤めるなんてできるのか、とさえ思ったが…見てみろ。
今日の舞台はお前が作ったも同然だ。
お前が作った世界に酔い痴れてる、俺もエアリも梨星だってそうだ」
ルハルクの言葉はまるで魔法だ。
澄んだ水のように心に染みていく。
普段から厳しい人だと知っているから、こういう時の甘い褒めを信じてしまいそうになる。
彼の言葉がくれた余韻に浸っていると、突然楽器の音が止み、ドラムの音だけが僅かに聴こえる。
楽器の音というには小さなもので、まるで心臓の鼓動のようだ。
「終わるのは淋しいけど、次でラスト。
以前のステージから空白の時間があって、わけあって今日久しぶりのステージだったんだけど、…やっぱり歌と音を封じられることほど、辛いことなんてない。
解放されたからこそ、どれだけ幸せだったか痛感したんだ。
選択肢が多いからこそ、みんなにも自分にとって相応しい自由を選んでほしい。
その手の中にみんなが求めてるものがありますように…。
…長くなったけど冷めた顔するのは、まだ早いぞ!」
玉のような汗を浮かばせながら、ボーカルの都森は所狭い舞台を駆け回る。
メンバーの音に合わせ、水面に浮かぶ舟のように静かに声を乗せていく。
その声は僅かに震え、滴り落ちる汗が涙のようにも見えた。