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ハートナイフ  作者: 蒼野 媽流
第一章 一逢一別
30/63

30 奇創者の楽宴

宴会編です。

バレンタイン間近のまたもや季節はずれになってしまいましたが、宴会風景など華やかに書いていきたいです。

レストランにたどり着くと既にエブミアンテの社員が集まっていた。

一瞥しただけでエブミアンテの社員とわかるのは服装が個性的だからだ。

どこで売っているのかと問い掛けたくなるほど、奇抜な色や形の服ばかり身に付けている。

男性陣はカジュアルで色を控えめにしたモノトーンのコーディネイトが多い。

女性陣はというとその逆をいっていて、華やかすぎるほどだ。

レストランの外観はダークブラウンの外壁に白抜きで店名が入ってあるという、至ってシンプルなもの。

中へ入るとまるで一家庭の食卓をイメージしたかのような、温かく広々とした空間が視界に飛び込んできた。

千鳥柄のテーブルクロスを敷いた、広々とした黒のダイニングテーブル。

ダイニングテーブルに合わせたチェア。

壁紙には雪原を(そり)で滑るトナカイとサンタクロースが描かれている。

プレゼントの箱や袋、クリスマスツリー、ジンジャーマンなどがあちこちに描かれていて、見ていて楽しい気分にさせられる。


「いらっしゃいませ!

エブミアンテ様ですね?

用意が整っていますので、こちらにどうぞ」


白いエプロンを着たウェイトレスがこちらに近寄り、にっこりと笑いながら挨拶をする。

エプロンはシンプルな形だが、パステルブルーの水玉柄がエプロンをポップに仕上げている。

ウェイトレスに促され、団体用の広いテーブルに案内された。

テーブルいっぱいに置かれた皿には色とりどりの料理がきれいに敷き詰められている。

奥から順番に席に座っていくが、ひとつだけ椅子があまっている。

不思議に思ったドーリーは社員の顔を見ながらはっとする。

彼がまだ来ていない。


「シアンがまだ来てないわね」

「シアンはリハーサルがあるから遅れるんだろう。

そのうち来るんじゃないか」


真っ白のシャツに星柄のネクタイを結んだルハルクは、いつも通り涼しい顔をして静かに席に着いた。

立っていても仕方ないので、シルバーのスパンコールをふんだんに使用したVネックのワンピースを身に纏ったドーリーも彼に続いて席に着いた。

ドーリーは新入社員歓迎会を始めるために、ウェイトレスに目配せをして人数分のグラスを用意させた。

子供もいるのでジュースなどのソフトドリンクや、ワインが置かれている。


「ねえねえ、シアンって誰?」


隣に座っている梨星がシェリハに小声で聞いてきた。

彼女はまだ彼に会ったことがないから、知らなくて当然だ。

エブミアンテ社の社員にしては珍しく、デザイナーの類のクリエイターではない。

エブミアンテ社に入社する前は一バンドのギタリストとして活躍していた。

だがバンド内のメンバーとの度重なる諍いが原因で、一時音楽業界を離れていた。

あれほどまで大好きだったギターすら弾くのが嫌になり、無気力状態だったシアンは偶然ドーリーに出会い、あることを条件にエブミアンテ社に入社した。

あることとは期限付きで寝床と食事を提供する代わりに給料は払わないこと。

音楽の技術を磨く為だけに努めること。

ドーリーがいう音楽の技術を磨くということは、ギター以外の楽器を弾けるようになることだった。

並大抵の苦労ではなかったが、ドーリーと顔見知りの作曲家兼バイオリニストのスパルタともいえる厳しい指導により、立派なプレーヤーに成長した。


「今はエブミアンテの社員じゃないけど、音楽のクリエイターだな」

「じゃあ楽器弾く人?作曲する人?」

「両方やってるよ。作詞作曲したり、サポートメンバーとしてライブで弾いたり、最近は販促の企画にも参加してるって社長が言ってたな」


興味深そうに相槌を打ちつつ、早く食事をしたいのか飲み物や食べ物を見つめている。

彼の噂話をしている時、当人が現れた。

襟足が肩に掛かる長さのウルフカットにした金髪。

優しそうな雰囲気を醸し出しているやや下がり気味のダークブラウンの目。

それとは対照的に吊り上がった同色の整えられた太めの眉。

ゼブラ柄のブルーのネルシャツ。

スタッズが付いた赤のネクタイ。

手錠をはめている人魚のプリントが小さく入った、黒のサルエルパンツ。

メタリックカラーのグラデーションが眩しいスニーカー。

レッド・ブルー・イエローが使われていて、爪先には同系色のラメがきらきらと光っている。

真っ白に近い素肌に男性とは思いがたい細い腰は中性的だが、ネルシャツから覗く喉仏や鎖骨は男性的だ。


「すいません、遅れました」


彼はそう言いながら、全員に向かって深々と頭を下げる。

しかしその割に急いだ形跡は見当たらない。

息を切らしている訳でもなく、汗が浮かんでいるわけでもない。

きっとマイペースに歩いてきたのだろう。


「謝る割には時間に間に合うよう努力したようには見えないな、シアン。

…だが今日は仕事じゃないから大目に見ておくか」


いつもの調子でルハルクが呟いた。

遅れたといっても数分程度の微々たる事なのだが、仕事に完璧を求めるルハルクの前ではどんな言い訳も通じない。

さすがに真面目な彼も今日ばかりは大目に見てくれるようだ。

ルハルクの許しを得たところで、シアンは空いている席に静かに座る。

するとドーリーが立ち上がり、グラスを手にする。


「さて、今年はまだ終わっていないけどご苦労様。

みんなのおかげで素敵な年を迎えられそうだわ。

来年からは可愛い新入社員が入社することになったの。

右も左もわからない新米だから、フォローしてあげてちょうだいね。

さて堅苦しい話はここまでにして、今日は気が済むまで食べて飲んで迷惑かけない程度に騒ぎましょう!」


ドーリーの挨拶が終わると拍手が巻き起こった。

ドーリーがグラスを天高く上げると、社員たちも彼女を真似てグラスを高く上げる。


「乾杯!」


社員たちの声が重なり、皆グラスに口を付ける。

こうしてクリエイター集団による宴の幕が開いた。

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