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ハートナイフ  作者: 蒼野 媽流
第一章 一逢一別
24/63

24 幼い心で踊る大人達

梨星の入社が決まり、心踊る社員達。

次話は阿柴とシェリハのコラボレーションの集結となります。

そんなわけでデザインや企画の話が少しでてくるかもしれません。

シェリハの伝言を聞いたドーリーは、梨星を少しでも早く出迎える為に準備を始めた。

社長自ら梨星に連絡を取り、相手の都合に合わせて日程や時間を素早く決める。

その姿に抑え切れない逸りの心が垣間見えた。

エブミアンテ社が社員を受け入れること自体、数年振りのことだ。

ヘッドハンティングやスカウトを試みたが、長続きしなかったりいい人材が見つからなかったのだ。

エブミアンテ社にとっては久し振りの収穫となる。

今回を逃せば当分新人に期待はできないだろうと、ドーリーは感じている。

期待はできなくても一向に構わない。

やる気と忍耐力さえあれば、きっと長く続けられるはずだ。

長期に渡る勉強はきっとクリエイターとしての彼女の幅を広げてくれるだろう。

人より少し遅いスピードでもいい。

何も知らずに飛び込んでくるのだから、それは承知の上だ。

一人で仕事ができるようプロの技術を学び、個性的で特徴のあるクリエイターになって欲しい。

それがドーリーの望みだ。

成長を望む対象は梨星だけではない。

梨星の入社によって、仕事に慣れてしまった社員達は個々の発想に新たなスパイスを加えられる事だろう。

そして影響が及ぶのは社員だけではなく、エブミアンテも関わってくる。お互いが刺激し合い、高められる良い関係になるはずだ。

社内のカレンダーには、赤ペンで書かれた丸で囲まれた数字がある。

約束の日は翌週の水曜日だ。

子供が遊ぶ日を決め、楽しみでなかなか眠れないように、皆待ち切れないという思いを抱いていた。

シェリハも例外ではなく、起床と就寝の前に日にちを指を折って数える。

揃いも揃って寝不足の顔で、梨星を歓迎することになってしまった。



そして当日がやってきた。

一人の少女が社内を見学に来るだけだというのに、何か特別な用事があるかの如く華やかな装いだ。

社長であるドーリーをはじめ、社員達はスーツやドレスに身を包んでいる。

特に気合いが入っていると感じられたのが女性陣だった。

上に押し上げられた長く濃い睫毛。

アイシャドーに彩られ、存在感ある目元。

純粋な乙女を思わせる、チークで上気させた頬。

コーティングされた整えられた爪。

まるで合コンを控えているかのようだ。

「…どこかでパーティーでもあるみたいだな。

梨星が見学に来るってだけでこんな騒ぎになるなら、首相が来訪したら大変だな」

シェリハは呆れたように溜め息をつきながら、冷たく言い放った。

彼の服装はいつもと変わらない。

入社してから着ているスーツは、一度も買い替えていない。

サイズに変化がないということは、スタイルを維持しているという努力が見受けられる。

体型維持も仕事のうちだ。

「へぇ…シェリハも言うじゃない。

箪笥の肥やしになるよりはいいと思うけど?」

シェリハの背後で靴音を響かせながら、エアリが姿を見せた。

瞼に広げるパープルのアイシャドウが妖しい印象を添える。

マスカラで伸びた睫毛は瞳をより大きく見せている。

赤みを消した肌色に近い、艶のある唇。

青の背景をバックに古い寺院を描いた着物。

外国人らしい彫りの深い顔立ちに和服はアンバランスだが、着続けていることで似合うように見えてくるのが不思議だ。

「本当に和服が好きなんだな」

「いいわよ〜、和服は情緒があるでしょ?

それにデザインも色々あるし」

熱く語り出すエアリの横にドーリーが割って入ってくる。

ドット柄の白いニットベレー帽。

ショッキングピンクのパフスリーブワンピース。丈は膝下だがスリットが入っており、黒のガーターがちらちら見えている。

何とも彼女らしい。

「あなたは本当に地味ねぇ。

たまには気分転換に普段と違った服を着ればいいのに」

「モノトーンが好きなんですよ。

色々と合わせやすいですしね」

シェリハの答にどこか不満そうなドーリー。

木陰に隠れるように地味な色を好むシェリハは、この業界に向いていないんじゃないかとふと思う。

ファッションに強いこだわりを持つ方ではないから、仕方のない事かもしれない。

世間話を楽しみながら時を過ごしていると、ドーリーのポケットから携帯のバイブレーションの音が漏れた。

おもむろに携帯を取り出し、ディスプレイを見ながら彼女の口許が綻ぶ。

大方相手は梨星なのだろう。

「じゃあ私は失礼させてもらうわね。

あ、今日阿柴ちゃんが来るらしいから。

急いでるみたいだから、今日中に終わらせなさい。

忘れないようにね」

手をヒラヒラと振りながら、ドーリーは部屋を出ていった。

社員のことは何でもお見通しなのだから、怖いものだ。

ドーリーの予告通りに来訪するという、阿柴からのメールが届いた。

場所は社内では都合が悪いとのことで、ホテルの一室で会うこととなった。

時間は午後からということもあり、シェリハは早速準備を始めた。


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