第一話「この世界にさよならを」
人生はクソゲー
多くのゲーマーがそう呟く。
俺だってそう思う
初期ステータスによる振れ幅が大きすぎるのだ。
そしてその差は人生という短い時間の間じゃ埋まることはない。
俺はそれを知っている。
人生は神ゲー
一部のゲーマーはそう呟く。
モニターには映し出せないような解像度を常に肉眼に出力し、超高音質。
おまけに無限に広がるオープンワールドときた。
多くのゲーマーが求めているものがここにはある、と豪語する。
だが、俺は人生はクソゲーだと知っている。
奥野 忠邦 16歳
県内ではそれほど頭の良くない私立高校に通う高校2年生
得意科目 特になし 苦手科目 5教科
家族構成は祖母と二人で暮らしている。実の両親は俺を捨てて出ていった。
祖母というのは年齢的なもので関係上は養子の母という位置に当たる。要するに俺の身元保証人である。
幼いころにおける両親の存在の有無というものは、なかなかに大きいもので、両親がいないという理由で俺は中学3年間を泥のように過ごさなくてはいけなかった。要は、イジメだ。
そんな俺が友人と呼べる存在もいるわけもなく、程なくして俺は不登校になった。
ここでふと疑問に思ったヤツはいないだろうか?
なんで不登校児が高校に通っているんだ? 永遠に引きこもっていればいいんじゃないかと。
そうだな、まずはそこから話さなきゃいけないよな。
その時、俺は死のうとしていた。
赤やけた空が笑いながら俺を侮蔑する。
吹き付ける風は少し冷たく背筋を震わせた。
ただ、今から死のうというのにそんな情景のことを気にすることなんて無駄だと思えているのに、その風景は俺の目にしっかりと焼き付いていた。
思えば、俺はこの時点で死にたくなかったのかもしれない。
当時中学3年生だった俺は死ぬと連想してすぐに思いついたのが鋭利なもので自ら命を絶つという方法だ。
他にも選択肢はあったのだとおもうが、他人に迷惑が掛かりすぎる。
死ぬということですでに迷惑をかけるのだからこれ以上はもう迷惑を掛けたくないという自らの臆病は俺の意思を固くさせた。
家の台所にあった包丁を拝借し、俺は人気のない橋の下に向かった。
その時の風を、悲しいと感じた。
その場所に着くころには辺りはうっすらと暗くなり、街灯路のようなものがないそこでは辺りは闇であった。
多くの死にたがりは発見されて欲しい、構ってほしいという欲求によって人目に付くところで死にたがる。ただ、俺は違う。ひっそりと、俺が死んでもすぐにみんなの記憶から溶けて消えていくような、そんな死に方がしたいと思った。
背負ってきたリュックの中から包丁を取り出す。
刃先を自らの心臓に向ける。
とてつもない恐怖がそれを抑止しようとする。
刃先が衣服を押し、肌に少し痛みが走る。
このまま力を入れて押し込めば俺は死ぬだろう。
この世界とはさようならだ。
続く