Ⅲ 生誕祭と父
1歳の誕生日を迎えた。つまりこの世界に転生してきて1年が経ったということだ。
この1年で読み書きは怪しいが、聞き取りだけならかなりできてきたと自負している。
もっとも既にこの状況に慣れようとしている自分がいるので時間の経過とは怖いものだ。
…にしても外が騒がしいな、何かあったのか?
まだ不安定ながらも歩けるようになった足を使って外に出ようと試みる。
ドアの前にはメイドさんが立っていて近づくと開けてくれる。良いご身分なこった。
廊下に出るとメイドさんたちがひっきりなしに動き回っていた。
訳を知るべくもう少し進むと廊下の角で母と出会った。
「あらカイル、おはよう。ちょうどよかったわ!今あなたのことを迎えに行こうとしていたところなの!」
母は両手を合わしてにっこり微笑むと有無を言わさぬスピードで体を抱きかかえてきた。
柔らかくそんでもって良い香りがするので文句などないのだが、中身は30近いおじさんなわけで…なんとも複雑な気持ちである。などとしょうもない葛藤を続けているうちにとある部屋に連れ込まれた。
衣装室?
そこはテレビ局の衣装室のようにずらーーーーーーと奥まで大量の衣服が並べられていた。しかも全部高そう。
初めてくる部屋を好奇心いっぱいに見回していると数人のメイド達がロープのようなものを持って近づいてくるのがわかった。
いやいやまだそういうのは年齢的に早いんじゃないかなぁ!?いや嫌いってわけじゃないわけだけども…ってやばい!お母様!?た、たすけてえええええ!!!
足をつかまれ、腰をつかまれ、頭をつかまれた俺に助けを求めるすべは無かった___________
はい。ただの採寸でした。体に触れてくるたびに鼻息を荒くするメイドさん達は恐ろしかったけど、とても健全な時間でした(棒)。
とはいえ生前スーツを仕立ててもらった時よりもしっかりと採寸していたので少し戸惑った。
いったいなにに使うんだろうか?と疑問に思っていると
「もうすぐカイルの生誕パーティがあるので手抜きの無いようしっかりお願いしますね。」
納得。パーティのドレスコードなわけか。となると、外の騒がしさは準備ってとこかな。しかしさすがは金持ち、誕生会にドレスコードとか規模が違えっすわ。少なくとも生前には自分の誕生会に正装で行ったことなど一度もなかった。
数日たってカイル生誕1周年おめでとうパーティ(仮)が催された。
そこで衝撃の真実を知った。
なんと俺はこの国の王子だったのだ。4番目だけど。
道理で金持ちなわけだよ!最近驚きすぎて疲れてきたわ。
今は父、即ちこの国の王が前の舞台で話を行っている。
そう、父は王だったのだ。
家にまったく帰ってこないので外で遊び惚けているダメ親父かと思ってた。
因みにパーティ会場である自宅、ここは王のいる城ではなく母親の実家だった。
いったいお城はどれだけでかいというのだろうか…、まあ王族であるならこの先、城そしてその城の建つ王都にも行く機会もあるだろう。
そんなことを考えていたため目の前の小太りなおじさんの話を全く聞いてなかった。
まぁ隣にいる母が話していてくれているだろう。
このパーティは王族主催なためか、王族と関係を強めようとする貴族連中がわんさかやってきている。
俺はパーティ始まって以降人が押し寄せてきてこの場所を動けていない。
大体は縁談の申し込みなのだが…1歳児は早すぎるだろ!
減らぬ人だかりにいい加減うんざりしていると、後ろから太い腕に抱えあげられた。
「よおカイル!しばらく見ない間に大きくなったなぁ!」
そう言って抱えてきたのは父だった。
父が現れると周りにいた人は一斉に腰を低くした。恐るべし王様パワー。
「ちょっと家族水入らずで話そうぜ!」
正直父と話すのは面倒だが、人込みを散らしてくれたことに免じて付き合うことにする。
「改めて、お誕生日おめでとう。カイル。」
ありがとうございます、と適当に返しておく。
「アウラ、お母さんから聞いたんだが…」
母さんの名前アウラっていうのか。
父の話に一つまみの興味もないので目線を落として床の模様で遊び始めた。
「カイル、魔法に興味があるのか?」
お父様の話興味しかないっすわ。
「ある…みたいだな、ははは」
そっけない態度をとっていた息子が勢いよく反応したことで、若干驚いていた。
しかし魔法か…、おそらくはこの間魔法の演習に食いついて見ていたことを伝えたのだろう。
「そうよ、カイルはいっぱいお勉強して魔法を使えるようになるんですからねー」
「うん!」
母さんが後ろから手をまわし覗き込むように話しかけてきたので返事をした。
「そうかそうか!カイルは勉強が好きか!ならば私も応援してやらないとな!」
そう言って父さんは懐から鍵のようなものを取り出し渡してきた。
「これはカイルのことを応援している父さんからの誕生日プレゼントだ。」
しっかりと学ぶんだぞ、といって頭をなでてきた。
いったい何の鍵かわからないので困った顔で母のほうを見つめると
「じゃあこれから開けに行きましょうか!」
と言ってくれたので、頷いた。
鍵は家のとある一角にある部屋のものだった。もちろん入ったことはない。
自分ではまだ手が届かないので母に開けてもらった。
_______そこはまるで図書館のようにたくさんの本が並べられていた。
「驚いたか?これは全部魔法に関する書だ。基礎入門、魔導書、重要指定のものまであるぞ!」
「この人ったら王立図書館の禁書エリアから持ってくるんですもの…」
笑ってごまかそうとする父に対して母がどうしようもないようにつぶやいている。
「まあカイルはまだ字が読めんから使えるようになるには時間がかかるかもしれんが、応援してるぞ!」
めったに会えない父だがたくさんの愛情と期待をもらっていることは分かった。
そんな父に態度を改めて礼を言おうと
「あ、あにがと…」
噛んだあああ!!!だからこの体は嫌なんだ!まだうまく発音ができない…。
恥ずかしさから下を向いていると
「「か、かわいい…!!」」
口に手をあて泣きそうなくらいうれしがっているバカ両親がいた。
だから嫌なんだあああ!!!
恥ずかしさが限界を超え、顔を抑えてその場から走り出した!
「ま、まってくれ!もう一度、もう一度だけ!」
背後から必死の父の声が聞こえた。
父と打ち解けられるまでにはもう少し時間がかかりそうだ…。