見えない恐怖
日常生活を普通に暮らしている奴らには分からないだろう。
私のこの恐怖の意味を。
その恐怖は或る日突然だった。
今目の前にいるのは知らない男性。
私は追いかけられていたのだ。いわゆるストーカー。
電車も待ち伏せされ、帰りはピタリとついてくる。自宅まで来ることも…。正直怖い。だからね、警察にも相談に行ったんだよ?でもね、事件性がないからって追い払われた。
だからね、はっきり言ってやったの。
「迷惑だ!」って。
そしたらピタリと止んだ。
ホッとしたのは確か。
でもね。
その日からおかしな事が起きるようになったの。
誰かにじっと見られてるんだけど、それが誰だか分からない。例のストーカーかと思いきや姿も見ないのだ。
完全に1人で空回りしてるって思ったけど、悪寒が取れない。
誰?
誰が見てるの?
ゾクゾクする恐怖は私を今にも飲み込もうとしている。そんな時たまたま書店に立ち寄った時のことを思い出していた。書店で目にしたのはホラー漫画。
死んでも思いは消えないと言う恐ろしい話だった。まさか…ね。
見られるように感じたのは例のストーカーが現れなくなってから。
どこの誰かは分からないが、現れる場所はだいたい同じだった。
だからその近辺の人間だと思う。
でもそれ以上は調べようもなかった。
刑事じゃないんだから。
ビクビクしながら歩く姿ははたから見たらおかしいと思う。でもね、怖いんだよ。相手が誰かわからないから。
だからね、いつでもすぐに電話ができるように携帯を両手に持って歩いてるんだ。
だってほら、すぐに電話できるじゃない。
音声からでも繋がるように携帯をいじってある。だから、「警察。」っていうだけでも繋がるんだよ。
すごいでしょ?
だけどね、本当に恐ろしい時には声が出ないかもしれない。そう思ったから100円ショップで笛を買った。
それは首からぶら下げてある。
いつでも吹けるように。
そしていつもの帰り道、時間は夕方の6時を回った頃、今の時期はまだ暗くなるので灯りがいる。そんな時間に1人、自宅へと歩いていた時のことだ、人の波から離れ、1人道を歩いていると突然靴音が重なって聞こえた。
初めは気づかなかった。一体いつから?
分からない。
恐怖で心臓を鷲掴みされてる感じがあった。
「どうしよう…。笛吹くかなぁ〜。でも近所迷惑じゃないかなぁ〜。」などと1人であらから考えていたのだが、怖さの方が勝ち、笛を吹いた。
しかし足音は変わらなかった。まるで気にもしていないような感じだった。私は泣きたくなった。でも、泣いたら負けと思い、ぐっと我慢した。
笛の音を聞いて誰か出てきてくれたらよかったんだけど、この時間いないのか誰も出てこない。泣きたくなった。
そう言えばあのストーカーもここら辺をついてきたことあったなぁとふと思い出した。まさか…また?
勇気を振り絞って元来た道を歩き始めたが、足音は後ろから聞こえてくる。おかしい。さっきまで私の後ろから聞こえていたのに今も後ろから?
もしかしてストーカーが増えたとか?
振り返った時目にしたのは足だけだった。そう、足から上が消えててないのだ。
思いっきり笛を吹くと、自宅に向かって走り出した。何処をどう走ったかなんて覚えていない。無我夢中だったから。
自宅に来たはいいが鍵が見つからない。
鞄の中をゴソゴソとあさりながらも周りを見ている。指先の感触で見つけたことを確認し、鍵穴に刺した。
そしてドアを開けるとすぐに締める。
この時まで私は息の仕方を忘れていたのかホッとして「はぁ〜〜。」と息をした。
そして振り返ったら目の前に例のストーカーが立っていた。
半透明な姿で。
ビックリしたのと恐怖で私はその場で意識をなくした。
気が付いたのは朝になってから。
私は部屋の真ん中で倒れていた。
霊のストーカーは何処にもいない。
怖かったぁ〜。
このうちにはもういられないとその足で借りられる物件がないかを店に見に行った。
見つかるまで我慢しかない。
でも出来そうもないから今時の漫画喫茶に入り浸り、夜を明かすようになった。
それから数日後、ようやく目にとまる物件が見つかった。
通勤にも便利な場所だ。少し値段は高いがしょうがない。我慢して節約しよう。
ビデオカメラを用意して物件を見に行く。
部屋中を写して周り最後に玄関を写して部屋を後にした。
その後、ビデオカメラを見直してみると…知らない顔が写っていた。
突然顔を出したのだ。
それが新しく入ろうとしていた物件だったのだ。その気は失せた。
恐怖で顔も引きつった。
どうしてこうも怖い目に合うのだろう…。
それからは物件を見るときには欠かさずビデオカメラを持ち歩くようにしている。
映らない部屋を探して。
で、今の部屋に移ってきたのは丁度ひと月前。
今の所問題はない。
あの恐怖は考えないようにしている。
また見たくないから。。。