アルハ・クローバーと純白の約束
なぁ、みんな元気にしてるか?
って死んでるのに元気もクソもないよな。
俺はみんなのおかげで元気にやってるよ。
あれから目を覚ましたらびっくりすることに数百年後の世界にいたんだよ。
信じられるか、数百年だぜ?
初めはわからないことだらけで戸惑ったけどなんとかやってる。
俺達のいた頃とは何もかもが違っていて、毎日驚くことばっかりだ。
まず、この時代に来て一番感動したのは飯が美味いってことだな。
一年中食べ物には困らないし、知らないご馳走が山ほどあるんだ。
街に出れば色んな国の料理がどこでも食べられるし、海の幸も山の幸もいつでもとれたてみたいに新鮮だ。
食い物だけじゃなくて酒の種類も何百何千とあるって酒場の連中から聞いたことがある。
サーシャとガンリューが聞いたら喜んで酒場に入り浸るだろうな。
あと、この時代に来て一番驚いたのは魔法の進歩だ。
夜の街は毎日が満月の夜みたいに明るいし、遠くの街にもすぐ行けるし、魔法は人を傷つける力じゃなくて人々の快適な暮らしを支えるものになってるんだ。
魔法の勉強が嫌いだった俺でもどんな魔法があるのかわくわくするくらいさ。
アドミンが魔法は必ず世界を豊かにするって言ってたけど、本当にその通りになってるよ。
そしてこの時代に来て一番嬉しかったのは……みんなのことが今でも語り継がれてるってことかな。
レイムロットっていう一人の騎士の伝説になってるんだけど、みんなが世界のために闘ったことが、形を変えながらもずーっと受け継がれてる。
これってすごいことだよな。
みんなと護った世界でレイムロットの話を聞く度に、俺は嬉しいようなくすぐったいような変な気分になる。
それが結構心地良いんだ。
……そういやこの時代に伝わるレイムロットの物語では、「レイムロットは女神に永遠の平和を願ってこの世を去った」ってことになってるらしい。
レイムロットの話を聞くのは好きだけど、正直に言うとこの部分だけはちょっと苦手だ
……最後の闘いの後、あの世とこの世の間の世界でみんなとアリシアに会ったとき、俺は気が付いたら「生きたい」って言ってた。
あの時は自分でもなんでそんなこと言ったのかわからなくて戸惑ったよ。
他にいくらでも願い事なんかあるはずなのに、なんでそんなこと言ってんだろうって。
今にして思えば……やっぱり俺はガキだったんだろうな。
本当は死ぬのが怖かったんだろうし、もっと生きていたいって心のどこかで思っちまって……他のお願い事を考える前にそんな言葉が口から漏れちまったんだと思う。
でも、そんな俺の弱音みたいな本音を誰も笑ったりしなかったよな。
それが嬉しかったし、救われた気がした。
あのときみんなが「それでいい」って言ってくれたから、俺は俺と向き合うことができた。俺はこれでいいんだって、そんなふうに思えるようになったんだ。
なんか照れくさいけど……ありがとうな。
……勿論、みんなに負けないようなすげー奴になるんだって約束、ちゃんと覚えてるよ。
俺は改めてこの時代で、みんなみたいな英雄を目指して生きていこうと思う。
まさに第二の人生ってやつだよな!
広い世界をみんなと旅していた頃みたいに、今は新鮮な気持ちで胸がいっぱいだ。
どんな楽しいことが待ってるのか考えただけでわくわくして仕方ないよ。
なんで生き返ったのが数百年後の世界だったのかわからないけど、きっと俺が今ここにいることには意味があると思うんだ。
この時代も楽しいことがいっぱいありそうだ。
化け物じみた力の猛獣みたいな奴とか、そいつが手も足も出せない普通の女の子とか、本当に魔女なんじゃないかと思える狂った女とか、普通の人間のフリしてる普通じゃない王子様とか……。
みんなに負けないくらい個性的な奴らに会ったよ。
当分退屈しそうにはないな。
そうそう聞いてくれよ、面白い奴を見つけたんだ。
眼をキラキラ輝かせてさ、俺達みたいになるのが夢だって言うんだぜ。
そいつを見てるとなんだか昔の俺を見てるみたいで可笑しくってな。
みんなも俺を見てるときこんな気持ちだったのかな?
ハハッ、こんなこと言ったらジークあたりに「大人ぶってんじゃねーよ」って笑われちまいそうだな。
ボルカなら優しく笑ってそいつの話を聞いてくれるかな?
この時代に来て、色んな奴らに会って、ふとメルアートが言ってたことを思い出したよ。
「人生を道とするなら、運命によってそれが重なり合う交差路がある」って話。たしかメルアートは『クロシス』って呼んでたっけ。
多分、俺にとってこの時代この場所が、その運命交差路ってやつなんだと思う。
だから一人でも頑張ってみるよ。
……いや、一人じゃないよな。
俺にはみんながついてる。
それにまだまだ駆け出しで危なっかしい可愛い相棒もな。
大丈夫、きっとうまくやれるよ。
なにしろ俺”達”は伝説の英雄レイムロットなんだからな!




