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笑う髪長姫
――来てくれた。やっと来てくれた。
髪長姫はうっとりとした表情で、廊下を歩いていた。
月の光が煌々と中庭を照らしている。
歩みを止めたのは、中庭が一番よく見える客間の前。孝久が眠っている部屋の前。
この障子の先に、愛しいあの人がいる。
きっと自分を助けてくれるだろう。
あの時と同じように、自分の手を引いて島から連れ出してくれるだろう。
自分を助けてくれるのは愛しいあの人だけだ。
あの人だけが自分を助けてくれる。
今度こそ、二人でこの島から出られる。
もう失敗などしない。誰にも邪魔させない。
あとは思い出してくれるのをゆっくり待つだけだ。
――宗正様……
愛しい人の名を髪長姫は障子越しの部屋に囁いた。