終焉
暗い水面に船の影が遠のいていく。
小春も孝久も、淳一も久人も島から逃れた。
俺はようやく選択することができた。
久人は儀式を壊してくれた。
次は俺が、すべてを壊して幕を引かなければならい。
すべて俺が招いたことならば、
俺の手ですべてを粉砕して、二度と繰り返されないように。
島の連中は殺気立って屋敷へと向かう。
ああ、屋敷が危ない。
耀賢が危ない。
あいつは、当主として当然のふるまいをしていただけだ。
すべての責は俺にある。
俺がすべてを背負わなくては。
國守の当主としてすべてを終わらせなくては。
「これは、一体……秀元! 私は、私はどうしたら! 屋敷が燃えて、囲まれて!」
儀式の地下から這い上がってきた耀賢はひどく狼狽していた。
無理もない。
島中の憎悪を向けられている。恐ろしいだろう。
だが、その憎悪を引き受けるべき國守の当主は俺だ。
耀賢は俺の罪を引き継いでしまったに過ぎない。
裁きを受けるのは俺だ。
「こっちだ」
過去に俺が和馬に伝えずにいた当主の書庫へと連れて行った。
「こんなところ、なぜお前が知っているのだ」
「この書庫は禍の際に起きた地震いによって入り江とつながる形になっている。
そこに船があるはずだ。お前はそこから逃げろ」
「お前は、一体……。いや、それよりもお前はどうするつもりだ」
なおも耀賢はうろたえ、あの日の直政と同じように縋りつく。
その腕を振り払った。
「俺は、禍を引き起こした國守の当主だ。この悲劇のつけはすべて俺の命で払う。
だから、お前は逃げろ。今回のことはすべての非は俺にある。
お前は生きて、新たな人生を生きなおせ」
「死ぬ気か……?」
「それが俺に似合いの最期だ。この島を道連れに地獄へ落ちてやる」
それが俺にしかできない幕引きだ。
悲劇を終わらせるにはそれ以上の悲劇を持って壊す。
俺は地獄へこの島を道連れにする。
島を滅ぼす。
悲劇を終わらせるにふさわしい悲劇だ。
「すまない」
「詫びなければならないのは俺だ。すべては俺の弱さが招いたことだ。
さあ、もう時間がない。火の手が迫っている。
島の連中が屋敷に気を取られているうちに逃げろ」
「わかった」
これで、すべてを終わらせることができる。
ああ、忘れるところだった。
「最後の頼みだ。
俺の部屋に小型の金庫のような箱がある。
何日かかっても構わない。必ずそれを回収して葛西の家にとどけてくれ」
「ああ」
あの手紙は、小春の手に渡らなくてはな。
「後は任せた」
書庫への入り口を閉ざした。
―――――
炎は屋敷を包み込み、直前まで迫っている。
さながら地獄の業火といったところか。
何もかも、これで終わる。
この日をもって悲劇は終幕となる。俺の手によって。
懐剣を手に取る。
介錯は必要ない。
この島と一緒に、最後までもがき、苦しみながら地獄へと落ちてやる。
腹を断ち切る。
痛みが全身を駆け巡り、吐き気がこみ上げる。
それでも手を止めてはならない。
最期の瞬間を迎えるまで意識を保ち続けなければ。
地獄へは見送りも出迎えも必要ない。
炎の中で、俺はすべてを終わらせる。
炎に包まれ、誰にも俺の声は聞こえないだろう。
最期に、
伝わらなくても構わない。
言っておきたいことがある。
ずっと、ずっと、俺の中には小春がいた。
燕ではない。
小春の存在が俺の中に確かにあって、
小春と過ごす日々が俺にとってかけがえのない宝だった。
小春とともに過ごせたことは俺の身に余る幸福だった。
小春、
「お前を愛している」
もう悲劇はない。
すべては終わるのだ。
俺の手によって。
(了)




