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髪長姫の転寝  作者: 四谷 秋
 第一の死
38/42

最期

 手紙を書いた。


 宗正の死を伝えねばなるまい。

 すべては俺のせいなのだから。

 これでいい。

 もう、これでしか道はない。俺にできることはこれしかない。



「直政です」

「入れ」


 直政が来た。


 思えば、こいつは馬鹿のように俺に尽くしてきた。

 俺を恩人と慕い、俺のために今まで働いてくれた。


 こいつにはどう責任を取ってやればいいだろう。

 俺がいなくなれば、こいつはどうなるのだろうか。



「頼みたいことがある」

「何なりとお申し付けください」


 馬鹿丁寧に直政は頭を下げる。

 くしゃくしゃなつむじが見えた。


「この手紙を本土の『霊が見える葛西かさい』へ届けてくれ」

「承りました」

「それから、手紙を届けた後はもうお前の奉仕は終わりだ。本土で自由にやれ」

「えっ?」


 呆気にとられた顔で俺を見つめてくる。

 

「もう、お前は十分に俺に尽くしてくれた。

 俺がいなくなれば、もうこの島にいる必要はなくなる。

 身寄りのないお前はどこへでも行けるだろう。

 自由にお前の人生を生きろ」


 お前は当主として頼りない俺にずっと尽くしてくれた。


「なぜ、なぜそのようなことをおっしゃるのですか。

 私は譲様のそばに最後までお仕えしたいのです。

 それが、私の恩返し――いえ償いなのです」


 必死に直政は食い下がる。 


「償い、か。それをしなくてはならないのは俺だ。

 すべての責は俺に――」

「違います!」


 直政が詰め寄る。

 これほどに必死な直政は初めて見た。


「こんなことになったのは、禍が起きたのは私のせいなのです。

 私が燕様の手紙をそのまま譲様にお渡ししていれば。

 譲様がお望みになったことを果たせていたら、こんなことにはならなかったでしょう」


 ああ、そういうことか。


 燕はちゃんと返答をしていた。だがその返事が俺に届かなかった。

 それははつに届いてしまったのだろう。


 返事がないからと俺は燕も宗正も逃げなかったのかと解釈した。

 そして結果として、二人を裏切ることになってしまったのか。



 だが、それがなんだというのか。

 それが二人の死を決定づけたわけではない。



「いや、すべては俺のせいだ。そもそも、二人を殺したのは俺だ。

 本心でどう思おうと、すべてを諦めて島のためと言い訳をして二人を殺した」

「ですがそれは、仕方のない事でした!」


 仕方がない。

 その言い訳が通用したのは過去の話だ。


「儀式を中止にすることは当主である俺にはできたはずだ。

 だが俺はそれをしなかった。諦めてしまった。

 そしてこの結果を招いた」

「譲様……」


 直政の子犬の目には涙がたまっていた。


「夜、夢の中で燕が呼ぶのだ」

「燕様が……」


 青白い顔で枕元に立つ燕。

 恨みがましい目で俺を見下ろしていた。


「俺が死ねば、この島の禍も一時おさまるだろう。

 その間に燕の魂が清められたら、きっとすべて終わるはず。

 葛西の家のものがすべてを終わらせてくれる」

「そんな、そんなこと……私は、譲様がいないと……」

「もういい。お前は何も悪くない。手紙を頼んだ」


 縋りつく直政の手に手紙を握らせる。


 これでいいはず。燕は俺を恨んでいる。

 俺が死ねば少しは怒りをおさめてくれるだろう。


 それが、俺にできる償いだ。



「直政、歴代当主の墓に宗正の遺骨を隠してある。

 それを手紙と一緒に葛西の家に渡してくれ。

 これはお前にしか頼めない。いいな」

「譲様……私は……」

「今まで、よくしてくれた。もう俺はそれで十分だ」



 俺の生はこれで終わる。



 燕、お前はこれを望んでいたのだろう。


 お前たち二人を死なせて、なぜ俺が一人のうのうと生きていられようか。


 俺もそちらに行く。そこでお前たちに詫び続ける。




「あとは任せる」

「譲様ッ!」


 首にあてた匕首あいくちの刃の冷たい感覚。

 刃を引いた一瞬だけ、それが熱く変化する。


 俺の首から噴き出す血しぶき。

 泣き叫ぶ直政の背後に、燕がいた。





   ごめんな、こんな兄様で。





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