最期
手紙を書いた。
宗正の死を伝えねばなるまい。
すべては俺のせいなのだから。
これでいい。
もう、これでしか道はない。俺にできることはこれしかない。
「直政です」
「入れ」
直政が来た。
思えば、こいつは馬鹿のように俺に尽くしてきた。
俺を恩人と慕い、俺のために今まで働いてくれた。
こいつにはどう責任を取ってやればいいだろう。
俺がいなくなれば、こいつはどうなるのだろうか。
「頼みたいことがある」
「何なりとお申し付けください」
馬鹿丁寧に直政は頭を下げる。
くしゃくしゃなつむじが見えた。
「この手紙を本土の『霊が見える葛西』へ届けてくれ」
「承りました」
「それから、手紙を届けた後はもうお前の奉仕は終わりだ。本土で自由にやれ」
「えっ?」
呆気にとられた顔で俺を見つめてくる。
「もう、お前は十分に俺に尽くしてくれた。
俺がいなくなれば、もうこの島にいる必要はなくなる。
身寄りのないお前はどこへでも行けるだろう。
自由にお前の人生を生きろ」
お前は当主として頼りない俺にずっと尽くしてくれた。
「なぜ、なぜそのようなことをおっしゃるのですか。
私は譲様のそばに最後までお仕えしたいのです。
それが、私の恩返し――いえ償いなのです」
必死に直政は食い下がる。
「償い、か。それをしなくてはならないのは俺だ。
すべての責は俺に――」
「違います!」
直政が詰め寄る。
これほどに必死な直政は初めて見た。
「こんなことになったのは、禍が起きたのは私のせいなのです。
私が燕様の手紙をそのまま譲様にお渡ししていれば。
譲様がお望みになったことを果たせていたら、こんなことにはならなかったでしょう」
ああ、そういうことか。
燕はちゃんと返答をしていた。だがその返事が俺に届かなかった。
それははつに届いてしまったのだろう。
返事がないからと俺は燕も宗正も逃げなかったのかと解釈した。
そして結果として、二人を裏切ることになってしまったのか。
だが、それがなんだというのか。
それが二人の死を決定づけたわけではない。
「いや、すべては俺のせいだ。そもそも、二人を殺したのは俺だ。
本心でどう思おうと、すべてを諦めて島のためと言い訳をして二人を殺した」
「ですがそれは、仕方のない事でした!」
仕方がない。
その言い訳が通用したのは過去の話だ。
「儀式を中止にすることは当主である俺にはできたはずだ。
だが俺はそれをしなかった。諦めてしまった。
そしてこの結果を招いた」
「譲様……」
直政の子犬の目には涙がたまっていた。
「夜、夢の中で燕が呼ぶのだ」
「燕様が……」
青白い顔で枕元に立つ燕。
恨みがましい目で俺を見下ろしていた。
「俺が死ねば、この島の禍も一時おさまるだろう。
その間に燕の魂が清められたら、きっとすべて終わるはず。
葛西の家のものがすべてを終わらせてくれる」
「そんな、そんなこと……私は、譲様がいないと……」
「もういい。お前は何も悪くない。手紙を頼んだ」
縋りつく直政の手に手紙を握らせる。
これでいいはず。燕は俺を恨んでいる。
俺が死ねば少しは怒りをおさめてくれるだろう。
それが、俺にできる償いだ。
「直政、歴代当主の墓に宗正の遺骨を隠してある。
それを手紙と一緒に葛西の家に渡してくれ。
これはお前にしか頼めない。いいな」
「譲様……私は……」
「今まで、よくしてくれた。もう俺はそれで十分だ」
俺の生はこれで終わる。
燕、お前はこれを望んでいたのだろう。
お前たち二人を死なせて、なぜ俺が一人のうのうと生きていられようか。
俺もそちらに行く。そこでお前たちに詫び続ける。
「あとは任せる」
「譲様ッ!」
首にあてた匕首の刃の冷たい感覚。
刃を引いた一瞬だけ、それが熱く変化する。
俺の首から噴き出す血しぶき。
泣き叫ぶ直政の背後に、燕がいた。
ごめんな、こんな兄様で。




